第23話 火竜『メーゼラス』 〜その3〜

 ボクらに向けられた矛先が、キラリと陽光を反射する。


 ボクとヴェルナードとクラウス、そして鬼太○フォーメーションズの計九人は、30人近くに囲まれてしまった。ジリジリと槍先の包囲が狭まってくる。


「ヴェルナード。母竜の話やマーズ……つったっけ? その話を頭ごなしに全部疑ってる訳じゃねぇ。一応の筋道も通ってるしな。だが、会って間もないお前らを信用するには決定打に欠ける。隠し持っている手の内をすべて見せてみろ。そして俺を納得させてみやがれ。じゃないと……」


 並走している風竜が、少しずつ離れていく。並走する時間———二時間が経ってしまったのだ。


「……時間もないし、お前らの故郷にも帰れなくなるぜ」


 イラリオの視線が、一際鋭くとがり出した。触れれば切れそうなその視線をヴェルナードは受け流すとボクを見る。そして小さく頷いた。


 ヴェルナードさんの合図だ! ……できれば隠しておきたかったんだけど、仕方ないよね!


 ボクは周りを警戒しながら、ゆっくりとリュックを地に下ろす。衛兵の矛先がボクに向けられるのを、ヴェルナードとクラウスが立ち塞がり、その身で制してくれた。

 なるべく周りを刺激しない様に、慎重に慎重を重ねリュックを開けると、そっと中に手を入れる。取り囲む衛兵たちの、固唾を飲む音が聞こえてきた。


 そして一気にマクリーを引っこ抜く! 

 マクリーはどんぐりをむしゃむしゃ頬張っていた。


「「「「「「———っっ!?」」」」」」


 衛兵はおろかイラリオとマクシムも見たことのない生き物の登場に、その表情が固まった。


「マクリー! アンタの出番だよっ! 早く風竜を呼び寄せて!」


「むぐむぐ……ちょっと待って……むぐ、くださいね。むぐむぐ、ごっくん」



 ……なんて緊張感のない生き物だろう。



 マクリーは毒気の抜かれたイラリオたちをチラリと見ると、風竜に向かって共鳴の雄叫びを発した。


「アオオオオオオオオオオオォォォォンンン!!」


 離れ始めた風竜は、呼び戻される様にして元の位置まで航路を戻すと、再び並走を始めた。風竜の断崖には、戦闘態勢を整えたアルフォンスたちと上空を旋回する人翼滑空機スカイ・グライダーが15機ほど。いつでも攻撃できる体勢だ。


「これが私の奥の手だ、イラリオ。我々は風竜を操れるのだ。私の合図ですぐにでも攻撃をする準備が整っている。もちろんそうなれば、ここにいる私たちの命も危ういが……イラリオ。其方らも無事では済まされまい」


「ふ……ふはははははははは! いや、こりゃ参った! まさかこの俺が駆け引きで後手を取るとはな! やっぱり世界は広いなぁ、ええ? マクシム。お前もそう思うだろう? ふはははははは!」


「まあ……それは認めるけど……」


 可笑しくて笑いが止まらないイラリオと、やり込められて釈然としないマクシムの表情は完全に真逆だった。しばらく笑い続けていたイラリオだが、少しずつ真顔に戻るとヴェルナードを見て、むつまじげな表情を浮かべ出した。


「ヴェルナードよぉ、お前の話、信じるぜ。竜を自在に操れるんだ。母竜の意思に触れたのも、銀幕を破壊したのも嘘じゃないんだろうさ」


「では我々と」


「だが! 共闘となれば話は別だ。お前たちの力が見たい。俺たちを納得させてくれよ……共闘に値する者たちかどうかをな!」


 ヴェルナードの言葉を遮って、イラリオが強い言葉で言い放つ。ヴェルナードが小さく頷くと、イラリオは衛兵に向かって大きく吠えた。


「———レース競走だ! 『メーゼラス』のレース競走を開始するぞ! 皆、準備を急げ! 他の者たちも作業の手を休めて、観戦するように伝えてこい!」

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