第42話 完全撃破……?

 コルネーリオに頷き返し、ボクは地上を見下ろした。


 交戦しながら上昇していたコアを追い、ボクたちもかなり銀幕の上部へと誘導されていた。落下するコアを追ってここまで来たものの、地上まではまだまだ距離がある。ヴェルナードたち保安部員の剣に纏った緑光だけが、チカチカと点滅するだけで、その姿までは確認できない。


 仲間を示す緑の光は散り散りに地上に拡散しいて、忙しなく動き回っている。


「どうしたカズキ。早く行動にうつさないと、コアが落下をしてしまう!」


 コルネーリオの焦りがボクを煽る。……そんなこと、ボクにだって分かってる!


 だけど、仲間を巻き込むことは最大限避けるべきだ。マクリー砲もパワーの源は風の加護の力。人体は決して破壊しないけど、相手を麻痺させる効果がある。


 その上にもし、コアが落ちてしまったら……!


 ボクの瞼の照準が、仲間の発する光を追って、右に左に激しく揺れる。

 撃つべき場所を見定めているその中で、ふとあることに気がついた。


 パラパラとチラつく光の中で、一際輝く緑の光。


 きっとあれはヴェルナードだ。

 そして不規則に見えた光の粒はよく見ると、大きな光を追従し、歪ながらにも円陣を保とうとしているようだ。


 ———そっか! そうだよね! きっと保安部員のみんななら、ヴェルナードさんを守ろうとするはずだよっ!


 だがその当の本人のヴェルナードも戦闘にどっぷり参戦しているのだ。ちょろちょろ動いていて、実に狙いがつけづらい。


「マクリー! いつでもマクリー砲【ライト】を撃てる準備をしておいて!」


「もういつでも撃てますよ! あとはカズキの合図待ちです!」


 竜翼競艇機スカイ・ボートの船首には、すでにバスケットボールサイズの飛礫弾が出来上がり、トリガーとなるボクの合図を待っていた。

 ボクはステアリングホイールを動かして、落下するコアの隙間を縫い、大きな光からなるべく離れた場所に狙いを定める。


 と、一等星の光を放つヴェルナードが、右に大きな動きを見せた。


「———ここだ! 発射!」


 船首から放たれる緑弾は、翠緑の線となり、見事落下するコアの間をすり抜けていき。

 マクリー砲が地面へと着弾した。


 マクリーの加護の力は地面を少しだけ削り取ると、大きな水滴を落としたように緑のクラウンを形成し、地上を鮮やかに照らし出す。


 浅く点滅を繰り返す緑の光たちが、一瞬その動きを止めた。

 予定通り、小さな小さな緑の粒は、一粒だって巻き込んじゃいない。


「———よし! これで絶対に気づいたはず!」


「カズキ。下へ急ごう。もしコアの落下に巻き込まれた者がいたら、俺たちも救出に加わるんだ」


 ボクはコルネーリオに首肯して、すぐさま下降を開始した。


 ボクらが地上のヴェルナードたちをようやく視認できた頃で、崩れていくつかの黒い塊に分解したコアが、大きな衝突音と共に地上に堕ち、砂埃を舞い上げる。


「ヴェルナードさん! みんな! 無事なのっ!? お願いだから返事をしてー!」


 竜翼競艇機スカイ・ボートはトップスピードで地面に迫る。ボクは操縦席から身を乗り出しいて、大声を張り上げた。


 地面に近づくとコアだった成れの果てが地表を覆い、今だモゾモゾと動いている。一番大きかったコアのパーツは、地面に隆起して小さな黒い山を作り出していた。


「みんなー! 無事なのおぉぉ!」


「ヴェルナード様! いずこに!」


 コルネーリオも普段の姿からは想像できない大声で、ヴェルナードの無事を願い叫ぶ。


 突如、乾いた蹄の音。


 コアで突如できた黒い山の影から、ヴェルナードが姿を現した。その後ろには保安部員たちの姿も見える。


「べ、ヴェルナードさぁぁぁん……! よかった無事で……」


「やや乱暴な危険察知の知らせではあったが、あの砲撃とそれに伴う灯りがなければ、我らは空からの飛来物に気が付かなかっただろう。礼を言う、カズキ。それにコルネーリオ」


「もったいないお言葉……ありがたく頂戴いたします」


 コルネーリオは既に地上に降り、馬上のヴェルナードに膝をついた。


「地上にいた小さなコアの分身体も、大部分が空からの物体に飲み込まれた。……これがあのコアで相違ないのだろうか?」


「うん! みんなで倒したんだよ! 前回は弾け飛んだけど、まさか落下するとは思ってなかったから」


「……んん、ゴホン! 我輩の活躍が今回も際立っていたと思いますが……そうでしょう、カズキ」


「はいはい。アンタも頑張ったね。でもね、マクリーだけの力じゃないよ。みんなの力で勝ったんだよ。じゃないとこの銀幕の中にだって入れなかっただろう?」


「ま、まあ、そうですね……」


 保安部員たちから苦笑が溢れる中、一人ヴェルナードだけが笑ってない。


「……おかしい」


「え? どうしたのヴェルナードさん」


「前回はコアを破壊と同時に、銀幕も崩れたと聞く。コアを空中で倒したのなら、時間も頃合い。そろそろ銀幕本体に変化が見え始めても、おかしくはない。考えたくはないが、銀幕破壊まで足りない何かがある可能性があるやも知れぬ。……皆、警戒を緩めるな!」


 その言葉で、保安部員たちは即座に陣形を組み直す。コオネーリオも人翼滑空機スカイ・グライダーに戻り、発進体制を整えた。


 その直後。

 不意に、銀幕内に笑い声が鳴り響いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る