PC:アドベンチャー

>_observer (Steam版) (6000字)

 Steam版">observer_"をプレイ。


 本作は、『ブレードランナー』に"1984"を混ぜた感じの、サイバーパンクなディストピアを舞台にしたホラーゲーム。ただし、歩き回れるのはアパートの中だけ。私はサイバーパンクな街中を歩き回れると思っていたので、この仕様にはがっかりした。ただ、意外とこのアパートは広くて、そこそこ探索する楽しみはある。


 初期バージョンは日本語非対応だったものの、現在は対応。音声は英語音声のみ。日本語字幕はところどころおかしく、主人公が突然オカマ口調になったりすることもあるが、もともとバグったような世界観なので、翻訳が怪しいことも雰囲気に合っているような気がしなくもない。


 マシンスペックはそこそこでも動くものの、フレームレートが不安定になって酔いやすくなるシーンがいくらかある。


 操作性は、全体に重たい感じ。ゲームの雰囲気には合っており、そもそも機敏な操作を必要とする場面はないので、特に問題ないように思う。少なくとも"Layers of Fear"よりは良くなっている。


 とりあえずネタバレしない範囲でプレイした感想を言うと、1周目は正直がっかりした。


 主人公は身体にいろいろ便利なツールを埋め込んだ刑事で、その場で機械や生体をスキャンしてデータベースと照合したり、DNA解析したりしながら犯罪捜査ができる。さらには被害者の脳チップに接続して、記憶の中を潜入捜査できる権限も有する。

 ……と聞くと、多くの人は新感覚のサスペンスゲーを期待したのではないかと思う。私もそうだった。


 しかし実際には、本作はサスペンスゲーの要素は限りなく薄い。せっかく便利なガジェットを多用しているわりには得られる手がかりは少なく、結局、通常の聞き込みや、血痕を辿っていくなどの古典的な捜査方法に頼っている。そのうえ、証拠固めをして犯人を特定するとか、そういう展開もない。


 サスペンスがダメなら、ホラーゲーとしてはどうかというと、全然怖くなかった。

 演出は"Layers of Fear"に比べると断然良くなっていて、とりあえず大きな音で脅かしとけ、みたいな低レベルな演出は減っている。ないとは言わないが。

 ただ、脳内潜入時の対象者の記憶の部分は、結局は他人事なので怖くなく、主人公自身の「恐怖」にしても、プレーヤーにとってはやはり他人事。

 特に問題なのが、プレーヤーはそもそも、主人公がどんなトラウマや恐怖を抱えているかを知らされないこと。ゲーム序盤には全く分からないし、ゲームを進めていっても、おぼろげに推測することしかできない。となると、主人公のトラウマを突いた恐怖体験が描かれても、プレーヤーはその恐怖を共有できないのである。


 また、謎の敵との隠れんぼや鬼ごっこが多少あるのだが、捕まったところでゲームオーバー、リトライになるだけ。怖いというより面倒くさい、鬱陶しいだけ。


 せっかくサイバーパンクな世界観はいい雰囲気を出しているのに、いまいちそれを活かせていない感じがして、もったいないゲームだな、というのが1周目をプレイしたときの印象だった。



 しかし、2周目をプレイしてみると、この評価は大きく変わった。

 1周目は、何の情報もないままこの世界に放り込まれたため、情報の収集、整理に追われて、楽しむ暇もなければ、怖がる暇もなかった。

 しかし2周目は全体を理解した上でプレイすることになる。この世界では、何が正常で何が異常か、何が安全で何が危険かがわかっている。すると、1周目では全然怖くなかったシーンが、じわじわ来るようになる。


 たとえば、設定上、絶対に安全なはずのシーンで、隠れんぼの「鬼」が一瞬出てくるところがある。1周目はそのシーンが安全か危険かすらよく分からないので、怖いも何もないのだが、2周目はそのシーンが安全なことを知っているが故に気を抜いてしまうのである。そして虚を突かれる。


 というわけで、2周目は1周目よりも楽しめるのだが、これはとても損な仕組みである。ほとんどの人は1周目でつまらなかったら2周しないからである。



 このゲームは基本的に一本道のアドベンチャーゲームだが、本編に関係のない探索箇所が意外とある。そのうち、サイドストーリーに発展するのは2つ。

 こうした寄り道要素は、本編よりもドキドキ感が強かったりする。

 本編は、主人公は刑事という職権の元に捜査を行っており、堂々としていられる。一方、寄り道は単なる不法侵入。また、本編よりも、何が起こるかが予測しづらく、そういう意味でのスリルもある。1周目は特に、本編のシナリオよりも、アパートを無意味にぶらつく方が楽しかったりする。


