第45話 無謀な策
マクリー砲の鋭利な閃光が、躊躇いもなく真っ直ぐにマーズへと向かう。
マーズはこちらに気づいていない。死角からの不意をついた一撃だった。……はずなのに。
マーズは直前で察知すると恐るべき瞬発力で体を仰け反らせ、間一髪でマクリー砲を回避した。
「……ふぅ、危ない危ない。そんな奥の手を、君は隠し持っていたんだ。これで少しは楽しませてくれそうだね」
———躱された! 絶対当たると思ったのに!
マーズは地上への無慈悲な攻撃をやめると、ボクのほうへと向き直った。
感情が欠落した銀色の相貌が、ボクの体の自由を奪う。およそ子供の体とは思えないほどの殺気と威圧感が、マーズの周囲を支配していた。
ボクも対抗するように睨み返す。
———気持ちじゃ絶対に負けないんだからっ!
だけど、この攻撃でわかったことが一つ。
加護の力の飛礫弾は、マーズに当たりさえすればそれなりのダメージを与えられるのかもしれない。
でなければ、あんなに必死になってまで、攻撃を躱す必要はない。
微々たるものかもしれないけど、当たりさえすればダメージを与えられる、蓄積されていく。そう、きっと。
「クラウスさん! 全機で総攻撃! 攻撃が当たりさえすれば、マーズにだって効くはずだよ!」
クラウスたちに残された力は、あと僅かだ。それをわかっているからこそ、マーズが地上へ攻撃するのに飛び出したい気持ちを押し殺し、冷静に分析していたんだと思う。
そして今の一撃を見て、頭の切れるクラウスなら。
「みんな! 嬢ちゃんに続け! いいか! なるべく散開して多方向から攻撃するんだ!」
予想通り、気づいたらしい。
マーズの防御は鉄壁だ。
だけど言い換えれば、鉄壁にしなければならないほど、攻撃を受ける耐性はないのかもしれない。
クラウス率いる
だけど相手もさることながら。
マーズは小さな銀の盾を左手に構え弾き返し、右手のひらで打ち落とし、多方向から襲いかかる無数の飛礫弾を防いでいる。ただ、さっきまでの余裕はないのか、マーズの顔からは笑みが掻き消されていた。
———パーン!
クラウスたち航空戦闘部が奮迅の猛攻を見せる中、乾いた発砲音が鳴り響いた。
音の発生源へと皆が視線を向けると、そこには銃口からうっすらと赤い煙を立ち上らせて、ライフルを構えたマクシムが。
マーズの頬に赤い線が浮かび上がる。そして、ぷくっと赤い液体が裂傷に沿って生み出された。
「……僕の顔に…………おまえだけは許さない……!」
マーズが眉間を寄せてマクシムに標的を定め、防御に充てていた右手から銀弾を連射した。
殺気を孕んだ複数の銀弾がマクシムへと迫っていく。だがクラウスたちより距離をとっていたマクシムは持ち前の機動力を発揮して、嘲笑うかのように躱していく。
「おっと! あぶねえ! へへ、そんな攻撃になんて当たるもんかよ!」
マクシムへの攻撃に固執したマーズに向かい、クラウスたちも攻撃を再開する。
今度はマーズが防御にまわる。その隙に、再びマクシムからの発砲音。
ライフルの弾頭は左手の盾を水面のように貫いて、マーズの髪を揺らすだけにとどまった。
———だけど!
ボクは一旦戦線離脱。
「マクシム! アンタのライフルはマーズに効くみたい! 盾を貫通したよ! すぐ穴は塞がっちゃったけど」
「ああ、どうやら加護の力の塊より、実体があるもののほうが、アイツには効きそうだな。だけどよ、あんなに動き回られちゃ、なかなか正確に狙うのは難しいな。味方の機体も飛び回っているしよぉ」
「そっか、そうだよね。近づいたらアンタ、真っ先に狙われそうだしね」
「俺様は別に怖がっちゃいないぞ! カズキが望むなら、接近戦であの小僧を撃ち落としてやる!」
いや、望んじゃいないし。それにマクシムは一応賓客なので、できれば危険は避けて欲しい。
だけど、物理攻撃がマーズにとっても有効なことは判明した。
クラウスたちは今も尚、マーズ相手に健闘している。だけど核との戦いで、相当加護の力を削られているはず。そんなに長くは戦えないだろう。
考えろ。何か、何か手は……!
それは突然降り注がれた一筋の光。暁光だった。
ボクは操縦席から身を乗り出して、マクシムの頭に腕を回す。
「マクシム! ちょっと側に寄って! 耳を貸して!」
「お、おい! な、なんだよカズキ。そんなに近くに寄られたら……」
ボクは舞い降りたアイデアをマクシムに話す。最初は頬を赤らめていたマクシムも、次第に火照りが消え去って、真顔になってボクを見る。
「か、カズキ……そりゃいくらなんでも、無理じゃないのか?」
「できるかどうかなんて、やってみなきゃわからないじゃんか! それにこのままじゃ、戦況は何も変わらないよ!」
「……分かった。だけどその豆鉄砲じゃ、無理だからな」
「うん、こっちはマクリー砲を使うよ」
そうしてボクは、マクシムにそっと手を差し出した。
「ん。マクシムも手、出して。アンタの加護の力を、少しだけボクにちょうだい」
「そんなことしたって、変わらないと思うぞ」
「おまじないだよ。この作戦が、うまくいくように」
照れながら差し出したマクシムの手を握ると、彼の手が赤く発光する。
少し刺々しいけど、温かい光。それがボクの右手に乗り移る。
「じゃあ、行くね。時間はきっちり30秒後。絶対うまくいくから!」
ボクは
「クラウスさん! 20秒経ったら、皆で一斉に攻撃をして、マーズの側から離脱して! 向かう先は上ね! 上に逃げて!」
「おい待て嬢ちゃん! 何言ってるんだ! せめてもうちょっと説明を」
「今はそんな時間はないの! お願いだから!」
言うだけ言って、ボクはすぐさま飛び去った。後ろから「くそっ! わかったよ!」と、飄々としたクラウスからはあまり聞き慣れない言葉を背中で聞きながら、ボクは
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