〜第二章〜

プロローグ

 ————最初の銀幕を破壊してからおよそ三ヶ月が経過した、ある日の出来事。


 

 広闊こうかつな空はどこまでも青く深く、ところどころに浮かぶ雲を立体的に映し出している。その空を挟み込む様に、長く続く断崖が左右に延びていた。


 片側の断崖の一際高い頂きには、二人の男が肩を並べて立っている。一人は『モン・フェリヴィント』を束ねる若きリーダー、ヴェルナードだ。少しクセのあるマリンブルーの髪が、風に煽られ靡いていた。


「……二人とも、準備に抜かりはないな? これより『メーゼラス』の掟に則った、レース競争を開始する。ヴェルナード、お前が開始の号砲を撃て」


 もう一人———真紅に染まった髪の男にそう言われると、ヴェルナードは鞘から剣を引き抜いた。


 均整のとれた体を軸として、刀身を高々と天へ突き上げる。その凛々しい立ち姿に、二人の後ろにいる群衆から、感嘆を織り交ぜたため息が溢れた。



「……へっ。俺様の速さは『メーゼラス』でも三本の指に入るんだ。そんなヘンテコリンな乗り物なんかに、負けるもんかよ」


「あにおぅ! 速さだったらボクは『モン・フェリヴィント』で一番だよ! アンタなんかあっという間にぶっちぎってやるんだから!」


 カズキと、黒髪に赤毛をまばらに散らした少年は、操縦席コックピット越しに、互いに睨み合う。



「……其方たち。言いたい事があるのなら、このレース競争でゆっくり語り合うとよい。……ではいくぞ」

 

 ヴェルナードが嗜める様にそう言うと、緊張感が場を支配する。張り詰める空気。咳一つ聞こえない。


 そして、その静寂が切り裂かれる。


 ヴェルナードが翳した刀身から、翠緑に輝く風の飛礫が空高く撃ち出された。


 その合図とほぼ同時に、カズキと赤黒髪の少年は、それぞれの機体を勢いよく走らせる。両側の断崖———声援と歓声が湧き上がった。



 このレースに、今後の行く末が大きく左右されるであろう事は、もちろんカズキにも分かっている。



 ————このレース、絶対に負けられない!



 ステアリングホイールを握るカズキの掌からは、じっとりと汗が滲み出していた。

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