PC:ウォーキングシミュレーター

Paradise Lost (4100字)

 第二次世界大戦が1960年代まで続いた架空の世界を舞台に、ナチスの巨大地下バンカーを観光するツアーゲーム。


 たまにちょっとした分岐や選択肢があるものの、順路はほぼ一本道となっており、一方通行のポイントも多く、自由に探索できるわけではない。

 また、プレーヤーは歩くことしかできないため、移動速度が遅い。それでもゲームプレイにさして支障があるわけではないが、それは裏を返すと、のろのろと歩いても問題ない程度の範囲しか探索できない、ということである。探検ゲーだと思って買うとがっかりする。"Portal 2"はパズルゲーで探検要素はオマケだが、こちらのほうがよほど探検気分を味わえる。


 このゲームはわりとよくバグる。私は1周目は問題なく進められたが、2周目では序盤で2回進行不能になり(母の回想シーンから現実に戻らなくなった)、終盤では1回OSごとフリーズし、強制的に電源を切るしかなくなった。

 どうやら、会話などのイベントが終わっていないのに素早く選択肢を押したり、先に進んだりするとバグりやすいようである。イベント管理に問題がありそう。


 デフォルトだと、プレーヤーが歩くと画面が揺れるようになっているが、酔いやすくなるので、設定で揺れをオフにするといいだろう。



 ボリュームは、見るところを全部見回って3時間程度。値段からすれば妥当だが、物足りないのも事実。

 全実績を解除するには最低3周、施設内を全て観光するには最低2周かかるが、何周もするのに見合った内容があるわけではない。


 このゲームは、もともとはマルチシナリオ、マルチエンディングのゲームを目指していたのだろうと思う。

 ポーランドのレジスタンスがナチスを一掃するのにどんな作戦を採ったかを選べるなど、結構重大な選択肢が多いことから、おそらく元の企画では、こうした選択がストーリーそのものにも大きな影響を与える内容になっていたのだと思われる。しかし実際には、これらの仕掛けはストーリー展開そのものには全く影響を与えない。結局は何を選んでも同じ。エンディングは最後の選択肢で変化するが、その変化も微々たるものである。



 史実を基にした設定のディティールはよくできているし、バンカーの雰囲気は、その辺に散らばる小物まで凝っている。そして、そのバンカーで起きた過去を掘り起こすという趣向は面白い。

 しかし、全体的に中途半端な感じがする。未完成のものを無理矢理完成品に見せかけている感が漂っていて、残念な出来である。


 また、開発者の独り善がりな仕様が多く、それもいただけない。のろのろと歩くことしかできないのもそのひとつだが、たとえばドアを開けるにしても、ノブをクリックしてから、指定された方向にスティックを倒し、ボタンを押さないと開かない。プレーヤー自身がドアを開けている感じを演出したいのだろうが、ただ煩雑なだけである。ボタンひとつで開いた方がいい。



 イライラする操作性、たまに進行不能になること、ボリュームの少なさといった問題点があることを理解した上で、架空戦記におけるナチスとポーランドレジスタンスと人類の夢の跡をぜひ味わいたいというなら止めはしないが、私はおすすめしない。



 背景設定やストーリーについて。


 この世界では第二次世界大戦にアメリカが参戦せず、そのために戦争が長期化したようである。

 その間にドイツは核兵器を開発。巨大地下バンカー「ゲゼルシャフト」を建造し、そこに優秀なアーリア人を避難させる。そして、ヨーロッパ中に核兵器を撃ちまくり、放射線でバンカーを防御しつつ、バンカー内で人材育成や新兵器の開発を行い、来たるべき日に再び地上に舞い戻る、という計画を立てた。こうしてヨーロッパは核の冬に閉ざされる。アメリカやアジア、アフリカなど、他の地域がどうなったかは不明。


 核の冬が訪れてしばらくすると、ポーランドのレジスタンスがゲゼルシャフトを襲撃、ナチスを殲滅して施設を乗っ取る。

 このころにはすでに人類は絶滅の危機に瀕しているようで、レジスタンスのメンバーも少数しかいないし、国家としてのポーランドは存在していないようである。

 ゲゼルシャフトはコンピューターによって管理されているのだが、その中枢として使われるのは最大2人の人間。人間の海馬を利用して稼働する代物らしい。

 レジスタンスは、当初はこんな非人道的ものなんか使いたくないということで意見が一致していたようだが、物資が不足してきたことで、稼働させて食料生産などをするべきだという派閥と、やっぱりこんなものは使うべきでないという派閥との対立が生じる。

 この対立は殺し合いに発展し、最終的には稼働派が勝利するが、結局稼働派もゲゼルシャフトを去る決断をし、バンカーは無人と化した。


 稼働派のリーダーは、自分の娘をコンピューターに繋いで稼働させようとしたが、事故が起きて、コンピューターから切り離せなくなったようである。どういう理屈か知らないが、切り離すと死んでしまうらしい。

