第61話 航行部と今後の戦略 〜その2〜
「ナターエル。諸々の事情により其方への連絡が遅くなってすまない」
「いえ、お気になさらず。我らの任務は風竜の航路管理が第一優先です。『モン・フェリヴィント』内での禍乱には動じる事なかれと、常々部員に下知しております故」
軽く頭を下げたヴェルナードに対し、ナターエルと呼ばれたその人は掌を見せ恐縮の意を表した。
「……昨日伝書に
「かしこまりました。ではこちらへ」
護衛の保安部員をその場に残し、ボクとヴェルナード、アルフォンス、クラウスの四人は部屋中央にある緑色の球体の側までナターエルに導かれる。
球体の真下の台座に向かい作業をする部員に声を掛けると、緑色の球体上の一つの光点が強く輝き出す。そしてその光点から一筋の線が延び始めると、球体をぐるりと一周した。
「この光点が風竜の現在位置です。今描かれた軌跡が風竜の航路となります」
ナターエルが台座の部員にもう一度合図を送ると、今度は新しく四つの光点が出現した。四つとも、風竜の航路と言われた光の線にほど近い。
「風竜の航路上から目視するしか手段はなく、この四つの光が、現在航行部が把握している銀幕の所在です」
皆がナターエルの説明を聞きながら球体を凝視しているその間、きっとボクだけは全く別の事を考えていたに違いない。
……こんなSFチックな部署があるだなんて! この部署で働くのも悪くないかも!
ただ、よーく見ると台座の大部分は木製で鉄はあまり使われていなかったり、SF映画でよくある様なスイッチやメカニカルな計器類と言ったものはない。
台座に座るほとんどの部員が鉄製のレバーの様なものを握っているだけだったりと、製作費の安い映画のセットの様ではあるが、マシンやボートをこよなく愛するボクと通づる所は随所にある筈だ。
きっとここの長であるナターエルとは、熱く語り合える気がしてならない。
だけど、この未完成な地球儀みたいなものは一体どういう仕組みなのだろうか。まさかこれも例の加護の力……?
「……ねえ、この緑の球体ももしかして、加護の力ってヤツを使って作っているの?」
「うむ。航行部員が加護の力で、風竜の航路図を具現化しているのだ」
アルフォンスが球体を見上げたままそう答える。
「航路図と言っても、残念ながらそんなに大層なものではないのです。航路を変えない風竜ですから、地形の把握範囲はとても狭いのです」
アルフォンスの返答に、ナターエルが補足した。
確かに言われてみれば、航路を示す光の線の周りには、うっすらとだけど陸地と海を隔てる海岸線らしきものも見える。
ただ、その範囲はあまりにも狭い。他の部分はツルッとした緑色の球体のままだ。
「だけど航行部の任務はそれだけではないのですよ、お嬢さん。この建物の両側に太い鉄管があったでしょう? あれは『風力管』と言って、風竜の両翼まで延びていて、そこに排出口があるのです。
なんと数十人がかりでこの風竜を微力ながらも操縦していると言うではないか!
これはもう、立派な
……うん! このダンディーなオジサマとはマブダチになれそうな予感がするよ!
引き締まった表情に心地よい笑みを浮かべたナターエルに、ボクもとびっきりの笑顔で返す。
「さて、『モン・フェリヴィント』について全くの知識がないカズキへの講習会はこれで終了しても良いだろうか。そろそろ本題へと入りたいのだが、まだ何か聞き足りない事があるのなら、後々になると煩わしいので今のうちに拝聴するがいい」
せっかくのいい気分がぶち壊しだよヴェルナードさん!! 言い方! 言い方をもっと考えようよ!
ボクがプイッと横を向くと、ヴェルナードがため息と同時に本題に入る。
「ナターエル。一番近い銀幕と次に近い銀幕までの日程を算出して欲しい」
「かしこまりました。……皆、聞いたであろう。すぐに準備に取り掛かるのだ」
航行部員たちの小気味よい返事が、ナターエルの言葉の後を追った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます