The Evil Within 2(サイコブレイク2)

 EPIC Gamesにて"The Evil Within 2"が期間限定で無料配信されていたのでプレイ。


 前作はPC版は日本語未対応だったが、今作はちゃんと日本語音声、日本語字幕に対応している。また、前作のようにカックカクの処理落ちしまくりということもなく、ちゃんと最適化もされている。



 先に"The Evil Within"のレビューを読んだ人ならご存知だろうが、私は前作をプレイしたものの、チャプター4で放り出した。あまりにも初見殺しが多く、勝手にルールをころころ変え、開発者が仕掛けたトラップを用意された順にいちいち踏まないと進めないようになっている独り善がりなゲームデザインにうんざりしたからである。


 にも関わらず、続編の"2"をプレイしたのはなぜか。


 ひとつは、無料でプレイできたから。さすがに前作を途中で放り出しておきながら、続編を買ってプレイすることはなかったと思う。


 もうひとつは、"Ghostwire: Tokyo"のデキが良かったから。

 Tango Gameworksは2014年に"The Evil Within"、2017年に"The Evil Within 2"、2022年に"Ghostwire: Tokyo"をリリースしている。

 そして"Ghostwire: Tokyo"には、"The Evil Within"にあった問題は見られなかった。開発者の独り善がりな初見殺し罠ツアーゲーではなかった。むしろかなりユーザーフレンドリーで快適なゲームだっだ。


 となると"The Evil Within 2"も、前作の問題を改善している可能性がある。


 私の推測は当たっていた。"The Evil Within 2"は、前作とはまるで別物のゲームになっている。前作にあった問題はほぼ全部解消されている。

 私の前作に対する評価はクソゲーだが、今作に関しては良ゲー。前作を途中で放り出した人でも遊んでいいデキになっている。



 前作はどうやら、メビウス(アンブレラ社みたいなクソ秘密組織)が作ったSTEMというシミュレーション内での出来事だったらしい。

 メビウスは、人類を全員STEMに閉じ込めて、幸せなシミュレーション内で暮せばハッピーになれるという、映画『マトリックス』みたいなことを考えたらしい。しかし、STEMがサイコパス野郎に乗っ取られたせいで、シミュレーション世界がサイコな世界観になってしまったようである。それが前作の舞台。


 主人公のセバスチャン元刑事は、前作でなんやかやあった後、主犯のサイコ野郎をぶっ殺してシミュレーションから抜け出したものの、「さっきまでサイコ野郎の脳内にいて死にそうになりました。怖かったです」という供述を信じてもらえず、頭のおかしい人扱いされて失職し、酒浸りの日々を送るダメ人間になった。


 ある日、セバスチャンはいつものように酒場で酔っ払ってくだを巻いていたら、メビウスに拉致られてしまう。

 メビウスはセバスチャンの娘を拉致って、その脳内をベースに新しいSTEMを作ったものの、その娘がシミュレーション内で行方不明になったらしい。で、父親であるセバスチャンに「救出しろよ、自分の娘なんだし」という、なかなか厚かましい仕事を押し付ける。

 というわけでセバスチャンは、再びシミュレーションの世界に足を踏み入れることになった、というのが今作のストーリー。

 ……正直意味がわからない。なんで秘密組織のトップシークレットに関わる問題を外部の人間に委託するのかね、このバカ組織は。


 例によってシミュレーションは頭のおかしいサイコ野郎が支配しているので、シミュレーション内ではいろいろサイコなことが起きる。そのサイコ野郎や、頭がおかしくなって化け物化した住民をぶち殺しつつ、娘を救うのが今作の目的である。



 今作も複数からなるチャプター構成になっているが、一部のチャプターは、小規模なオープンワールド的な内容になっている。つまり、街の中を自由に探索して、物資を集めたり、サイドミッションをこなしたりできる。

 ただ、ゲーム全体がオープンワールドではなく、ある程度進むと街には戻れなくなり、前作に近い、一本道のダンジョンを進むタイプのゲームになる。



 ゲームシステムは、基本的には前作を引き継いでいる。ただ、アクションはやや軽快になり、前作ほどストレスを感じなくなっている。


 また、ステルスの重要性が増している。前作は、せっかくステルスして敵を回避しても中ボスと戦う時に全員集合するから、回避するどころか、むしろザコ敵を全部見つけて片っ端から殺して進めたほうが簡単という馬鹿なゲームデザインだったが、今作はそういうことはない。

