Layers of Fear(2016年版)

 "Layers of Fear(2016)"は、Bloober Teamによるホラーアドベンチャーゲーム。


 2023年に同名タイトルの作品が発売されたが、これは"Layers of Fear"、"Layers of Fear 2"のリメイクに新作エピソードを追加したものになっている。

 ただ、リメイク時に大きく仕様が変わり、似て非なるゲームに変わってしまった(ゲームオーバー要素が追加されたりしている)ので、今からでもこの、オリジナルバージョンをプレイする意味はある。



 本作は、狂ったアル中の画家が、最高傑作を描き上げるために自身の心的世界をさまよう、主観視点のアドベンチャーゲーム。

 ゲームオーバーがなく、移動することと、ちょっとしたアイテムを拾って使ったりすることしかできないので、プレイした感覚としてはウォーキングシミュレーターに近い。


 章構成となっており、各章はアトリエから始まる。そこから館の中を歩き回ることになるわけだが、館の構造は毎回変わり、ほぼ一本道。ときどき行き止まりになって、トリガーとなる行動を取ることで先に進める。

 最後まで進めるとアトリエに戻り、キャンバスの絵が変化する。


 少しだけ分岐があって、プレイヤーの行動によって、展開が若干変化する。それによってキャンバスの絵も変化し、エンディングが分岐する。


 収集要素も少しあり、館内に散らばっている思い出の手紙や写真などを回収していく。



 操作性は問題あり。デフォルトの設定だと、足が悪いアル中の主人公の状態を再現するために歩く度に視界が揺れるが、プレイしていて気持ちのいいものではないので、設定で画面揺れはオフにしてプレイしたほうがいいだろう。


 ドアや引き出しは、ボタン一発では開閉せず、掴んで引っ張る動作が必要になる。

 この方式を「リアル」だと勘違いして採用するゲームデザイナーがたまにいるが、ただ鬱陶しいだけだということに気付いて欲しい。



 本作にはゲームオーバーはなく、大した謎解きもないため、クリアするだけなら簡単。

 ただ、収集品を全て回収しようとしたり、全てのエンディングを見ようとすると、なかなか面倒。わかり辛いところに収集品が落ちていたり、分岐が解りづらかったりする箇所がある。



 ホラー演出に関しては、中途半端な印象。そこそこ怖いので、ホラー嫌いにはお勧めし辛いが、かといって、がっつり怖いわけでもない。


 突然大きな物音が立ったり、目の前に突然何かが現れたりといった低レベルなドッキリ要素が多く、不意打ちされるとドキッとするものの、慣れてしまえばタイミングがわかってきて、どうということもなくなってくる。


 そうなる理由のひとつは、プレイヤーが画家だということにあると私は思う。

 プレイしているとだんだんわかってくることだが、画家が抱いているのは恐怖ではなく妄執で、そもそもこの作中で描かれる内容に恐怖を抱いていない。

 その画家とプレイヤーが同化してしまうと、やっぱりプレイヤーも怖くなくなるのである。


 たぶんこのゲームは、プレイヤーを第三者の立場に置いたほうが良かったのではないかと思う。怪死した画家の死因を調査する新米記者とか。であれば、この館にまつわる奇妙な出来事が、もっと恐怖体験として表現しやすかった気がする。



 ゲームボリュームは、1周3時間。全エンディングを見るなら最低3周必要で、9時間。ほとんど同じイベントを何度も見ることになるので、周回プレイはやや辛い。



 総評は、全体的に中途半端なゲームという印象。

 ある人物の深層心理に潜り込んでいくというコンセプトは面白いのに、それを下手にホラーゲーム仕立てにしようとしたために、単なるお化け屋敷みたいなゲームに成り下がってしまった感じがある。

 いっそホラーの文法にこだわらず心理描写に重点を置いた方が、よりストーリーも掘り下げられたし、かえって怖いゲームになったように思える。

 ホラーにこだわるなら、画家ではない第三者を主人公にするべきだっただろう。



 次に、DLC"Inheritance"について。


 これは、画家の娘が主人公となり、両親の足跡を求めて館を探索する内容となっている。

 一本道だった本編とは異なり、DLCでは部屋を巡る順序はプレーヤーの自由。茅田の各部屋に入って、トリガーとなる物に近づくと、過去を振り返るシーンになる。

 過去のシーンをすべて見終えたら館に戻り、次の部屋に行く。それを繰り返すことで、娘は両親に対する自分の感情を決めることになる。


 本編はホラー演出にこだわりすぎた結果、ホラーとしても心理ものとしても中途半端になっていたが、DLCではホラー演出にはこだわらず、主人公の幼少期を振り返ることを重視している。


 過去のシーンでプレーヤーがどういう行動を取ったかによって、思い出に対する主人公の考えが変化する。それによってエンディングも3つに分岐。この分岐条件は本編よりも緩めで、わかりやすい。


 一方で、収集品を全回収については本編よりも大変。一回のプレイで全ての収集品を回収する必要があり、取り逃すと最初からやり直しになる。

 私は取り逃しがあったらしく、実績の解除ができなかった。


 一部の謎解きが面倒なのは相変わらず。無意味に歩かせたり、つまらない仕掛けを作動させたりするだけのイベントは必要ないと思うのだが。


 なお、剣を抜くイベントでは、剣を掴んで、一度押し込んでからでないと抜けないようになっている。

 この仕様は正直、意味がわからない。なぜ剣を抜くのに押し込む必要があるのか。



 このDLCは本編よりもデキがいい。ホラーへの執着が弱まり、妄執を追体験するという、本来あるべき形を取っているからである。本編も、こういう形で作るべきだったと思う。



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 以下はネタバレありの話。


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 私がこのゲームで一番評価している点は、妻の幽霊に自分から突撃することが、エンディング分岐の条件になっていること。


 妻の幽霊は、基本的には簡単に回避可能で、「振り返るな」というのにわざわざ振り返ったり、自分から突撃しない限りは襲われない。

 普通、プレイヤーは幽霊を回避しようとするが、プレイしているとだんだん、画家は妻を愛していることがわかってくる。だったら避ける必要なんかなく、むしろ見つけたら積極的に突撃すべきだとわかる。


 私は"SOMA"をプレイしたとき「怪物に自分から見つかって殺されたくなるような要素を追加したら良かったのでは」と思ったが、本当にその仕様を採用しているゲームが存在したわけである。


 襲われるのがわかっていて、妻の幽霊に自分から突っ込んでいくのは、主人公の妄執をプレイヤーが体験する、という手法として面白いと思う。

 そしてこれは、ゲームオーバーがないゲームだからこそできる演出だろう。



 となれば、このゲームはホラーにすべきではなかった、と、私は思う。

 画家の妄執を描くことに集中して、無駄に怖く見せる演出などしないほうが良かった。


 幽霊の妻に殺されるために何度でも館をさまよう画家のゲーム、というほうが、よほど斬新だったし、その方がかえって怖かったと思う。

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