 稼働派のリーダーはこのことを隠蔽し、娘は死んだと表向きには公表。そして、怪しい宗教組織を作り出し、コンピューターを介してゲゼルシャフトの機能を使って食料を生産したり、病気を治療したりするのを「奇蹟」と称して信仰心を集めていたようである。

 メモリーチューブで再生される過去の記録で、プレーヤーに与えられる選択肢は、実際は姉が下した決断ということになる。


 リーダーはその裏では娘を助けるための研究を行っていたが、その研究の結論は、もう一人自分の子供をつくって、そいつをコンピューターに接続することだった(遺伝的に近い2人をホストとしてコンピューターに接続すると、より高い処理能力を発揮できるという設定。それでどうしたら娘が助かるのかは不明)。こうして生まれたのが主人公。


 主人公の母親は、後に稼働派のリーダーとは袂を分かち、一人で主人公を育てているが、これは、母親がこの計画を知って逃げたのか、それとも別の理由なのかは明確にはされていない。

 なお、姉は自分がバンカーの外で生まれたと言っているが、それが本当だとすると、姉と主人公の母親は異なる。主人公の母親と父親はバンカーで知り合ったからである。


 ナチスの資料のひとつに、なぜか「非アーリア人の精子を保存せよ」という命令を出しているものがあるが、これはおそらく、コンピューターに繋ぐ人間を作るための計画の一環なのだろう。主人公の母親含む、監獄みたいなところにいた母親達は、この人材生産のための代理母と思われる。

 主人公の母親はレジスタンスによって救出されたが、結局、人材生産に利用されたことになる。ナチスもレジスタンスも、切羽詰まったらやることは同じという皮肉である。


 主人公は、母親の死をきっかけに、写真の男を捜すためバンカーに入る。そして作品の冒頭へと繋がる。



 分岐について。


 このゲームではいくつかプレーヤーに選択肢が与えられ、それによって多少展開が変わるが、大きな変化はない。

 たとえばメモリーチューブの記録で、レジスタンスが溶鉱炉を爆破する作戦を採った場合は溶鉱炉が廃墟と化す。総攻撃の場合は溶鉱炉は原型を留めている代わりに、慰霊碑は人骨を括り付けまくったものに変わる。どちらを選んでも展開には影響ない。


 ラストの分岐は重いっちゃ重いが、エンディングが大きく変わるわけではない。

 選択肢は、姉の接続を切るか切らないか、自分がバンカーに残るか残らないかの組み合わせで、全部で4通り。しかし、3通り試したら「全エンディングを見た」の実績が解除された。


 私の初回選択は、接続を切って、バンカーを去るだった。私は基本的にこの手の選択肢では、本人の意志を尊重することにしている。死にたいというなら死なせてやる。


 バンカーに残るか去るかの選択は、なかなか悩ましい。こんなナチスの夢の跡な廃墟バンカーに残ったっていいことないが、外は外で核の冬である。

 ただ、もしバンカーに残るのであれば、姉の接続を切る選択はないだろう。


 なお、エンディングを見てしまうとセーブデータが消されてしまい、他の選択肢を見るにはもう一回最初からやり直さなければならないが、消える前にセーブデータをコピーしておくか、もしくはエンディングムービーになる前にゲームを一旦終了してチェックポイントからやり直すことで、手早くエンディング関係の実績を全て解除することができる。



 この作品の、設定、ストーリーについての感想。

 ナチスの施設としての背景設定やディティールは、いかにもナチスらしくていいと思う。入植者から金品を奪う部屋があったり、資料には人種差別的な言動が端々に散見されたり。ヒムラーやシュペーア、ゲッぺルスが記したとされる資料があるのも面白い。


 レジスタンスが施設を乗っ取った後、コンピューターを稼働し、この施設を利用すべきか、という問題については、決断の難しいところだと思う。どちらが正しいということもない。

 ただ、どの決断を下すにせよ、同士討ちは最も避けるべき結末だったと思う。施設を稼働させるのは仲間の生存のためだし、稼働させないのは道徳や倫理を重視するから。仲間同士の殺し合いをしてしまったら、どちらの大義も果たせなくなってしまう。


 姉の正体云々については、人間、もしくは人間の脳を使ったコンピューターの話はありふれているので、特に新鮮味はなかった。またそのパターンね、と思っただけ。

 コンピューターに繋がれた人間に「殺して欲しい」と頼まれるのも、もう何度目か知れない。先にも書いたが、これに関しては私の決断は決まっている。死にたいというなら死なせてやる。


 この世界ではアメリカが第二次世界大戦に参戦していないことになっているが、ということは、日本はアメリカに戦争を仕掛けなかったと思われる。うまく外交で切り抜けたのか、あるいは日華事変が戦争に発展しなかったのか。

 このゲームでいうところの「世界」とはヨーロッパだけなので、設定を考える際に日本の事情は考えられていないと思うが、日本が賢明な判断を下すと世界が滅びるのは皮肉である。現実世界では、日本が阿呆だったおかげで「世界」は滅びなかったのだから、ヨーロッパの人は日本に感謝してもらいたい(笑)

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