 敵は倒すとたいがいアイテムを落とすので、簡単に倒せる敵はスニークキルして死体漁りしたほうが得だが、コストパフォーマンスの悪い敵は回避したほうがいいなど、プレイヤー側で損得を考えながら敵を倒したり回避したりできるようになった。


 前作は初見殺しの罠だらけで、死んで覚えながら進んでいく感じのゲームだったが、今作は初見でも死なずにクリアすることは比較的容易になっている。知らないと詰む罠や即死罠は減り、頑張れば切り抜けられるように。


 それによって、前作よりはちゃんと怖くなっている。

 ホラーゲームは、死にまくるとかえって怖くなくなる。死にそうにはなるが、頑張ればそうそう死なないくらいがちょうどいい。そうすればプレイヤーは必死で死なないように頑張るから、死ぬのが怖くなるわけである。


 特に前半は主人公が弱っちく、武器も弱く、弾薬も資源も限られているので、敵に怯えながらこそこそと街を探索することになるので、なかなか怖いし、疲れる。

 後半になると主人公が強くなるのと、ストーリーの関係もあって、あんまり怖くなくなってしまうのが残念か。



 今作も、敵を倒した時に出てくる緑色のジェルを使って主人公自身の能力を高めたり、廃材を集めて弾を作ったり武器り強化が行えるようになっている。

 オープンワールド的なチャプターでは、隅々まで探索し、敵を片っ端からスニークキルしまくれば、結構な資源をかき集めることができる。それを使って自身や武器を強化することで、かなり難度を下げることができる。


 一切強化しなくても一応クリアできるようにはなっているが、かなり厳しい。体力やスタミナなどは強化しなくてもさほど問題ないが、遮蔽物に身を隠したままスニークキルを決めたり、敵に掴まれた時に手持ちの空き瓶を使って掴み状態を解除したり、即死攻撃を耐えたりなどの特殊スキルも、グリーンジェルによる強化によって解放できるが、これらの有無はかなり難度を左右する。


 マゾいプレイがしたい人向けに、ゲームクリア後にはクラシックモードという、強化なし、セーブ回数制限ありのモードがあるので、初回は素直に普通に探索して資源を集めてきっちり強化し、準備を整えてたら攻略したほうがいいと思うわれる。


 この要素は、ちまちました探索やレベル上げが好きな人には楽しいだろうが、純粋にアクションを楽しみたい人は面倒くさいと感じる点かもしれない。



 ストーリーに関しては、序盤は結構ホラー感が高めでいい雰囲気。ただ、中盤以降はストーリー展開がごちゃごちゃしてせわしなくなるし、主人公は主人公で、この手のゲームにありがちな、過去のトラウマとの対峙という名のお説教タイムが結構続く。そのせいで平凡な印象になるのが残念。ネタバレになるので詳しくは後述。



 総評は、名作と言えるほどめちゃくちゃいいゲームとまでは言わないが、普通に楽しめるサバイバルホラーゲーム。今だとセールで1000円以下で買えるが、この値段なら全く文句ないところ。

 ただ、ストーリーに関しては中盤以降がイマイチで、終盤に向かうにつれて緊張感がなくなる点は問題。

 とはいえ、過剰な期待をしなければ、充分遊べるゲームである。



 以下はネタバレあり。


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[攻略情報]

