Life is Strange

 "Life is Strange"は、フランスのDONTNOD Entertainmentが開発したアドベンチャーゲーム。

 2022年にリマスター版が出たが、私がプレイしたのはオリジナル版。リマスター版がオリジナルとどう違うのかについては、私は知らない。


 田舎で学校生活を送る女子学生の日常を体験する、会話選択式、ポイント&クリック式の三人称視点アドベンチャーゲームとなっているが、彼女は冒頭で時間を巻き戻す能力を得て、それを利用しつつ誘拐事件に関わったりすることになる。


 プレイヤーの行動によってシナリオは微妙に変化し、一見何気ない行動が後々にまで関わってくることがある。

 大きな意味でのシナリオ分岐はないが、あるシーンで誰かを助ければ、後のシーンでその人が好意的に接してきたり、力を貸してくれたりする、といった分岐は結構ある。


 雰囲気としては、少しSF要素や推理要素の含まれた学園ドラマ、といった感じ。行方不明の女生徒を捜索するという素人探偵的な話が主軸になるものの、それよりも、人間関係をどう構築するかという問題と関わる方が多い。


 テレビドラマを意識した形式になっており、全5エピソードで、1エピソード目は無料でプレイできる。

 気になった人はとりあえずこれをプレイすればいいだろう。


 製品そのものは日本語訳に対応していないが、公式の無料DLCに日本語訳パックがあるので、それを導入すれば日本語化できる。

 日本語訳はかなりまとも。一部誤訳や、声のトーンが変だったりすることろがあるが、おおむね問題なし。



 時間巻き戻し能力に注目が行きがちな本作だが、本当にこのゲームが優れているのは演出面だと思う。

 全体に絵画のようなテクスチャが使われており、イラストでもリアルでもない独特な雰囲気を出しており、イベント時のカメラワークや音楽の使い方などもよく練られている。物語への引き込み方もうまい。


 一方で、シナリオについては、タイムリープという題材をあまりうまく使い切れていないように感じる。

 このゲームはどちらかというと、人間ドラマを重視していて、時間巻き戻し能力は補助的なガジェットという扱いになっているが、とはいえ、この能力がシナリオに大きく関わっているのも事実。

 となると、もう少しこの辺はうまく処理してほしかった気はする。後半の展開では、このガジェットを持て余して、ややグダグダした印象を受けた。



 ともかく、エピソード1が無料プレイできるので、気になったらプレイしてみて、気に入ったら購入してプレイすればいいだろう。

 そして、価値はあるゲームだと思う。


 本作について具体的なことを言おうとすると、どうしてもネタバレに関わってしまう。



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 というわけで、ネタバレありの感想について。


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 このゲームは、大きな意味ではシナリオの分岐はないも同然で、エンディングは最後の選択肢によって決まり、2通りしかない。


 ただ、細かい部分では大きく変化する点もある。

 ケイトやフランクが生きているかどうかや、ケイトの自殺騒動の後、誰が処分を受けるか、など。


 自殺騒動の後、たいがいの場合はネイサンが停学処分になるが、選択次第ではマックスが停学処分を受けることもある。だからといってシナリオに大きな変化はないのだが、ちゃんとプレイヤーの行動でいろいろ変化してくれるのは面白い。



 このゲームは、一見するとマックスの成長物語、という雰囲気がある。ぼっち生活を送っていたマックスが、人とコミュニケーションを取れるようになる物語、というような。


 しかし、意外とマックスは、エピソード1の時点で、すでにコミュニケーション能力が高かったりする。

 絶対ソリが合わないようなボルテックスクラブのメンバーの男子生徒に話し掛けさせてみれば、ちゃんと会話を成立させているし、エピソード2では見ず知らずの通行人とも話せている。


 話題に失敗したときのフォロー能力はイマイチなものの、わずかな情報を頼りに、相手に調子を合わせるのは得意なようで、実は結構世渡りがうまい。


 となると、なぜマックスは1ヶ月もぼっち生活を送っていたのかは非常に疑問。あと、なぜクロエと5年も連絡を取らなかったのか(このゲームにおける一番の謎と言える)。


 どちらかというとこのゲームのシナリオは、マックス自身よりもクロエが成長する物語になっているといえる。

 自分勝手なクロエが、最後に自分を犠牲にする選択肢をマックスに提示できるようになる物語、という。


 マックスはもともと、時間巻き戻し能力なんかなくてもそれなりに自立できていて、問題はそのことをプレーヤー(マックス自身)がいつ気付くか、というだけの問題だったりする。