 収集系の実績がやたらと多くあるが、ごく短い期間しか取れるチャンスがない物が多く、コンプリートするのは大変。はっきり言ってイライラするだけなので、実績に興味がないのであれば、なかったことにした方が精神衛生上はいい。集めたところで特にいいことがあるわけでもない。


 プレイ時間はおよそ8時間。ただし、サイドストーリーや聞き込み調査(インターホン越しの聞き込み調査はゲームクリアには必要ない)などを全無視すればもっと早くクリア出来る。



 総評は、最低2周しないと良さが分からないのは大きな欠陥だが、サイバーパンクなディストピアの世界観が好みで、かつ、つまらなかったゲームの2周目をプレイしようという根気だか何だかがある人なら、プレイする価値はある。あと、"Layers of Fear"が好きだった人ならありかもしれない。

 サスペンス要素はうわべだけで、ほとんどないことには注意。そこを期待するとがっかりする。



 以下はネタバレありの話。



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 このゲームに関する考察は意外と少ないので、まずはざっと本編ストーリーのアウトラインを時系列順に整理しておこうと思う。


 アダムが子供の頃、主人公の妻は何かの病気に冒されて、拡張手術(サイボーグ化したりナノマシンを注入したりする処置)を受けないと死ぬ確率が高いと宣告される。しかし、妻は拡張手術を受けないことを選択し、そのまま病死。

 その後、主人公は(おそらく交通事故で)瀕死の重傷を負い、やはり拡張手術を受けなければ死亡するという事態になるが、「アダムを守る」という妻との約束を果たすために、手術を受けることを選択。

 しかし、そのことがアダムには欺瞞と受け取られ、親子の関係は冷え切ることに。この件から、アダムは「不死」の方法を模索するようになったようである。


 成人するとアダムはカイロン社に入社し、人間をデータ化して永遠に生きられるようにするプロジェクトを任されることになるが、カイロン社では、このプロジェクトは見込みがないと判断されたか、破棄されることに。それでアダムはカイロン社を退社し、独自にプロジェクトを続行しようとするが、一人ではうまく行かず、ヘレナとジャックの協力を得ることにする。

 ヘレナはカイロン社にあるプロジェクトのデータの回収、ジャックは、ヘレナの脳インプラントにプロテクトをかける手術をしたり、薬を処方したりしていたことがゲーム中の演出やログで確認できる。


 試行錯誤の末(この経緯は「コードブレイカー」の実績が取れる際に読めるログである程度わかる)にアダムはアダム2.0を完成させる。

 しかし、アダム2.0はヴィクターを使ってアダム達を殺し、オブザーバーの脳内を隠れ家にすることを思いつく。そして主人公を呼び寄せる。

 なお、アダム2.0の計画からすると、主人公がゲームオーバーになったら困るし、ヴィクターに殺されても困ったはず。ということは、わりと行き当たりばったりのいい加減な計画だったことになる。



 話の筋を整理したところで、疑問点について考えていく。


 なぜアダム2.0はアダムを殺そうとしたのか。


 本人の弁によると「やるかやられるか」だった、と言っているが、アダムがアダム2.0を殺そうとした確たる形跡は見つからない。

 私の推測では、アダム2.0は人類不死化計画のために作られたA.I.であることから、自身の不死を完全なものにするために、プロジェクトに関わった人を口封じすることにしたのではないかと考えている。自分に課せられた使命をより完璧に果たすためにそうしたのだ、ということ。



 アダムは本当にアダム2.0を殺そうとしたのか、殺そうとしたならなぜか、殺すためにナノファージを撒いたのか。


 アダムがアダム2.0を何らかの理由で危険視していたことは事実のようである。

 アダムを受け入れるエンディングの最後で、ヤヌスに対する会話選択があるが、あれはアダム2.0の中に残っているオリジナルアダムの人格だったと思われる。主人公の人格はアダム2.0を受け入れることを決めたのだから、あの時点でヤヌスに助けを求めるはずがないからである。

 また、冒頭の通信でアダムは「研究が全部無駄になった」と言っていることから、アダム2.0が望んだ結果ではなかったことや、人類をデータ化計画がダメになったらしいことも推測できる。


 ただ、具体的に何が危険なのかは、ゲーム内の情報からはわからない。口封じのために自分達を殺そうとしたことを「危険」とみなしたのかもしれないが、そうだとすると先に手を出したのは2.0の方だったことになる。


 2.0を殺すためにアダムがナノファージを撒いたかどうかは、そもそもナノファージについての情報が少なすぎるので何とも言えない。被害者の血液から検出される「汚染物質」というのがナノファージなのか別の何かなのかもよくわからない(おそらく麻薬か何かのことで、ナノファージ汚染ではないと思われるが)。