 本作の攻略サイトはいくつかあるが、意外とどのスキルや武器を取るのがいいかは書いていないので、書いておく。


 スキルは、基礎能力があがるやつよりも、新しい能力が付与されるもののほうが価値が高い。

 まずはスニークの掴み回避、戦闘能力の追い打ちの取得を目指すといい。

 掴み回避は、瓶を持っているだけで自動的に掴み状態を解除してくれる。追い打ちは、ショットガンやハンドガンの足撃ちなどで転んだ敵を踏んづけたりして倒せるようになる。


 次に、屈み移動Lv1、Lv2。このゲームはスニークキルがかなり重要なので素早くこっそり近づけるのは何かと便利。


 あとは自由に振ってもいいが、攻撃を確率で回避してくれる身体能力の回避Lv1、即死を免れることができる体力の根性Lv1は、いざというときに役立つことがある。



 武器は、序盤はショットガンの火力と装弾数、マインボルトの火力を上げるといい。

 ただ、ある程度進めたらギアとツールキットを貯めて、煙幕ボルトのLv3を最優先で取ることを目指したい。煙幕ボルトはLv3になると、煙に巻かれている敵にスニークキルが決められるようになる。固まっているザコを一掃足したり、火炎放射器を持っているクソ野郎など、スニークキルを決められるボス級の敵と戦う時に便利。スニークキルができなくても、敵の足止めはできるから、やはり有効。

 さらに煙幕ボルトEXまで強化すれば、煙でダメージまで与えられるようになるので、スニークキルできないボス戦でもかなり使えるようになる。ツールキットやギアに余裕があるならここまで取っておきたい。


 ショットガン、マインボルト、煙幕ボルトの強化は最優先だが、少し余ったギアがあるなら、ハープーンボルトやスナイパーライフルに回しておく手もある。

 ハープーンボルトは打ち出しに時間がかかるので、いざというときには使いづらいが、弾の製造コストが安い割に火力が高く、射程もまあまああるので、何かと役立つ。コストの安いスナイパーライフル的な位置付け。EXまで強化すると火が付くようになるが、今作はマッチで死体を燃やす動作がないのであまり意味がない。火力アップはするので、全く意味がないわけではないが。

 火は火炎放射器野郎には効かない。ただ、一見効かなそうな、燃えているザコにはなぜか効果がある。

 自爆する風船みたいなザコは、火付きハープーンボルトで着火すると一撃で倒せる。


 スナイパーライフルは敵の射程外、視界外から攻撃できる上に火力が高いが、弾薬コストが高いので出番はあまりない。スナイパーライフルの弾を作ると、その分ショットガンの弾を作れなくなるのがネック。

 私のおすすめはハープーンボルトだが、ここはプレイヤーの判断次第となる。


 あとは、余ったギアやツールがあるなら、ハンドガンの火力や装弾数を上げておいてもいい。

 雑魚戦ではハンドガンの火力は低くてもあまり関係ない。ヘッドショットで頭を吹き飛ばしたり、足を狙って転ばせるのが主な使い方になるので。

 ただ、ボス戦ではショットガンの間合いに入りづらく、かといってハープーンボルトやスナイパーライフルの照準を合わせる暇もないという状況になりやすく、そんなときには意外とハンドガンを多用することになりがち。そのときにハンドガンの火力が高いと戦いやすくなる。優先順位は高くないが、ギアが余っていたら回しておくのも手。


 アサルトライフルは火力が低く、弾も拾えないので、強化しても出番がない。

 火炎放射器も出番なし。セオドア戦の3戦目で使えるくらい。


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 本作は、ステファノが敵役を務めるチャプター8までは、ホラー感が高いし、演出的にも凝っているし、全体に緊張感がある。

 ステファノは、人が死ぬ瞬間を芸術的にカメラに収めたいという、常人では理解できない願望を抱くイカれた芸術家気取りだから、こいつが作り出す世界は狂っているし、理解できないからこそ恐怖を感じる。なかなかいい敵役だと思う。



 チャプター9以降、ステファノが死んだ後はセオドアが敵役となるが、セオドアは新興宗教のリーダーで、「世界征服」という超わかりやすい願望を抱く欲望丸出しの俗物のために、ホラー感が一気になくなってしまう。

 ここが本作の問題点である。ステファノが死んだ後、本作は一気に緊張感がなくなる。サバイバルホラーではなく、ただのアクションゲームになってしまう。世界征服を目論む宗教家や悪の秘密組織をぶっ潰し、娘を救うために戦うという、すんごく陳腐な内容にすり替わってしまうのである。