 気付きさえして、人に話し掛けようとしさえすれば、意外とハイスペックなコミュニケーション能力を発揮する。



 このゲームの面白いのは、エピソード終了後に他のプレーヤーがどの選択肢を選んだかの統計が出ること。

 私は、だいたいの選択肢では多数派に属しているが、いくつか少数派なのもあって興味深い。

 面白い選択肢についていくつか言及してみる。



■「ケイトとデイビッドが揉めているときに写真を撮った」


 これは意外なほどに選んだ人が少ない。


 私は、証拠写真があれば後々役立つだろうと思って、迷わず撮影した。

 撮影するとケイトに「なんで助けてくれないで写真なんか取ってるのよ」みたいな恨み言を言われるのだが、マックスもそこはなんとかフォローしろよと思う。「この写真を見せて校長にチクって、あの警備員クビにしてやるから」とかなんとか言っておけばいいのに。



■「拳銃を撃った」。


 これは「撃つ」選択をする人のほうが多い。他の人がどういうつもりで「撃つ」の選択をしているかはわからないが、私はてっきり、地面に威嚇射撃するとかいう意味で「撃つ」のだと思っていた。まさかマックスさん、いきなり人を撃とうとするとは(笑)


 どうでもいいことだが、これだと、銃に弾を4発しか装填されていなかったことになるが、なんか中途半端な気がする。

 瓶は6本あったので、当初のシナリオでは6発撃つことになっていたのかもしれない。



■「ケイトの説得に失敗」


 ケイトを説得するには、ケイトの部屋で本人が鬱々としている中、堂々と机や棚を物色して手紙を読む必要がある。

 そうすることで、ケイトの家庭事情がわかり、どう説得すればいいかがわかるわけである。


 しかし、私はさすがにそれはどうなの? と思って、何も物色しなかった。そのため、どう説得していいかわらず、「あなたが死んだら母親が悲しむよ!」と説得してしまうという地雷を踏み抜いてしまった。


 そもそもマックスさん、こういうときは、「家族が悲しむよ」とか曖昧なことを言って反応を見たほうがいいんじゃないのかね。いきなり「母親」「父親」とか具体的な選択肢しかないのは勘弁して欲しい。


 なお、ストーリー展開としては、ケイトが自殺している方がしっくり来る。

 エピソード5の悪夢のとき、ケイトが自殺していると「どうして止めてくれなかったの?」と詰ってきますが、自殺を止めていると「どうして死なせてくれなかったの?」と言ってくるという、変な展開になる。

 本人の様子を見るに、別にあの時死なせてくれたら良かったのに、みたいな雰囲気はないのに、悪夢でそう言われても説得力がないと言うか。



■「別世界のクロエを殺さなかった」


 この選択肢は割れているが、若干殺した人が多い模様。


 私は基本的に、ゲームの中では安楽死や自殺は否定せず、死にたいなら死なせてやろうと思っている。なので、ここで殺す選択をしなかったのは珍しい。


 殺さなかった理由は、クロエの両親に無断で殺すわけにはいかないと思ったから。


 なお、この世界のマックスはボルテックスクラブに入ってイケイケねーちゃんになっているのだが、クロエの父親が死なないだけで、マックスがダメな方向に性格が変わるものなのかね、と思うと疑問ではある。



■「フランクが負傷」


 ここ、私は何度巻き戻してもフランクが死ぬか怪我する展開にしかなからなかった。


 2周目で怪我をさせない方法を見つけたが、あれならさっさとレイチェルの話を持ち出した方が良かった気がする。



■「ネイサンの携帯電話のPINコードを見つけた」


 PINコードは、候補を総当たりすれば確実に解ける。

 なのに、見つけられなかった人が多いのは意外。

 PINコードを見つけられなかった場合、パスワードを入力する必要があるわけだが、こっちの方が解法としては難しい気がする……のだが。

 ちなみに答えは誕生日。



■「街を犠牲にした」


 この選択肢は、クロエを犠牲にした人がやや多い模様。


 これはトロッコ問題とも関わってくる、面白い選択肢と言える。親友1人を犠牲にして多数を救うか、多数を犠牲にして親友1人を救うか。


 そして、親友を犠牲にして多数を救う選択をした人がやや多い、ということ。つまり、義務論より功利主義者の方がやや多い、ということなのか。


 クロエを犠牲にすることを選んだ人の理由は、「クロエがそれを望んでいるから」「クロエが嫌いだから」「1人を救って多数を犠牲にするより、1人を犠牲にして多数を救う方がマシだから」といった理由が主に考えられる。

