第46話 カウントダウン

 頭上ではクラウスたちが戦っている。


 ボクは大きく迂回をして、所定の位置で空中停止をしてその時を待っていた。マーズから見ればやや下方。上空に気を取られているマーズは、ボクの存在にまだ気づいてはいない。


 マクシムと打ち合わせた時間まで、あと15秒。


 マクシムから受け取った加護の力は、ボクの右手をうっすらと淡く赤く包んでいる。その手に宿る温もりを確かめるように、ぎゅっと手のひらを握り込み。


「……ねえ、マクリー。アンタさ、この世界が平和になったら何がしてみたい?」


 不意に、そんなことを聞いてみた。


 特に深い意味があったわけじゃない。これから起こる大一番を前に、緊張をほぐすために尋ねた、何気ない一言だった。


「ん〜〜〜、そうですねぇ。吾輩は、カズキと一緒にいろんなところに行ってみたいのです」


「いろんなところ……?」


「だって前にカズキが話してくれたじゃないですか。『モン・フェリヴィント』よりもっと広くて楽しいところが、たくさんあるって。吾輩、川や海で魚を捕まえてみたいし、大きな山に登って、綺麗な景色も見てみたい。マクシムも最初は嫌な人だと思っていましたが、意外にいい人で……いろんな人ともっと話をしてみたい。……もちろんカズキと一緒にです」


 なんてことはない、些細な願望だった。

 地球なら叶えることは難しくない、誰もが気にも留めさえしないことだ。


「……そうだね。アンタはまだ一歳にもなってないんだ。世の中ってもっと楽しいことがたくさんあるんだ。マクリーが食べたことのない、木の実や果物だってたくさんあるんだよ」


「本当ですか!? 絶対に食べてみたいのです!」


 マクリーの上擦った声が伝声管から届いてくる。


「うん、きっと食べれるよ。でもアンタはちょっと太り気味だから、量は少し減らさないとね」


 マクリーの少し怒った否定の声も、今はとても心地がいい。

 あと、10秒。


「……ねえ、カズキ? 吾輩たちは、いつまでも一緒にいられますよね?」


「……そうだね。ボクは親代わり、なんだろ? じゃあアンタが大人になるまでは、しっかり面倒を見ないといけないね」


 だったら、この戦いは負けられない。


 残り5秒でボクは右手に灯ったマクシムの加護の光で、左瞼に十字を描く。

 片目を瞑った視界には、緑と赤が混じり合った照準が、くっきりと浮かび上がっている。


 気休めかもしれない。

 だけど、きっと。


 マクシムの、マクリーの、そしてみんなの想いが導いてくれる、そんな気がする。


 カウントはついに0。


 クラウスたち人翼滑空機スカイ・グライダー全機が一斉に残りの力を絞り切り攻撃して、マーズの注意を引きつける。その後は、上空に向かって航路をとった。


 その動きに合わせて、少し離れた場所から赤い噴射を撒き散らし、マクシムのブースター弾が放たれた。


「はは! そんな原始的な攻撃、この僕がそう簡単に当たるとでも思っているのかい?」


 分かっているよ、そんなこと。

 だからボクがここにいるんだ。


 勢いよく放たれたマクシムのブースター弾を、マーズが交わしたその刹那。


「マクリー砲【ライト】発射!」


 船首から放たれたマクリー砲は、ブースター弾の軌道の先を読み。

 マーズがそれを交わしたその直後、ブースター弾を確かに貫いた。

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