第51話 エピローグ
流水の如く、月日は五年が過ぎていた。
歓声に包まれながら、一人の少女———いや、女性が、ピットと呼ばれるボートの待機場所にいる。
ここはボートレース会場。ボートレースの最高峰を争う「SG」レース、その大舞台。
「今日こそは絶対に勝ってやるからな!」
赤髪の青年が鋭い眼光を向けながら、少しだけ口の端を持ち上げる。
「アンタねぇ、今期一度だってボクに勝ててないじゃないか。……今日も負けないからね、マクシム!」
少女の面影を少しだけ残したカズキは、レース前にも関わらず安い挑発を簡単に受け止めてしまう。体はしっかりと成長をしたカズキだけど、性格までは変われない。……そして胸の膨らみも。
『さあ、賞金王決定戦———もとい、マクリー杯競走の火蓋が、いよいよ落とされようとしております! なお、この放送は友好惑星マクリーへも、衛生中継がつながっております!』
レース場内にアナウンスが鳴り響く。
マクリーをディフォルメしたマスコット人形を手にした人たちが、観客席から惜しみない声援を投げかけ出した。
母竜は無事にカズキを地球へと送り届け、そのまま地球と並ぶようにして、また惑星の姿に戻ってしまった。
もちろん地球では天地がひっくり返ったような大騒動。報道やSNSは連日連夜、のお祭り騒ぎ。
やれ異星人の侵略が始まっただの。またはNASAの陰謀説など。デタラメな憶測が世界中を飛び交って、新惑星を神聖化する団体まで現れる始末。
四体の神竜の代表———ヴェルナードたちが使者として地球へと降り立って両惑星の交流が始まったのが五年前。
マクリー星と名付けられ、神竜が惑星間の架け橋となって、互いに移住する者が出るほどまでに、今では友好な関係を築いている。
そして星の名前にもなってしまった当のマクリーはというと。
なんと、地球で人気者になっていた。ボートレースのレース名になってしまうほどに。
大時計が時を刻むごとに場内のボルテージは増していく。スタートまであと数秒。
助走から各艇トップスピードへ。
大時計が0を示すと同時にボートは一斉にスタートする。
やはり抜け出したのはカズキとマクシム。
互いに譲らないレース展開。一進一退の攻防戦。後続を大きく引き離すと、勝負の行方はこの二艇に絞られた。
そして最終コーナーで、カズキ得意のモンキーターンが綺麗に弧を描き。
マクシムの追走を引き離し、見事に一着でフィニッシュを決めた。
『2号艇、若月和希選手の勝利です! 若干21歳で見事マクリー杯を制しましたぁぁぁぁ!』
興奮を抑えきれないアナウンスにつられるように、レース場内も興奮の坩堝と化す。
観客の声援に応えるカズキに、マクシムが近づいて、
「おめでとうカズキ。……だけどな! 来期は必ず勝つからな! そして俺の嫁になれ!」
「あー聞こえない、聞こえないよ。そのセリフはボクに一回でも勝ってから、ちゃんと聞くことにするよ」
マクシムを軽くいなしたカズキに待っているのは、勝者によるウイニングラン。
と、レース会場上空に降り注ぐ陽光を遮って、見慣れた影が降りてくる。
マクリーだ。
五年前より体も一回り大きくなったマクリーは、カズキのボートに並走すると、大きな瞳を輝かせた。
「さあ、吾輩の背中に乗ってください。ウイニングランです!」
「さすがマクリー杯! 粋な計らいだね!」
カズキが背中に飛び乗ると、マクリーはレース会場上空をゆっくりと旋回し始めた。
「……こうやって会うのも久しぶりだね」
「ええ。カズキの活躍はどこにいてもちゃんと見てますよ。吾輩、スマホを持っていますから」
「はは。アンタがスマホを使うなんてね。小さくて使いづらいだろ?」
「吾輩用に特注の大きいスマホをもらったのです」
「そっか。アンタは地球の人気者だからね」
久しぶりの再会からなのか、互いに気恥ずかしさが手伝ってしばらく無言が続く中。
「……ねえ、今度『モン・フェリヴィント』のみんなに会いに行きたいんだけど、一緒に付いてきてくれるかい?」
「もちろんです! カズキの頼みならTV出演も全部キャンセルしますよ!」
「ジェスターには、ボクの夢の一つが叶ったら、ちゃんと会おうと思っていたんだ」
「それって……まさか……カズキ、ついに……」
「ふふふ。さぁ、どうかな? ……ねぇ、マクリーはどう思う?」
あどけなさをほんの少しだけ残した笑顔で、カズキは空を見上げてみる。
竜の背に乗り見る景色には、雲ひとつない青空が広がっていた。
〜完〜
竜の背に乗り見る景色は 〜ボートレーサー訓練生が『軍隊』に入隊した結果、異世界の英雄になりました〜 蒼之海 @debu-mickey
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