「こんな街、吹っ飛ばしてやりたい」と言っていた彼女が、自らを犠牲にして街を守ろうとするところに趣がある。


 一方、街を犠牲することを選ぶ人の多くは、おそらく、マックスならどうするかという、ロールプレイをしたのではないかと推測する。マックスは「クロエだけは守る」「ずっと一緒にいると決めた」などと言っているので、それに従った、ということ。


 なお、私が街を犠牲にした理由は、功利主義でも義務論でも、ロールプレイでもない。

 ここでクロエを犠牲にすることを選ぶと、このゲームを通してやってきたこと全部を否定することになるから。


 これだけさんざんプレイしてきた挙げ句、実は何もしない方がマシでした、だから全部リセットします、なんてオチは、私は認めない。

 私がこのゲームに長々と付き合ってきたことが過ちだったというなら、私はその過ちをなかったことにするよりも、その過ちと共に生きることを選ぶ。


 だいたい、「時間巻き戻しできるけどしなかったから何も起きませんでした。めでたしめでたし」なんて実のないエンディングのどこがいいというのか。そんなつまらん終わり方を選ぶくらいだったら、「タイムリープして見知らぬ少女を救ってみたら、嵐が来て街が壊滅しちゃったけどしったこっちゃないね」という終わり方のほうが遙かにマシだと思う。


 私の意思はともかくとして、街を犠牲にする決断を下したマックスはどう反応するのかな、と思ったら、一言、「関係ないよ」と言って写真を破り捨てるという、予想外にカッコイイ振る舞いをしてくれてシビレた。


 クロエを犠牲にする選択肢をした場合、マックスはわりとメソメソすることになるわけだが、それよりは、自分の選択と共に活きる覚悟を决めるこっちのエンディングのほうがよっぽどいいと私は思う。


 ……というか、そもそも嵐が来るってわかっているんだから、せめて事前に仲のいい人には避難するように言っときゃ良かったんじゃないかと思わんではない。ホームレスの人には避難勧告をするのに、肝心のお友達とかには言わないのってどうなのか。


 これに限らず、マックスは、しっかりしているようでかなり抜けているところがある気がする。

 クロエに5年も連絡しないでしれっと「親友」とか言うし、本にジュースをこぼすし、高いところにあるビンを取ろうとして割るし。


 抜けていると言えば、クロエも肝心なところで抜けまくっており、親子ともどもすぐ死にそうになる。



 シナリオや設定については、おおむね文句はないものの、気になる点はいくつかあった。


 たとえば、マックスの能力は、マックス自身の時間はそのまま進行する設定になっている。

 マックスは、周囲の時間を巻き戻したり、写真を使って過去の世界に行ったりはできるものの、その間もマックスの時間は進んでいる。


 となると、未来を予知したことや、最初にクロエがネイサンに撃たれたときに授業中まで自分自身を含めて時間が戻ったのはなぜなのかの説明が付かない。

 特に、嵐を予知したことはシナリオ上でも重要な要素なのに、なぜ予知できたかはさっぱりわからない。


 もうひとつは、蝶を撮影した時に戻って力を行使しなければ、なぜ嵐が来なくなるのか、ということ。

 嵐の原因が時空を歪めたことであるなら、蝶を撮影した時に戻ること自体が時空を歪めているのだから、そこで能力を使わずクロエを見殺しにしたところで、嵐が来ることには変わりがない気がする。


 他にも、写真の世界で、その写真を焼いたり破ったりしたらパラドックスが起きないかとか、なんでサンフランシスコからコンテストの写真経由で写真を撮った日に戻り、写真を破ったら暗室に戻るのか(写真を破ると、マックスがその写真を日記に保管し、変態先生がそれを暗室で発見して日記を焼くから日記の写真経由で通報することができなくなる、ということなのだろうが、この辺はいろいろ整合性に問題があるような気がする)とか。



 もうひとつは、ジェファソンが性癖を隠しつつプロの写真家として活動できるのか、ということ。

 少女にクスリを盛って監禁緊縛して写真を撮りたいという願望があって、それを実際にやってしまうほど抑制の効かない人物が、プロとして活動し続けるのは不可能なんじゃないかと私には思える。少なくとも、マックスやビクトリアが感銘を受けるような写真を撮れないような気がする。作品に闇が漏れるだろうし。

 だいたい、被写体を自分の思い通りにして撮影したいなんてのは、写真家として最低の発想である。それでよく世界的に有名なプロになれたもんだと思う。

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