LIMBO

 まずはじめに注意しておく点がある。"LIMBO"はもともと2010年にXbox Arcadeにてダウンロード発売されたXbox360のタイトルだが、Xbox360版と、それ以外のハードで発売された"LIMBO"にはいくつか違いがある。


 Xbox360版にはチャプターセレクトと隠しステージがない。代わりに「隠し卵」が存在した。実績に絡む卵とは別に、複数の卵が存在したのである。

 私は隠し卵を探すのが好きだった。一方で隠しステージは気に入らなかったので、オリジナルの360版の方が好きである。

 ただし、チャプターセレクトがないのは、卵を探す際に不便である。終盤にある卵を探すにも最初からプレイしなければならないし、うっかり通り過ぎたらやり直しである。



 私が今回プレイしたのはSteam版の"LIMBO"。入手経緯は忘れたが、期間限定で無料だったか、"INSIDE"を買ったら付いてきたかした。

 すでに360版でやり込んでいたので、買ってまで再プレイする気はなかったが、せっかくもらったのでプレイすることに。



"LIMBO"は同時期に発売した"Braid"と並んで、アクションパズルゲームとして高い評価を得たインディーゲームである。

 古典的な横スクロール、シンプルな操作、影絵のようなモノトーンのグラフィックが特徴。後に"LIMBO"調のゲームがわらわらと登場した。影絵のようなモノトーングラフィックの横スクロールアクションパズルがうんざりするほどリリースされた。


 私は当時、そこまで"LIMBO"を高く評価していたわけではない。再プレイしても、やはり気になる点はいくつかある。

 序盤の、鬱蒼とした森の中で大蜘蛛の追跡をかわすチャプターまでは、"LIMBO(辺獄)"というタイトルや、影絵のような雰囲気とゲームの内容がマッチしていてとてもいい。

 しかし、蜘蛛の次に登場するのは、現地住民だかなんだかの集団。トラップを使って少年を殺そうとするのだが、わりと間抜けなために自分で罠にかかって次々死んでいく。蜘蛛の恐ろしさや威圧感に比べると、どうしてもスケールダウンした印象になる。

 その後は明確な敵らしい敵は出てこなくなる。主人公の頭に寄生して、勝手にひたすら前進させてしまう虫は、独特だし気味が悪くていいのだが、ステージは工場やネオンサインの光る街など、どんどん人工的な地帯へと入っていく。電動丸ノコをかわしたり、タレットの銃撃をかいくぐったりする。こうなるともはや「辺獄」らしさは何も無い。そして最後は重力方向を変えながら進む変なステージになり、そこを突破すると、なぜか最初の森に戻るのである。構成に一貫性がない。

 最後に森に行くんだったら、ステージ構成を逆にすれば良かったんじゃないの? と思う。繁華街から始まって、だんだん人気のないところへと進んでいくのである。それならステージ構成に説得力が出たと思う。最後に蜘蛛が出るほうがよっぽど良かった。


 それに、一部のトラップ(HOTEL看板や重力切り替えなど)はタイミングがシビアで、ミス即死のパズルアクションゲームとしてはバランスが悪いように感じた。高難度を謳うアクションゲームでシビアな操作を要求するのは構わないが、パズルアクションゲームはあくまで論理と発想で勝負できるバランスにして欲しい。解法がわかればクリア自体は簡単な方が望ましい。



"LIMBO"で特に私が気に入っていたのは、クリア後に隠し卵を探す要素があったこと。

"LIMBO"本編は、そこまで難度が高いわけではない。少し発想力を問われるパズルが後半に数カ所あり、1問だけ解くのに3時間ほどかかったものがあったし、タイミングがシビアで鬱陶しいトラップも数カ所ある。しかし、ノーミスクリアを目指さないのであれば、比較的簡単な部類のゲームといえる。誰でも気軽にアクションパズルをプレイできる、間口の広いゲームだった。しかしそれでは、アクションパズルゲームをやり慣れている人には物足りない。そこで隠し卵である。


 実績に絡む卵は、実績の説明文がヒントになっている上に、隠し方も穏やかで、まあ、探せば見つかる。しかし、360版にのみ存在した隠し卵はノーヒントで、相当ステージを隅々まで探さないと見つからなかった。落し穴にしか見えない穴にあえて入ってみたり、ステージのギミックを駆使して、本来なら行く必要のない、進行方向とは反対の壁を乗り越えてみたり。


 ゲーマーの中には、ステージの向こう側に行ってみたい願望を持つ者が少なからずいる。どんなゲームでも、すり抜けられる壁や塀を登れる場所をひたすら探す人は出てくる。壁の向こうが何にもプログラムされていない、ひたすら平坦な地面が続くだけでも、もしくは地面すらなく、たた延々と落下するだけだとしても、とにかくゲームの裏側に行くだけでも満足なのである。

