Baba Is You

"Baba Is You"は、かわいいキャラクターと、ゲームルールを書き換えるという面白そうなゲームシステムで、多くのカジュアルプレーヤーを惹き付けそうな見た目をしているパズルゲームである。

 しかし、その実態はガチなパズルゲームであり、恐るべきマゾゲーである。


 近年のパズルゲーは"Portal"を始めとして、"Limbo"や"Braid"(星集め除く)、"Lightmatter"、"The Room"など、カジュアルプレーヤーでも楽しめるタイプのものが増えている。ほどほどの難度で、誰でも頑張れば解けて、解けたら自分が賢くなった気分になれる、楽しいパズルゲーがたくさんある。


 しかし、このゲームに慈悲はない。隠し面以外なら誰でもクリアできるとか、そんな甘ちょろなバランスにはなっていない。容赦なくプレーヤーを絶望の淵に叩き落とす殺意に満ちている。

 このゲームのことを「楽しいヨ」などと評価しているのは、最初の十数問をちょろっとしかプレイしていない人ばかりである。

 確かに、簡単な問題をちょこちょこプレイするだけなら楽しいだろう。しかし、ちゃんとプレイすれば、このゲームの無慈悲ぶりを嫌というほど思い知ることになる。クリアしようとすると、もはや楽しんでいる場合ではなくなる。知恵熱にうなされる日々が待っている。



 このゲームで一応「ゲームクリア」とみなされる条件は、10あるエリアのうち4エリアをクリアし、「最終問題」をクリアすることとなっている。

 しかし、4エリアクリアするというのが、そもそも大変。各エリアにはたいがい1つ2つ激ムズの問題がありエリア攻略を阻む。解けない問題は置いておいて、できる問題から解いていこうとすると、結局どのエリアにも解けない問題が1、2問残っている、という事態になりがち。

 さんざん頭を悩ませた挙げ句、なんとか最終問題を出現させてクリアすれば、一応エンディングらしき演出が入るが、それが偽エンディングであることは見え見え。あのエンディングが観られるほど頑張ったプレーヤーなら、そこでやめたりはしないだろう。そして、真の地獄へと続く入り口へと進むのである。



 このゲームは、構文を書き換えることでゲームルールを変えられることが特徴となっている。

 たとえば"Baba" "Is" "You"というブロックを繋げて構文を作ると、"Baba"という白い謎の生物がプレーヤーの操作するキャラとなる。

 ここで、この"Baba"を"Wall"と置き換え"Wall Is You"とすれば、画面上にある壁全てがプレイアブルキャラとなる。そして"Baba"は何の役割も持たないオブジェクトとなる。

 この仕組みを利用することで、"Wall Is Baba"などの構文を作って壁だったものを全部"Baba"にしたりなど、普通のゲームでは起こりえないような目茶苦茶な状態を作ることが出来る。


 このゲームの仕組みを説明すると、たいがいの人は、「このゲームは攻略法が何通りもあって、自分なりの攻略法を模索できるゲームなんだろう」と感じると思う。私も最初はそう思っていた。

 しかし実際には、何パターンも解法のある問題は多くない。ほとんどの問題の解法は決まっている。このゲームの本質は「どんなルールで解けば面白いか」を考えるのではなく「そのままではクリア不可能な問題を、どういう手順でどのようにルールを変えていけばクリア可能にできるか」を考えるものとなっている。デバッグ作業に似ている。



 難しい問題になると、ぱっと見ではどうやっても解けそうに見えないことがある。「これ、クリア不可能だろ。バグってるんじゃないの?」と思える。しかし、解けない問題は1問もない。


 解けないように見えるのは、ルールを書き換えることでかなり無茶ができるゲームなだけに、頭で考えるだけではまず思いつかないような、妙な挙動を利用しなければ解けないものが少なからずあるからである。このゲームの難度が高い理由はそこだろう。


 パソコンのプログラムは構文通りに走るのだから、理屈としては、構文を見ればどういう挙動をするのか完璧に予測できる。

 しかし実際にはしばしば、予想していなかった挙動をする。それはパソコンのせいではなく、人間のミスや勘違いからくるものである。

 このゲームでは、その「予想していなかった挙動」を利用することで問題を解かなければならない。理論上は理詰めで考えれば解法はわかるが、実際には、そんな挙動が起きるとは思いつきもしないのである。やってみて初めて「ああ、こんな挙動になるのか」とわかるのだが、まさかそんな挙動になるとは思っていないから、試そうとも思わない。だから延々解けない。発想の盲点を突いてくるのである。

