PC:アクション
Getting Over It with Bennett Foddy(Steam版)
これは2018年4月頃にSteam版の"Getting Over It with Bennett Foddy"をプレイした際の雑記に加筆修正したもの。
"Getting Over It with Bennett Foddy"は、壺に下半身を突っ込んだおっさんが、ハンマーを使って山を登るゲーム。文章で読むとわけがわからないが、ゲーム画面を見れば一目瞭然。
見てよくわからない点は、おっさんが結局何に入っているか、ということ。
公式日本語訳だと「釜」と訳されているが、英文だと"pot"となっている。また、ゲーム中に同じ形の鉢植えが登場することから、制作者の考えとしては「鉢」なのかもしれない。つまり、おっさんは植物なのか?
まあ、あの正体が壺でも釜でも鉢でも、ゲームをプレイする分には支障はない。
ハンマーの操作はマウスで行う。マウス以外のものでもプレイできるらしいが、マウスの方がいいんじゃないかと思う。プレイしたてのころは、あまりにもうまく操作できないので「マウス以外のものを使うべきではないか」と疑心暗鬼に駆られたりする時期があるが、ちゃんと操作できるようになっているから、信じてプレイするべきである。
このゲームは発売直後にSteamストアで見かけた。なぜかSteamのAIからおすすめ
されたのである。
それでストアページを開いてみたのだが、宣伝文句には「このゲームは特定の人を傷つけるために作った」とあり、他にも、懲罰溢れるゲームだとか、全ての成果が瓦解するとか、ろくでもない言葉が並んでいた。
それを見て私は、マゾゲーマー向けの理不尽なクソゲーだろうと思い、プレイする価値なしと判断した。
私はマゾゲーが嫌いではないが、マゾゲーとクソゲーは紙一重である。私の経験上、マゾゲーを自称するゲームが良作である可能性は低い。クソムズいだけで面白くも何ともないゲームを「マゾゲー」と称している場合が結構ある。
真のマゾゲーとは、苦行の中に喜びがなければならない。喜びが欠片もないゲームはただのクソである。
というわけでパスしたのだが、その後、YouTubeの"James & Mike Mondays"("Angry Video Game Nerd"の制作者による番組のひとつ)でこのゲームが取り上げられ、序盤をプレイしている様子を見る機会があった。
それを見て思ったのは、かなりまともなゲームのようだ、ということ。山登りの途中でミスると大幅に戻されるが、やり方がわかればリカバリーも早いので、大したペナルティにはならない。
ミスる度に面倒くさい作業を延々とやらされたり、リカバリーするのに膨大な時間がかかったりといった、クソな方向でのマゾい要素はなさそうに見える。
それで、プレイしてみることにした。
プレイしてみると、全くクソゲーではなかった。マゾゲーでもない。理不尽でもなければ懲罰的でもなく、むしろ、珍しいくらい快適で親切なゲームだと感じた。
初見殺しの変なトラップなどもなく(実はあるが、終盤に少しだけなので大きな問題ではない)、操作は確かに独特なものの、変な慣性がついていて操作しにくいなどといったクソ要素はない。マウスの操作にきちんと反応してくれる。
確かに宣伝文句にあるように、山登りの途中で下手なミスり方をすると大幅に戻されることがある。最悪、スタート地点まで戻ってしまうこともある。
だが、戻された分は腕があればすぐに復帰できるので、ペナルティとしてはかなり軽い。復帰に時間がかかるのはヘタクソだからであり、ヘタクソだとどうせどこかで行き詰まり、また戻される。だったら簡単なところから繰り返しプレイしてじっくり腕を磨いた方がいい。戻されるのは懲罰的どころか、親切ですらある。何度も最初からやり直すことで、着実に地力を付けさせてくれるのである。
あと、最近のゲームとしては珍しい特徴として、このゲームは短いプレイ時間で満足できる。たとえば"Fallout 4"などは、知らない間に半日以上プレイしていて日常生活に支障を来すこともあるが、このゲームはかなりの集中力を要するため、短時間で疲労する。そのため、15分ほど超集中してプレイしたら、中断して休憩を取ったり、別のことをしたりといったことが容易。隙間時間で遊べる、実は忙しい現代人にはもってこいのゲームといえる。
