第19話 来たるべき日に備えて

 次の非番の日。


 ボクは生活班の家畜小屋の奥に建てられた、新しい小屋へと足を向けた。

 小屋の取り囲む様にして保安部員が並び立っている。この小屋の中に空賊が収容されているからだ。


 小屋の周りをうろうろしていると、アルフォンスの姿が目に飛び込んできた。

 ボクは駆け寄り問いかける。


「アルフォンスさん。何人捕縛できたの?」


「18人だ。最初にしては上出来だと思うぞ、カズキ」


 18人……40機は撃墜して、大体半分か。できれば全員助けてあげたかったけど……。


 空賊たちはこれから保安部監視の元、ばっちり労働をしてもらう事になっている。だけどそのかわり、『モン・フェリヴィント』ご自慢の美味しい食事を十二分に提供する。サボっている人は食事抜きだ。加えて五日に一日の休暇を与え、数人ずつ『モン・フェリヴィント』内を案内する。宣伝布教活動も抜かりはない。

 空賊のリーダーらしき人物から聞き取った情報によると、空賊たちの根城は北の方角との事だ。偶然にも風竜の進路と同方向。なので今回は40日拘束した後、陸地に降りて、空賊たちを解放する事に決定した。


 空賊の件は、保安部に任せておけば大丈夫。 


 それより首脳陣は今、別の事で頭を悩ませているのだ。



   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「例の日まであと30日を切りました。ヴェルナード様、今回はどの様に対処するおつもりでしょうか?」


 やや緊張した空気感に、ゲートルードの声が混ざり合う。


 数日後の昼下がり。場所は保安部の大会議室。『モン・フェリヴィント』の全部署の『3つの月章サード・ムーン』以上が、この場に全員揃っていた。

 総勢13人の上級将校月持ちの中に、ボクとマクリーがぽつねんといるのは何故だろうか。


「今回は接触を試みてみようと思う。もちろん相手の出方次第でどのような状況になるかも分からない。どんな状況下になろうとも対応できる様に、今から策を講じておこう」


 あと一ヶ月もすると、ある出来事が勃発する。

 それは四体いる他の神竜とのランデブー。まるで誕生日を迎えるの様に、毎年決まった日に一体の神竜と急接近するらしいのだ。


 時間にしたら二時間ほど、風竜と同等の大きさの神竜が並走する。そして袂を分かつが如く、また別々の進路へと舵を取る。


 いつもなら、風竜の進行方向から見たら西側を並走する神竜に対して、左の背の崖に保安部を並べ、航空戦闘部が緊急発進スクランブルできる体制を整える。だけど今回はマクリーの母———母竜の意志を伝えなければならない。それが母竜から託された役目でもあるし、銀幕破壊の協力も取り付けたい。


 なので睨み合いを続けるだけの関係に終止符を打ち、友好を結ぶ。結びたいが、にしても、与えられた時間はあまりにも短く、相手の情報など一切合切分からない状況だ。


 そしてこちらから歩み寄ろうとするならば、相手は主張や見返りを要求してくるかも知れない。母竜の意思とはいえ、言い出した側が譲歩してある程度は飲まないと、聞く耳すら持ってくれない可能性だってある。そもそも『母竜の意思』と言ったところで、それを信じてくれるかだって怪しい訳で。


 ———すべてが推測の域を出ない。だからこその会議なのだ。


 事前に推論できる状況を可能な限り想定して、対応策を練りに練る。


 各部のリーダーたちが額を付き合わせて話し合う中、意思の籠ったヴェルナードの声が場の空気を支配した。


「まずは私が、神竜の主に向けて手紙を飛ばす。毎年睨み合いだけ続けてきた相手からの手紙だ。きっと興味を持つだろう。そしておそらくは———」



 長い会議がようやく終わると、将校たちは大会議室からそれぞれに散っていく。

 こらから一ヶ月後のその日まで、各部与えられた役割に向けて準備が始まるのだ。



 ボクも自分の役割を再確認する。

 まずはなかなか成果の出ない、マクリーの射撃精度を上げないと。



 来たるべき日は、刻一刻と近づいていた。

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