 そして、360版隠し卵には、そうしたフロンティア精神を満足させる要素があった。ゲーム本編のボリュームが物足りなくても、ステージ外に行けるギミックがたくさんあるだけで、結構遊べたのである。


 だが、360版以外の"LIMBO"では、それらが削除されている。もちろんSteam版にも存在しない。私はそのことを知らなかったので、再プレイ中、「ここの壁って乗り越えられるんだよな。とりあえず隠し卵をひとつ取っておくか」と、乗り越えようとして、乗り越えられなかったときの失望感は説明のしようがないほど大きかった。

 なぜこんなことにこだわるのか、わからない人のために、例え話をしよう。もしミニファミコンに収録されている『スーパーマリオブラザーズ』で、ワープゾーンが削られていたらどうだろう。1-2で天井に登って土管の裏に行けなくなっていたら?



 代わりに360版以外には、隠しステージが1つ追加されている。実績に絡む卵を全部取ると入れるようになる。

 しかしこのステージは、360版隠し卵がなくなった傷心を癒やすものではなかった。むしろはらわたが煮えくりかえるほどクソなステージだった。真っ暗で何も見えない中で、丸ノコや落し穴をタイミングでかわすトラップが連続するステージなのである。


 このゲームの良かった点のひとつは、モノトーン調でありながら、視認性は良かったことだった。暗くてよくわかんないせいで死ぬトラップはなかった。影絵のようなステージはあくまで雰囲気を演出するためのもので、ゲームプレイを阻害する要素にはなっていなかったのである。

 しかし追加した隠しステージで、ついにそれをやりやがった。馬鹿である。

 視認性を悪くして難度を上げるのは誰でもできる。面白くもない。モニターの電源を切られるようなもんである。そんな子供じみた仕掛けで難度を上げているゲームを見ると心底腹が立つ。

 この隠しステージは難しくない。タイミングを掴めば簡単にクリアできる。しかしこれは難度の問題ではない。画面を真っ暗にして「バズルでござい」と言う手抜き仕事がダメだということである。


 しかも、この隠しステージのオチが酷い。結局、正規ルートに戻るだけなのである。隠しステージをクリアした際に解除される実績の説明文には「逃げたって無駄だよ」とある。ステージ外に行ける楽しい要素を全てぶち壊し、クソみたいな隠しステージを押しつけておいてコレである。



 あまりに腹が立ったので、Xbox360を引っ張り出してきて、360版"LIMBO"をプレイした。


 360版"LIMBO"は、ゲーム本編に違いはない。チャプターセレクトがないだけ。また、私のデータは隠し卵をすでに取ってあるので、再プレイしても隠し卵は出てこない。

 しかし、卵のあった場所には行ける。つまり、360版でしか行けない場所がたくさんある、ということである。それで充分である。ステージの隅々まで探検し、ギミックを使いこなしてゲームの「外」に行く喜びは充分に味わえる。そして360版にはクソ隠しステージはない。


 ところで実は、私は1個だけ取っていない360版隠し卵がある。それは、ノーミスで最後まで行き、最後の森を逆走したところに出てくる卵である。

 私は隠し卵に関する攻略情報を見たことがないから、これが本当に正しいかはわからない。しかし、私が1つだけ隠し卵を取っていないことは明らかで、かつ、明らかに隠し卵がありそうなのに見つからない場所が、エンディング直前の逆走した場所なので、まず間違いないと思う。

 実績を取るだけなら、4ミス以下でクリアすればいい。私は2ミスでクリアしたことはある(というわけで、360版の実績は全て解除してある)。しかしノーミスとなると、HOTEL看板や終盤の重力操作でうっかり死にやすいので結構キツい。そこまでやる必要はないだろ、ということで、未だに取っていない。私はノーミスクリアやタイムアタックに興味がない。やらなくていいならやりたくない。



 このゲームは、テキストや台詞による説明は一切ない。そのうえ謎めいた雰囲気のあるゲームだったため、いろいろな考察がなされた。

 ただ、ステージ構成の一貫性のなさから考えても、このゲームにそこまで深い意味があるとは私には思えない。


"LIMBO"はキリスト教で言うところの辺獄のことで、洗礼を受けていない者が死後にやってくる場所だと言われている。これはつまり、洗礼を受ける前に死んだ子供がやってくる場所ということでもある。

 主人公や、主人公が助けようとしているらしき妹(?)が子供と思しきことから、いろいろ想像できるところではある。


 ゲームタイトル画面とエンディングの場所が同じというのも、よく知られた仕掛け。タイトル画面でハエが飛んでいる場所に、エンディングでは主人公と妹がいた。だからどうなのかと言われても困る。解釈はいろいろできるが正解はない。

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