結局、私はこのゲームをプレイしていて、一度もストレスを感じなかった。
このゲームは難しいが、理不尽な要素はないし、運ゲー要素もないし、無意味に時間がかかることもない。クソい要素が全然ないから、腹も立たないのである。
また、難しいと言っても、過度にシビアな操作を要求されるわけでもない。選ばれた一握りの人間しかクリアできないわけではなく、プレイしていればそのうち必ずクリアできる難度になっている。これだけフェアなバランスのゲームは珍しい。
ただし、操作をマスターするには時間がかかる。思い通りにハンマーが扱えるようになるまでには、根気よく考え、練習する必要がある。ここで好みがはっきり分かれるだろう。格闘ゲームや『アーマード・コア』などのように、練習の末に操作をマスターするゲームが好きな人なら苦にならないだろうし、ゲームの操作なんかで地道な練習などしたくない人には合わない。
私の場合、大まかな操作方法を理解するのに3時間かかり、基本操作をマスターするのには12時間かかった。初回のクリアタイムは15時間。
他のゲームで比較すると、"I am Bread"でパンの基本的な動かし方を理解するのに5時間、"Witcher 3"でクソゲーだと思わずにプレイできるようになるのに10時間、『デビルメイクライ4』でスタイリッシュに戦えるようになるにも10時間。"Dark Souls II"で「まともに戦えている」と実感が得られるまでには40時間かかっている。
このゲームの操作方法は独特で、一見直感的にプレイできそうだが、実は直感的ではない。マウスの動きとハンマーの動きは連動しているようで、実はそうでもない。
このことに気付くまでに、私の場合は12時間かかった。頭ではもっと早い段階でわかっていたのだが、本当の意味で理解し、実践するまでにはそれだけの時間を要した。
「直感的でないことくらい、見ればわかるだろ」と、実況プレイなんかで見ただけの人なら思うかもしれない。しかし、見ているだけの人や初心者は、自分で思っている以上に、このゲームの操作方法を真の意味では理解していない。そこに気付き、真の理解へと辿り着くまでが、このゲームの最初の壁だと言える。
一般的には、このゲームの壁はランプ縦穴やオレンジ崖だと言われており、実際私もそこで長いこと足止めを食ったが、本当の難所はそこではなく、自分の中にある常識を打ち破ることにあると私は思う。
この辺の感覚は"The Witness"と似ている。"The Witness"はルールが明示されていないパズルゲームで、プレーヤーは問題を解くことでルールを理解していくという、少し変わったアプローチを取っている。どうすれば不正解、あるいは正解かという結果からルールを類推していく。
ある程度進めていくと、プレーヤーはルールを完全に理解したと確信する。しかしあるとき、そのルールの理解の仕方が間違っていることに気付く。正解のはずが、不正解になるのである。
"Getting Over It"の操作方法も、これと同じようなことが起きる。操作を理解しているはずなのに、思い通りに動いてくれない。それは操作性に問題があるのではなく、プレーヤーの理解が間違っているのである。
"Getting Over It"はアクションゲームだが、そういう意味ではパズルゲーム寄りのゲームと言えるかもしれない。このゲームに必要なのは、手先の器用さや反射神経などよりも、考えることだったりする。なぜ思った通りにハンマーが扱えないのかという謎を解くゲームという側面がある。
このゲームでは、開発者によるナレーションがときおり入り、本作についての解説や、最近のゲーム事情に関する論評などを述べている。また、プレーヤーが大きく失敗すると、失敗に関する格言を朗読する。これがタイトルに"with Bennett Foddy"とあるゆえん。
ゲーム中に格言が引用されるのは、海外のゲームでは珍しくない。たとえば『コールオブデューティー』では、キャンペーンモード中にプレイヤーが死ぬと、戦争に関する格言が表示されたりする。
