INSIDE

"INSIDE"は、直接的ではないものの、"LIMBO"の続編としてリリースされたゲーム。


"LIMBO"が高い評価を受けた後、インディーゲームでは"LIMBO"のパクリゲーがたくさん作られた。その多くが横スクロールで影絵みたいなグラフィックを使用していた。あの特徴的なグラフィックを真似すれば、"LIMBO"みたいなゲームが作れて儲かると思ったらしい。


 しかし、"INSIDE"は影絵風グラフィックを捨てた。色つきの立体的な背景グラフィックへと切り替えた。みんながこぞって真似した要素を真っ先に捨てたのである。

 それでも、色味を抑え、光と影を巧みに使ったグラフィックはまさしく"LIMBO"の続編としてふさわしいし、プレイすれば、明らかに"LIMBO"の続編だとわかる。これが本物と、表面的にしか真似ることができない者との差というやつである。



 もうひとつ"INSIDE"が革新的だったのは、"LIMBO"より難度を下げたことだった。謎解きが多彩になったわりには、ひとつひとつの謎解きはそれほど難しくなく、長時間行き詰まるほどのものはない。また、シビアなタイミングを要するシーンもなくなっている。


 一方で、アクションとしての難度が下がっても緊張感を維持するための工夫として、追跡してくる敵の速度に調整をかけている。

 プレーヤーが走って敵から逃げる際、最初は敵の動きが遅い。もしくは敵が追跡してこない。初見でどうしていいかわからないプレーヤーのために、考える時間を与えているわけである。そして、走るべき方向がわかり、このまま走ってジャンプして次の足場へ渡ればいいとわかった頃には、ちゃんと敵が背後ぎりぎりに迫っているように演出しているのである。

 この工夫のために、1周目でも2周目でも、ヘタクソでもうまくても、最終的に敵が追いつく距離は同じになっている。難易度を下げつつ緊張感は高めるというこの工夫は素晴らしい。ただ難しくすればいいと思っている凡百のゲーム開発者は見習って欲しい。


 また、何分以内でクリアとか、何ミス以下クリアで解除されるような実績も排除した。この手の雰囲気を楽しむゲームには、プレーヤーの心の余裕を奪うような実績を作るべきではない。ゲームをじっくり楽しめなくなってしまう。だからこれはとてもいい判断だと思う。タイムアタックやノーデスアタックをする人は、実績がなくても勝手にやるもんである。



"LIMBO"はステージ構成に一貫性のないゲームだったが、"INSIDE"は一応、構成がわかりやすくなっている。どこぞから逃亡した少年が、森、街中、工場、研究所と進んでいき、なぜか研究所で暴れ回ることになる。

 最初は逃げているのかと思っていたし、主人公も逃げているつもりだったのかもしれないが、実は社会の中枢へと侵入していたわけである。


"LIMBO"は、道中に様々なトラップが仕掛けられていたものの、そのトラップを仕掛けた主については描かれていなかった。しかし"INSIDE"には明確な悪意の主が存在する。それは「人間社会」である。

"INSIDE"の世界はディストピアな社会となっており、支配層と被支配層に分かれている。支配層は普通の暮らしをしており、電車に乗ったりなんだりしているわけだが、被支配層の人間は、捕まえられてトラックで運ばれ、洗脳装置を付けられてロボット人間化して強制労働させられたり、あるいは研究所で人体実験されたりしている。


 主人公は最初、特殊警察的なやつと犬に追っかけられているので、明らかに被支配層なのだが、後半になると操り人形化した人間を操ることができるようになり、それを利用してパズルを解いて先に進むことが出来るようになる。肉ロボット労働力万歳である。

 終盤には、研究所内で培養されている謎の肉塊と、なぜかわざわざ融合する(つまり、この怪しい研究所の怪しい研究に協力している)。肉塊主人公は、さんざん暴れ回ってカフェテラスやらなんやらを破壊して周り、重役だか社長だかを殺した挙げ句に研究所の窓をぶち破り、坂道をごろごろと転がって水辺で停止する。主人公は、最終的にはこの社会の「悪意」に加担することになるのである。


 最初、あのラストを見た人は、みんな「えっ、これで終わり?」と思ったことだろう。意味わからんし、ものすごく中途半端な終わり方に見える。そもそも、あの水辺の先にはまだ何かありそうだし(ジオラマを見る限り、あの先には建物がある)。


 しかし、私は大興奮だった。「すげえ! こんな終わり方するのか! このゲーム面白すぎだろ!」と思った。"LIMBO"の思わせぶりなだけでの終わり方よりも、"INSIDE"の終わり方の方が私は好きである。やるだけやり切った感がある。何をやったかはわからないが。