 また、セオドアはセバスチャンのトラウマにつけ込んで精神攻撃を仕掛けてくるが、この演出がベタでしつこいのも問題。

 セバスチャンは「家が火事になった時に娘を救えなかった」「本当は娘は火事で死んではいなくて、そう見せかけて悪の秘密組織が娘をさらったのだと主張する妻の言葉を信じてやれなかった」という後悔の念に苛まれている。セオドアはそこにつけ込んで、娘の幻影を作り出し、「パパは私を見捨てた」とか言わせたりするのだが、プレイヤーはそれがセオドアの作り出した幻影だわかっているから、そんな偽物の娘に詰られて苦悩する暇があったら、さっさとセオドアの頭を撃ち抜いて本物の娘を助けに行けよとイライラしてしまう。

 で、この展開が結構長いこと、繰り返し行われる。「俺はぁぁ~娘をぉぉ~救えなかったんだぁぁ(涙)」とか、毎回毎回主人公が泣き言を言うのはうんざりする。


 なぜなら、本作の目的は、シミュレーション内に囚われている娘を救うことだからである。実際に今、実物の娘が囚われていて、それを助けなきゃいけないという時に、なんで過去に娘を救えなかったときのことをいつまでも思い返してぐずぐず泣き言を言っているんだと。過去のことを悔やんでいる暇があるなら、今まさに囚われている実物の娘を助けに行けよと。


 こういう「主人公のトラウマ再現シーン」を導入するゲームはよくあるが、こういうシーンを成功させるには、プレイヤーと主人公のトラウマが同調していないといけない。つまり、プレイヤー自身に娘を救えなかった経験をさせなければ、こうしたシーンは成功しないのである。


 これがうまく行っている例としては、"Life is Strange"がある。"Life is Strange"では、自殺しようとしている友達を思い留まらせるために説得するシーンがあるが、会話選択肢を間違うと説得に失敗して自殺してしまう。その後、その友達に「あの時あなたは私を助けてくれなかった」と言われるシーンがあるが、これは本当にプレイヤー自身が説得に失敗して友達を救えなかったわけだから、ちゃんとトラウマをほじくり返してくれるわけである。



 セオドアの後は狂った妻、そしてメビウスのアホ支配者と、悪役がどんどん小粒になるのも問題。このゲームは終盤に向かうにつれ、どんどん話が陳腐になっていく。

 終盤に差し掛かる頃には私は呆れ果て、ストーリーに全く興味が持てなくなり、ただ、せっかくここまでやったんだし、とりあえず終わらせとくか、といった感じで、ただ義務的にプレイしてクリアした。このストーリー構成には問題があると思う。


 実は悪役の登場順は、逆の方が良かったんじゃないのかと思える。最初は狂った妻、次に俗物宗教家で、最後にイカれたカメラマンの方が良かったのでは。メビウスの支配者は適当なところで殺していい。どうせつまらん悪役なので。

 どう考えたって、世界征服を目論む馬鹿よりも、人の死を芸術的に演出したいという変態がラスボスのほうがイカレていて面白かったはずである。



 どうでもいい話だが、主人公のセバスチャンの日本語音声の声優は、『ボーダーランズ2』の悪役、ハンサム・ジャックと同じだったりする。

 ハンサム・ジャックは、特殊な能力を持つ自分の娘を実験材料に使い、その力を利用して世界征服を目論むクソ野郎だった。


 本作のセバスチャンは、単にメビウスに娘をさらわれただけで、完全な被害者であり何も悪くないのだが、どうもハンサム・ジャックの声で「あのとき、俺は娘を救えなかった」とか嘆いているのを聞いていると、思わず、娘をコアにしてSTEMを作ったのはセバスチャン自身であるかのように錯覚し、「お前は自分で娘を実験材料に使ったんだろうが、このクソ野郎が」と思ってしまい、なんか変な気分になる。


 全く本作のストーリーとは関係ないが、本作がハンサム・ジャックの贖罪の旅なのだと捉えれば、それはそれでちょっと面白い見方ができる気がする。

 先にも書いたように、本作のストーリーは途中から陳腐化・卑小化するから、妄想ストーリーでもぶっこんでやらないとモチベーションがもたなかった、という側面もある。



 そういえば"Ghostwire: Tokyo"も、妹を救えなかったことを悔やんでいる兄が主人公のゲームで、その妹は冒頭で火事に遭っているから、三上真司、あるいはTango Gameworksのシナリオ担当は、このネタが好きなのかもしれない。もしくは本作のシナリオを和風にして焼き直したのが"Ghostwire: Tokyo"だったのか。

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