また、ナレーションが煽ってきたりするのも珍しくない。たとえば『リッジレーサー』では"You're too slow"とか言われたりするし、近年の有名どころだと"Portal"ではGLaDOSに皮肉を言われっぱなしである。
ただ、ゲーム本編にゲームの解説が入るのは珍しい。おまけモードならともかく、本編の演出として他のゲームに対する論評や、今まさにやっているゲームそのものの解説を開発者がするわけである。変なゲームではある。
その解説によると、開発者は本気でマゾゲーマー向けにマゾいゲームを作ろうとしたらしい。つまり、ストアページの宣伝文句について、開発者は本気でそれを狙っていたようである。
しかし、残念ながら、この思惑は外れていると言わざるを得ない。少なくとも私はこのゲームをマゾゲーだとは思えなかった。マゾゲーというのは"Baba Is You"とかのことを言うのである。
総評は、チャレンジングで面白いゲーム。短時間で集中してプレイでき、かつ、本腰を入れてプレイできるゲームを求めているならおすすめ。
ただ、合わない人は本当に合わないらしいので注意。アクションゲームが苦手でも問題なく、時間さえかければ誰でもクリアできるはずだが、クリアするまで付き合えるかどうかには個人差がある。
もしかすると、これはアクションゲームよりもパズルゲームが好きな人の方が適性があるのかもしれない。プレイしたときの感触が『魔界村』や『悪魔城ドラキュラ』などよりも、"Braid"や"The Talos Principle"、"The Witness"などに近いように感じた。
以下はちょっとだけ、ネタバレありの話。
私がこのゲームが「すごい」と思ったのは、オレンジ崖を越えた後だった。プレイしたことのある人ならわかると思うが、オレンジ崖は、このゲームの基本操作をマスターしていないとクリア出来ない。適当にハンマーを振り回して運良くたまたまクリアすることはまずない。オレンジ崖をクリア出来たプレイヤーは、もうスタート地点に戻されることはなんでもなくなっているはずである。
オレンジ崖を越えたとき、私は、ここまで来ればクリアは目前だと実感した。この後、どんな障害があっても乗り越えられるはずだという確信を得た。残りの道程は消化試合みたいなものだと思ったのである。
しかし、そんな自信を、帽子崖と金床がへし折ってくるのである。あのゲームバランスは神がかっていると私は思う。
この手のゲームは、段階的に難しくなっていくことが望ましい。しかし、たいがいのゲームはそこがうまく行っておらず、序盤に理不尽な初見殺しや難しすぎる課題を与えてプレーヤーのやる気を削ぐ一方で、終盤になると簡単すぎてつまらなくなることが多い。
しかし、このゲームは模範的なくらい、きっちりと段階を踏んで難しくなっていく。オレンジ崖を越えたプレーヤーにはそれにふさわしい課題が与えられるし、金床を越えたら雪玉と桶が待っている。
雪玉はこのゲームで唯一の初見殺しと言える。ジャンプした先がどうなっているかはジャンプしてみないとわからない。たいがいのゲームでは、こういう初見殺しを序盤に持ってくるが、このゲームでは終盤に持ってくるところが面白いところである。
そして、唯一の動くオブジェを足がかりにしたジャンプを必要とする桶へと続く。
雪坂は事実上の最終関門となるが、ここまで変な山登りを続けてきたクライマックスが雪の坂という、山登りゲームとしては正統なシチュエーションなのは面白いところ。
あと、ちょっと笑ったのは、ここに来てついにおっさんの名前が明かされること。雪が静かに降る中、山を孤独に登る感動的な場面が台無しである。何も今明かされなくてもいいだろ(笑)
どうでもいいが、おっさんの名前からすると、もともとの企画では樽に入って山登りするゲームだったのかもしれない。
エンディングテロップは訳されていないが、ざっと読むとお薦めのゲームなどが紹介されている他、「何度も落としてごめんね」みたいなことが書かれている。
私がこのゲームで気に入らなかった点は、こうもりだけである。あれはトラップとして意味がなく、ただうるさくて不愉快なだけ。あれはせっかくの完璧なゲームに汚点を残した要素だったと思う。
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