 研究所を爆破したわけでもないし、悪い奴らを皆殺しにしたわけでもなく、ただ肉塊になってごろごろしただけだが、あのナンセンスで無茶苦茶な展開は楽しい。最後にこんなことになるとは、誰が予想できただろうか。

 最初はあんなにストイックに犬から逃げたり、頭を使って先に進んでいたのに、最後はパズルも何もなく、ただ好き勝手に暴れ回ってカフェララスを台無しにしたり社長(?)を殺してみたりするだけ。ヤギゲーに匹敵するほどのお馬鹿っぷりである。



 今作にも"LIMBO"における「卵」のような隠し要素があるが、今回は隠し要素を全て見つけた人にはちゃんとしたご褒美がある。それは、隠しエンディングが見られるということである。やったネ!


 ただし、隠しエンディングを見るための条件はかなりエグい。隠し要素を全て回収した後、某所の隠れ基地でパスコードを打たなければならないのだが、このパスコードはとある場所で流れる音楽がヒントになっているのである。

 本編の謎解きが簡単になった代わりに、最後の最後、ここだけは本気を出してきやがった。本編は簡単に、隠し要素は難しめに! パズルゲームはこうでなくっちゃね。

 このパスコードを見つけるのは相当苦労した。私は最初、"U"看板がヒントだと思っていて看板探しをしていたのだが、その過程で偶然、あの音楽が流れていることに気付いた。もう少しで聞き逃し、ドツボに嵌まるところだった。

 まあ、ちょっと難しすぎだろとは思う。音楽の流れる箇所とパスコードを打ち込む場所が全然違うわけだし。もう少し関連性のある場所で流れるべきだった気がする。


 さて、その肝心の隠しエンディングだが、電源を切ると主人公の動きが停止し、ゲームの進行が全てリセットされるというステキな仕掛けとなっている。まあ、隠し要素も含めてもう全部クリアしたんだし、リセットされても問題ないよね! ……酷いよ。


 このエンディングの解釈はいろいろ言われているが、私はシンプルに、主人公はプレーヤーに操られている人形に過ぎなかったというメタフィクション的なオチだと思っている。つまり、真の黒幕はプレーヤーだったのだと。まあ、それを言ったら、さらに真の黒幕は、進行ルートを決めたゲームデザイナーなわけだが。プレーヤーはデザインされたルートに沿ってのみしかゲームを進められないわけだから。

 このゲームをプレイした人は、「人間を操り人形にして使い捨てるなんて酷い!」とか思ったかも知れない。しかし、そんなプレーヤーだって、主人公を操り、殺しまくって楽しんでいたじゃないか、ということ。人間を肉ロボット化していた支配層の人間も、その肉ロボットを使い捨てていた主人公も、そしてその主人公を使い捨てていたプレーヤーも、結局は同類だというオチなのだろう。


 そして、主人公が肉塊にわざわざ融合した理由も、なんとなくわかる。あれは主人公の意志ではなく、プレーヤーや"INSIDE"の開発者を含めたみんなの意志だったわけである。あの肉塊にはみんなが群がってワクワクしていたが、その一人はプレーヤー自身だったということ。実際、肉塊を操作して暴れ回るのは楽しかったじゃない? 社長らしきのをぶち殺したときに快感を覚えなかったことはいないはずである。プレーヤーは支配層側で、このショーを特等席で見ていたのだとすれば、当然、あの場の選択は肉塊と融合して暴れるのが正解に決まっているだろう。


 そして、こうなると、"LIMBO"にはあった4ミス以内クリアという実績をなくした別の理由も見えてくる。主人公は操り人形に過ぎず、その命に価値はなく、いくらでも使い捨て可能なのだから、大事にする必要などないのである。それなのに4ミス以内クリアで実績解除したらおかしいだろう。



"INSIDE"は"LIMBO"にあった問題点をほぼ全て改善した。ゲームバランスは良くなり、ゲームボリュームも増え(ただし、簡単になったために"LIMBO"より早くクリア出来てしまう)、一貫性がなく、思わせぶりなだけで曖昧すぎたゲームデザインにはちゃんとした筋道ができた。そして、見た目のグロさではない方向で、ダークでエグい世界観を作り出し、そこにプレーヤーを巻き込むことに成功した。

 私は"LIMBO"についてはそこまで高く評価していないが、"INSIDE"はべた褒めしてもいい。ただし、私がそれだけ好きということは、万人向きではないということでもある。

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