第39話 核(コア)との攻防

 人翼滑空機スカイ・グライダーから放たれた五発の飛礫つぶてが闇を切り裂き、コアとの距離を詰めていく。


「マクリー! 三連射!」


 ボクの竜翼競艇機スカイ・ボートには固定式の三点バースト砲しか付いていない。なのでここは質より数で勝負する。マクシムもライフルを構え、乾いた発砲音を立て続けに響かせた。

 ボクの竜翼競艇機スカイ・ボートとマクシムの人翼射出機スカイ・ジェットを数に入れても、この場の機体は全部で七機。前回の核との戦闘を鑑みても、心許ない数でもあるし火力不足も否めない。


 だけど、ボクたちには胸を張って誇れるモノがある。

 それは滾る勇気と機動力だ。


 感情のないコアには持ち合わせてない、ボクらが絶対的に勝るその武器で掴みとった先制攻撃。

 この場にいる誰しもが回避は不可能、直撃すると確信した。

 だけどコアが次に選んだ行動に、ボクらは驚愕させられる。


 コアは逃げもせず、背に生えた大きな翼で自分の本体を覆い隠した。まるで形が歪な大きな卵のようだ。風の飛礫つぶては翼に当たるとその曲面を滑るようにしてコアに吸収されることなく、その軌道を逸らされてしまった。


「———なっ!? 飛礫を弾いただと!?」


 驚きを露わにしたクラウスがもう一射。だけど結果はやっぱり同じ。翼の盾の前に飛礫つぶての弾丸は弾かれて、後方へと消えていく。


 ……ちょ、ちょっとなんだよこのコアは! 一体どうなっているの!?


 苦虫を噛み潰した顔のクラウスが、人翼滑空機スカイ・グライダーをボクの側まで寄せてきた。


「……まいったね、こりゃ。嬢ちゃんの立てた作戦だと、風の飛礫つぶての攻撃でコアを膨張させて最後はマクリー砲で止めを刺す……確かこの筋書きだったよな?」


「……うん。飛礫つぶての攻撃で加護の力を吸わせるだけ吸わせて、コアをパンパンに膨らませる。そして、マクリー砲で一気にエネルギーを送り込む作戦なんだけど……まさか飛礫つぶてが弾かれるなんて、考えてもなかったよ」

 

 前の銀幕の主だったクラゲ型コアは、本体だろうが触手だろうが、風の飛礫つぶてが当たりさえすれば、そのエネルギーを吸い取って少しずつ大きくなっていったらしい。

 しかし、この銀幕のコアはその形状も違う上、翼の盾で飛礫つぶての攻撃を弾き返し、さらには小さな分身体も生み出してくる。


 間違いなく前回のコアよりも、この目の前に悠然と浮遊する獅子型コアのほうが格上だ。もしかしてだけど、前回の戦いの結果を知ったマーズが、このコアに特殊能力を与えた可能性だって捨てきれない。

 完全に戦闘を想定したコアの形状と能力なのだ。やはりここはほぼ確実に、マーズが関与していると読んでいいだろう。


「さてと、どうしたもんかね……俺たちが望むのは超短期決戦だ。今回は機体数も少ないし、地上のヴェルナード様たちのことも心配だ」


「よし! ここは俺様の出番だな!」


 後方から威勢のよい声が耳に届く。ボクとクラウスが振り返ると、いつの間にやらそこにいた、不敵な笑みを浮かべるマクシムの姿。


「ちょっとマクシム。今の見ていたでしょ? アンタのライフルだって、ものの見事に弾き返されてたじゃないか」


「カズキ、俺様の人翼射出機スカイ・ジェットをナメるなよ。まだカズキには見せていない奥の手があるんだぜ!」


 マクシムは自信たっぷりの顔でボクをチラリと見た後に、前方のコアに向かい緩んだ顔を引き締める。


「それじゃぁよ! ちょっくら行ってくるぜ!」


 そう言い残し、ボクとクラウスの間を割るように、マクシムの人翼射出機スカイ・ジェットコアに向かって飛び出した。


「……ちょ、ちょっとマクシム! 一人じゃ危険だって!」


「ちっ、まったくあの坊ちゃんは……。嬢ちゃんは航空部員俺たちの切り札だろ、ここで待機だ。マクシムの援護は俺たちに任せろ。———コルネーリオ! 付いてこい! 他は戦闘体勢を維持したまま、嬢ちゃんを守れ!」


「「「はい!」」」


 コアへと向かうマクシムに、クラウスとコルネーリオが追従する。マクシムはコアの手前でほぼ真上に急上昇。上空で機体をひるがえすと、さながら獲物を捕らえた猛禽類の如く、今度は急降下で加速した。


「へへへ。カズキ見てろよ! ———俺様のとっておきの攻撃をよぉぉ!」


 絶叫と共にマクシムの体が発光する。彼を光源とした赤い光は、人翼射出機スカイ・ジェットのフレームに何本ものラインを生み出して、ランダムに機体の上部へと向かって伸びていく。その到達点は、翼に取り付けられた外側二本のブースターだ。

 這い上がる赤いラインが集約したブースターは一瞬発光すると、噴出口から緋色の推進力ジェットを噴流させた。


 人翼射出機スカイ・ジェット十八番おはこ、ジェット飛行だ。


 だがマクシムは人翼射出機スカイ・ジェットが加速する前に、鋭く吠えた。


「ブースター強制解除! 喰らいやがれ! ブースター弾、発射!」


 機体から切り離された二本のブースターは赤い尾をなびかせて、まるでミサイルのようにコアに向かって飛んでいく。

 竜紅石りゅうこうせきがたっぷりと詰まったブースターがコアの右翼に命中すると、眩しい赤い閃光が周囲を照らす。そして一拍時間ときを置くと、激しい爆発を生み出した。

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