第29話 町を守る戦い 〜その2〜
中央広場には、今だ逃げ惑う人たちが多くいた。
空を飛び交う
落ちた小瓶は割れると同時に炎を巻き上げ、建物に火をつけた。
炎に驚き足を止めた住人目掛けて、一機の
背中に矢を受けた住人は、そのままうつ伏せに崩れ落ちた。
な、なんなんだよ……これは……!
毎日炊き出しや夕餉の買い物で賑わう広場が、今は恐怖の坩堝と化していた。
あまりにも突然の事すぎて、
だけど悔しさや怒りやもどかしさが混ざり合い、ジワジワと心の底から湧き上がる。
ボクの目の前で、泣きながら逃げる女の子が躓いて転んだ。
一機の
硬直した体がようやく動いた。
———あの子を守らないと!
だけど、現実は無情だ。
差し出したボクの手が届く前に、
女の子を小脇に抱え、そのまま上昇していく。
「いやー! だ、誰か! た、助けてー!」
女の子の叫び声が、上空からボクの頭上に降り注がれた。
———ま、待って! その子を離して!
膝を付いて見上げる事しかできない自分に、ほとほと嫌気がさしてくる。
———なんて無力なんだボクは。何が保安部だよ。……チクショウ! チクショウ! チクショウ!!
背後から放たれた風の
それが
唖然と見上げるボクの脇を、アルフォンスが駆け抜ける。巧みに手綱を操り落下地点に到達すると、女の子をしっかりと受け止めた。
「あ、アルフォンスさん……!」
助けられた女の子が、その顔を見上げて「ひぅ」っと息を飲む。自分の顔を見てさらに泣き出しそうになる前に、女の子を部下に手渡しアルフォンスがボクに言う。
「カズキ……主は優しすぎるな。我ら保安部は『モン・フェリヴィント』の住人を守るのが任務だが、ままならない事もある。より一人でも多くの人を助ける為、時には冷酷な判断を下す事もある。一人の命に一喜一憂している様では、多くの命は救えない。保安部員としては失格だ」
冷徹な表情で見下すアルフォンスは、口の端を上げて言葉を続けた。
「だけど……俺は嫌いじゃないぞ、そういう熱い奴は。……ここは任せろ。カズキたちはヴェルナード様に協力して、逃げる住人を誘導するのだ」
———アルフォンスさん!
ボクはコクリと頷くと、倒れたマシンを素早く起こした。それを見てジェスターがボクの後ろに飛び乗ってくる。
「……カズキ。俺たちにできる事だけをやろう。カズキの特技はなんだ?」
「ボクの特技は……誰よりも速く走る事だよ!」
アクセルを全開に前輪を浮かせつつ、広場を突っ切り町の西へと走らせた。
アルフォンスたちが中央広場で応戦してくれるおかげで、上空の
ボクたちは所々で聞こえてくる叫声目掛けて突き進んだ。
「中央広場は危険だよ! 迂回して東の出口に向かうんだ!」
「待て! そっちは上空に空賊がいる! もう二つ向こうの路地から逃げた方がいい!」
このまま放っておいたら、逃げる人たちを追いかけていきそうだ。
「カズキ! あれ! アイツ、逃げる人たちの方へ向かうぞ!」
「わかってる! ……やるよジェスター!」
「……え? 何を」
ジェスターの言葉を最後まで聞かず、ボクは道の目立つ場所まで
アクセルを空吹かして、エンジンをガルンガルンと響かせた。
「やーい! こっちこっち! ボクとどっちが速いか勝負してみない? どうせアンタが負けるに決まってるけどね。……悔しかったら、追いかけてきなよ!」
上空で旋回しながら獲物を吟味していた
自信たっぷりな物珍しい獲物の登場に、案の定、
よし! 予定通りだよ! あとはコイツを振り切って……。
追ってきた
「「うわわわっ!?」」
走るマシンのすぐ横で、ボン! ボン! と小さな炎が炸裂した。
慌てたボクは、それでもなんとかマシンを立て直す。巻き上がる火の粉を掻い潜り、後輪を滑らせながら素早く路地へと身を隠した。
そのまま建物の影で
ボクらを見失った
「ふぃー! 危ない危ない。まさか火炎瓶を投げつけてくるなんて思わなかったよ」
「おいカズキ! もうちょっと考えて行動しろよな! さっきやれる事だけをしようって、俺、言ったよな!? 自殺行為はやめてくれ!」
「ま、まあまあ。逃げる人たちの時間を稼いだし、無事だったんだから結果オーライって事で許してくれよ」
どうやらジェスターとボクの間でやれる事の認識が食い違っていたらしい。
ボクはあんなハンググライダーもどきくらい、余裕でぶっちぎれる自信がある。だけどバディのジェスターにこうも涙目で言われたら、これからは自粛するしかない。
「あいつらは武器を持っているからな。そのつもりで……」
ジェスターの言葉を掻き消すくらいの大きな叫び声が、風を切り裂き聞こえてきた。
会話を中断してボクたちは、周りに意識を集中させる。するともう一度、同じ声色の悲痛な声が響く。
「……左隣の通りだ! カズキ! 来た道を戻った方が早い!」
ジェスターの声に反応して、
路地を出て道を戻り左折を二回、左の通りに差し掛かる。
少し細いその通りの道半ばには、一人の女性が倒れていた。その奥からは
「ジェスター! 一旦降りてくれ! 障害物が多すぎる!」
「……ええいくそっ! どうせ行くなと言っても聞かないんだろっ! いいか、絶対無茶だけはするなよなっ!」
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