第22話 火竜『メーゼラス』 〜その2〜

 イラリオとマクシムに導かれ建物の外に出ると、護衛が10人ほど駆け寄ってくる。ボクたちはイラリオたちと護衛に挟まれる格好で、『メーゼラス』を案内された。


 採石場に似た竜の背で、大勢の人間が採石作業に精を出すこの『メーゼラス』にきて思った事が一つある。ほとんどの人が赤髪なのだ。唯一の黒髪だったのは、最初に建物へと案内してくれた人くらいだ。


「おいヴェルナード。お前んとこの竜にも、加護の力ってヤツはあるのか?」


「ああ。我らの神竜は風竜と呼ぶ。風竜からの加護を、我らは風の力に変えている。我らの乗ってきた人翼滑空機スカイ・グライダーも、その力を推進力に利用している」


 結構馬鹿正直に答えるんだな、なんてボクは思ってしまったけど、信用を得るためには仕方がない。胸襟を開いて話す姿勢をこちらから見せなければ、相手は同じ目線にすら立ってはくれないだろう。


 イラリオにもそれが伝わったのだろうか。彼は少しだけ歩くのを止め、目を見開く。そして、すぐに歩き始めると採石場を指差した。


「アレが見えるか?」


 指し示した先の岩場には、赤い大きな石が埋もれていた。それを数人かかりで丁寧に、取り出している最中の様だ。


「俺たちの火竜からはな、あの竜紅石りゅうこうせきが取れるんだ。あれは不思議な石でな、熱すると爆発的な威力を発揮する。俺たちは加護の力で竜紅石りゅうこうせきを熱して、色々な物に活用している。お前らの様に空を飛ぶ乗り物———人翼射出機スカイ・ジェットもその一つだ」


 ちょっと待って。ジェット……今、ジェットって言った!?


「イラリオさん! そこ、もっと詳しく! ジェットについて、もっとちゃんとハッキリと教えて!」


「……なんだ、このボウズは」


「ちょっ! ボクは女だ! ……ってまあいいよ。今回は大目に見るから、ジェットの部分を詳しく教えてちむごぅ!?」


 クラウスが笑顔でボクの口を抑えてきた。


「すまないイラリオ。この……カズキは、乗り物の事に異常なまでの執着心を持っているのだ。……気分を害したのなら、私が代わりに詫びよう」


「いや……気分を悪くする訳ねぇ。むしろ興味を持ってくれて嬉しいくらいだ。ありがとな。で、ちょっと話が逸れちまったが、その竜紅石りゅうこうせきを色々活用して生活してるってわけだ。さっき振る舞った『石焼茶』もその竜紅石りゅうこうせきを乾燥させて毒気を抜いた嗜好品だ」


「なるほど。神竜によってその特性までもが違うのか。これは有益な情報だ。感謝する」


 ヴェルナードが軽く頭を下げると、イラリオはまたも歩きながら話を続けた。


「そして加護の力で竜紅石りゅうこうせきを使うと、髪の毛が次第に赤へと変色する。この『メーゼラス』ではな、真紅の髪ほど尊敬の対象とされる。そして最も尊敬の証とされるのが、誰よりも速く飛ぶ事だ」



 ———辛抱たまらん! 



 ボクはクラウスの手を振り解いて、イラリオに詰め寄った。


「イラリオさん! わかる! わかるよその気持ち! 速さってやっぱり美しいよね! 正義だよね! いや、もはや罪とも言えるかな!? 速さが尊敬の証なんてさ、最高じゃない『メーゼラス』! ボク、この『メーゼラス』の事を一瞬で好きになったよ!」


 イラリオとマクシムはきょとんとした顔で、瞳が潤んだボクを見た。


「ふ……ふっはははははははは! そうか! この『メーゼラス』の事が好きか! 初対面でそこまで小気味よく褒められれば、悪い気はしないな! ……ヴェルナード。お前、いい部下を連れてきたな」


「あ、ああ。カズキは自分の気持ちに正直な故。口調が無作法なのは許して欲しい」


「いや、そんな細かい事は気にしねぇさ。どんな綺麗な言葉を重ねようが、筋道立てた理屈を並べられようが、本気の感情に勝るものはねえ。……カズキって言ったか? さっきはすまなかったな、お前を男と勘違いしちまって」


 イラリオがボクに軽く頭を下げる。護衛の部下たちが驚愕の表情を浮かべた。


「え、いいよそんな謝らなくても。ボクが男と間違えられるのはもう慣れてるし」


 頭を上げたイラリオはにっと笑い、踵を返して歩き出す。階段を登ると、鬼太○フォーメーションズとボクらの機体が待機している場所まで戻っていた。


 そして唐突に、イラリオに付き添ってきた護衛と、崖の上の護衛が合流すると、ボクらは一瞬の内に包囲された。


「……俺もお前ら……特にカズキの事を好きになりかけたんだけどな。ここからは大人の話だ。悪く思うなよ。……さてヴェルナード。そろそろお前の切り札ってヤツを見せてもらおうか」

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