「こんなことやっても無駄だろ」と思えるような馬鹿馬鹿しいことをあえてやってみることで、初めて解法が分かることも多い。



 私は全問クリアしたが、クリアまでには1ヶ月以上かかった。その間、解けない問題がなぜ解けないのか頭を悩ませ、あまりに脳みそを働かせすぎて吐きそうな気分になることもしばしばだった。

 あまりにも解けないから、解けない問題の画面をプリントアウトしてバッグの中に入れ、暇があったらそれを眺めていた。

 もはや楽しいとか楽しくないとか、そんなことを感じる余裕すらない。ただ未解決の問題が残っていることの気持ち悪さに悶える日々が続いた。


 もうクリアは永久に不可能なんじゃないかと思った問題も数問あったが、それもなんとかクリアし、隠しエリアもほぼ片付いて、もうちょっとで全問終わる、ついにこのゲームから解放されるぞ! と喜んだのも束の間、さらなる隠しエリアを見つけてしまったときの絶望は、"DARK SOULS"をプレイしていたときとは比べものにならなかった。ゲームをやっていて心がぼっきり折れる音が聞いたのはこれが初めてである。このゲームこそまさしく、絶望を焚べなければクリアできないゲームである。



 なお、パズルゲームの性質上、ネットで答えを調べれば、難なく全問正解できる。だから、わからない問題は答えを見て解けば、「全問解いたぞ、こんなの簡単だったぜ」と自慢することは簡単。そういうこともあってか、Steamで全問クリアしている人の割合は2.4%と意外と多い。

「解けない地獄」から逃げたければ、いつでも逃げ道がある。自力でなんとかするしかないアクションゲームに比べれば、マシといえばマシ。しかし、一度逃げてしまった問題とは二度と向き合えないのもパズルゲームである。


 質の悪いパズルは、自力で解かずに答えを見てしまうのもひとつの手だと私は思う。プレーヤーは悪問に付き合う義理はない。アンフェアなゲーム、つまらないゲームを真面目にプレイする必要などない。

 しかし"Baba Is You"は、何としてでも自力で解きたくなる。悪問も数問混ざっているが、総合的には自力でクリアする価値がある。だからこそ余計にマゾいゲームだともいえる。クソゲーならプレイしなければいいが、残念ながらこのゲームはいいゲームなのである。



 ちなみに、私が悪問だと思う問題を挙げておく。プレイしていない人にはわからない話だとは思うが。


 まずは、FALL-12 "DEAD END"。私はこれを解くのに2日かかったが、答えが分かったとき「そりゃないだろ」と思った。しかもこの解法はこの問題でしか使わない(はず)。理屈はわかるけど酷い問題だと思う。エレガントでもない。あまりにも馬鹿馬鹿しすぎる。


 FOREST-E "INSULATION"。クリアするのに不要なブロックがある。

 開発側の考えている解法には無駄な一手があり、その解法ではそのブロックを使う。しかし、ほぼ同じ解法で、ブロックを使わずに解く方法がある。

 そして、その不要なブロックがあるせいで、かえって解法が分かりづらくなっている。これは文句なく悪問である。



 最も手こずった問題は2つ。

 ひとつはMOUNTAIN-EX1 "THE FLOATIEST PLATFORMS"。

 実はこの問題の解法は、最初の段階で思いついていた。しかしそのときは「そんなことやって意味があるか?」と思って試そうともしなかったのである。そのうち、思いついていたことすら忘れてドツボに嵌まり、結局、半月も解けなかった。

 恐ろしいのは、これが表エリアの問題だということ。隠し問題ではないのに半月かかったわけである。いかにこのゲームの難度が容赦ないか、わかるだろう。


 同じく半月かかった問題が、???-6 "PARADE"。

 やることはなんとなくわかるのだが、何度やっても手駒が足りなくなる。本当にこれでクリア出来るの? と、何度思ったか知れない。

 この問題は、このゲームのシステムをきっちり理解していないと解けない。しかし、この問題の解法は、覚えている限りでは他の問題では使わない。私はこういう、特定の問題でのみ使う解法を求められるものは得意でない。

 ただ、よく考えれば、仕組みとしては同じ解法を使う問題はある。この問題を解いた人なら気付いたと思う。

 解法がわかれば、あとは頭の中で組み立てた手順を再現するだけだが、その手順が複雑で面倒くさく、失敗して何度もやり直す羽目になる。解法がわかってなお手順が面倒な問題は、このゲームでは珍しい。

 なお、半月かかってようやくこの問題を解いても、次に出てくる問題がまた難しく、喜びに浸っている余裕などないのであった。

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