 いずれにしても、エンディングで掃除部隊がやってきた描写がなかったことから、ナノファージが撒かれたわけではないと考える方が妥当だとは思われる。



 敵について。


 ゲームオーバー要因になる「敵」は、安全装置が無効になっている脳内潜入や、主人公自身の記憶(もしくは幻覚)の中でのみ登場する。現実世界には登場しない。

 ただし、現実世界ではヴィクターが暴れているため、これと「敵」が混同される場合がある。ヴィクターはヴィクターで本来は危険だが、ゲームの仕様上、ヴィクターは主人公に危害を加えられない。


 あの「敵」の正体は、ナノファージに感染して凶暴化した父親の姿であり、発狂してしまった主人公自身の姿(の想像図)だと思われる。


 冒頭で、オブザーバーは発狂して凶暴化することがあると言われている。安全装置が無効になっている脳内潜入でのみ登場することから、あの敵に捕まることイコール発狂する、という設定なのだろう。


 サンクチュアリの上階(あそこはおそらく主人公自身の記憶)で主人公の母親らしき人物が「息子が父親に追いかけられている」と言っていること、また、実績"The Root of All Evil"に絡むラジオの内容から、あの敵がナノファージに感染して凶暴化した父親の姿であろうと推測できる。

 また、アダム2.0と対峙する直前のフラッシュバックから、発狂した自分自身を想像した姿だとも推測できる。



 拒絶エンディングについて。


 アダム2.0がどうやって主人公を乗っ取ったかの描写がないが、VRカプセルに主人公を連れ込んだ時点でどうとでもなる部分なので、そこは考える必要はないとする。

 ただ、なぜアダム2.0は主人公の人格をルディに押し込んだのか。また、主人公がどうやってヤヌスの身体を乗っ取ったのかは謎である。


 主人公をルディに押し込んだ理由については、実はアダム2.0の潜伏先がルディだった、と考えると、いろいろすっきりする。ただし、そんな伏線は何も無い。


 ヤヌスの身体を乗っ取った方法については、義手の露出部分から脳補綴を通じてハッキングしたことは推測できる。これらの情報はイベントでの会話や、ヤヌスをスキャンすることでわかる。

 ただ、ドリームイーターを装備していないルディの身体でどうやってそれをやってのけたのかは不明。アダム2.0の潜伏先がルディで、ルディにはその手の改造が施されていた、ということであればつじつまは合うが、先述の通り根拠がない。


 なお、殴り殺された主人公(アダム2.0)をスキャンしたKPDの人が「こいつは違う」みたいなことを言っていたことから、身体を無理矢理乗っ取ると、その痕跡がバレてしまうらしいことが窺える。アダム2.0が主人公を説得し、融合しようとした理由はそのためだと思われる。完全な潜伏を果たすためには乗っ取りではなく融合する必要があった、と。

 しかし、それならもっと同情を誘うような作り話でもすれば良かったのに、とも思う。それができないあたりがオリジナルアダムの愚かな部分を継承しているところなのだろうか。



 ピエタとポーリーナについて。


 この二人の関係は、主人公がアダムを受け入れる時の関係によく似ている。


 二人の脳を切り離すと113号室は閉じたままで、融合した時のみ113号室が開くが、あれは、脳死状態から回復したポーリーナが出て行ったからだと考えるのが妥当だろう。

 融合させた場合、このゲームにしては珍しく、いい話的な感じで終わるが、「ハトの売買」サイトを読むと、本当にいい話なのか疑問ではある。



 内臓農場について。


 オチがわかって安堵した人も多かったのではないだろうか。「人間じゃなかったのか、良かった!」と。……動物だったらいいのかよ、という疑問はあるが。

 このサイドストーリーは多分、ジョージ・オーウェル『動物農場』のオマージュだろうと思われる。『動物農場』は臓器云々とは関係ない話だが、臓器移植が一般化した現代人がタイトルだけ見ると、なんとなくそういう内容を想像しがちである。その想像をそのままサイドストーリーにしたような話だと思った。



 201号室について。


 この部屋のイベントは"P.T."のオマージュらしいが、私は"P.T."をプレイしていないのでなんとも言えない。

 こことヤブ医者の脳内は"Layers of Fear"そっくりで、妙に懐かしい気持ちになった。



 ナノファージ患者のカードについて。


 本編と全く関係ないくせに、集めるのがすごく面倒くさく、本編よりも凝った仕掛けまである患者カード集め。

 何のために集めなければならないのかさっぱりわからないが、私はあの患者はスタッフなんじゃないかなと思っている。"Layers of Fear"でも、スケッチ集という形でスタッフのイラストの載った本があったので、あれの発展系なのでだろう。たぶん。

 収集するのが恐ろしく面倒くさいため、私はこの実績を解除していない。

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