SOMA (5200字)

 この文章は2015年に書いたものを基にしている。

 これを書いた当時、"SOMA"にはセーフモードが存在しなかった(非公式MODはあった)。そのため、本文ではゲームオーバー要素が存在することに対して批判的なことを書いている。

 しかし2017年末頃に、公式にセーフモードが追加された。これにより、ゲームオーバーの有無をプレーヤーが選択できるようになった。


 私は断然、セーフモードでのプレイを推奨する。敵の存在はこのゲームにとっては鬱陶しいだけで、かえってホラー要素を削ぎ、ゲームのテンポを悪くしている。もしこれからプレイする人がいるなら、是非ともセーフモードでプレイして欲しい。ヌルモードでプレイしたくないとか、余計なことは考えるべきではない。どうせこのゲームはゲームオーバーがあってもヌルいから、大して違いはない。ノーマルモードでクリアしても何の自慢にもならない。


 なお、私の使っているバージョンの日本語化MODはセーフモードまわりのシステムのテキストに対応しておらず、モード選択画面で文字が表示されないため、何モードでプレイを開始したかわからなくなってしまう。同様の症状が起きる人のために、対応策を書いておく。


 日本語MODのconfig/base-english.langをメモ帳で開き、


<Entry Name="Back">[u25147] [u12427]</Entry>


 の行の後ろに以下を追加して保存する。


<Entry Name="GameMode">GAME MODE:</Entry>

<Entry Name="NormalMode">NORMAL</Entry>

<Entry Name="ExplorationMode">SAFE</Entry>

<Entry Name="StartGame">START GAME</Entry>



-------

 Steam版"SOMA"をプレイ。


"SOMA"の開発元であるFrictional Gamesはホラーゲーを専門に手掛けているメーカーで、2010年発売の"Amnesia: The Dark Descent"はクソ怖いと評判である。そして、ホラーゲーが苦手な私は、本来ならこのメーカーと関わることは無いはずだった。


 しかし、"The Talos Principle"をプレイしたことで運命が変わった。"The Talos Principle"には「SOMA / Talosプロジェクト」なる言葉が存在し、SOMAという言葉には重要な意味があった。そのため、"SOMA"というタイトルのゲームはどうしても気になってしまう。

 調べてみると、そんなに怖くないということだったので、覚悟を決めてプレイすることにした。


 このゲームは、公式には日本語には対応していないが、有志による日本語字幕MODが出回っているため、それを導入することで日本語化プレイが可能になる。



 とりあえず最初に懸念していた、怖すぎるんじゃないかという点については杞憂だった。"BioShock"や"Fallout 3"がプレイできるなら問題ないレベル。"Fallout 3"のダンウィッチビルの方が怖い。逆に言うと、怖さを期待してプレイするなら期待外れだろう。


 ゲームのジャンルとしては、おおざっぱには「謎の施設から脱出する」という、古典的な脱出ゲームの一種といえる。パズル要素や、敵から逃げるアクション要素があるが、どちらも難度は低め。

 ゲームボリュームは7時間前後。リプレイ性はないと考えていい。


 シナリオについては、ネタバレしないと何も言えないので詳しくは後述。


 プレイしてのざっとした感想は、このゲームには重大な欠点があるわけではなく、無難に良くできてはいるものの、たいして見どころもない感じがした。素材としてはとてもよく、うまくやればもっといいゲームになったと思うのだが、展開や演出がイマイチなせいで、うまく活かせていないように感じる。


 中盤までは先が読めない展開のおかげで、緊張感やスリルがあって面白いのだが、中盤でネタバレがあり、それ以降は似たような展開や予想通りの展開、冗長な展開が続くためにダレてくる。

 そうなってしまう最大の原因は、主人公がバカすぎてネタバレを理解しないことにある。ネタバレイベントは、多くのプレーヤーが「ああ、そういう話なのね」と理解できる程度にわかりやすい。オチまで予測できてしまう。しかし、なぜか主人公は全くそれを理解しない。そのために「こんなはずじゃなかった」的なことをぎゃーぎゃー言うのだが、プレーヤーは「お前、それさっき説明受けたじゃん」と冷え切った気持ちになるのである。


 ゲームオーバー要素である怪物は、いろいろ細かい設定があり、それを理解しているとまた印象が変わるのだが、プレイ中にプレーヤーがその設定を理解できるようには作られておらず、たいがいのプレーヤーにとっては「よくわからんけど、捕まったらゲームオーバーな障害物」でしかない。これもゲームをつまらなくしている要因である。


 謎解きに関しては、一部の謎解きはゲーム内容とも合致していて面白いものの、大半は、壊れている機械を修理したり、乗り物に乗ったら故障したりというワンパターンで、やっていてうんざりしてくる。「また機械が壊れているのかよ。また修理かよ。もういいよ」という気分になってくる。


 探索して楽しいレベルデザインでもない。せっかく「海底深くにある謎の研究所」という探索しがいのありそうなシチュエーションなのに、ほとんどの場所はゲームクリアのために通りがかるだけに過ぎず、カギを入手したときに「これであの開かない扉を開けられるかも」といった高揚感もない。

 こうなってしまっている理由のひとつは、ゲームオーバー要素の怪物のせいでもある。怪物がいるせいでゆっくり探索できないし、以前の場所に戻ることもできない。前回来たときには入れなかった場所に入れるようになるような演出をできなくしてしまっているのである。

 せっかく謎の研究所をうろつくんだから、ゲーム本編と関係ない部屋とかも探索する喜びとかがあっても良かったように思える。


 また、このゲームの特徴として、海底を歩いて移動するシーンがあるのだが、超絶につまらない。最初のひとつふたつはシナリオとの絡みで必然性があり、物珍しさもあっていいのだが、無駄に頻繁に歩かされる上に無駄に長いので、だんだん飽きてくる。"BioShock"くらい水表現に独特のこだわりがあるなら、まだ良かったかもしれないのだが。


 とまあ、いろいろ文句はあるものの、2980円のゲームの内容としては悪くないとは思う。せっかくいい素材なのだから、価格が上がってもいいからもっと丁寧に作って欲しかったとは思うのだが。

 ただ、私がこのゲームをイマイチだと感じたのは、"The Talos Principle"を先にプレイしたからかもしれない。"Talos"が意外とストーリーが複雑で面白かったからこそ、"SOMA"に過剰に期待してしまい、それで肩すかしを食ったところはあったので、フラットな気持ちでプレイすれば、これはこれでいいものだと思えた可能性はある。



 以下はネタバレありの話。





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 私がこのゲームで最も優れていると思ったアイデアは、脳スキャンを受けたら謎の施設にいた、という、序盤の展開だった。

 最初、プレーヤーは、謎の施設にいるというこのシチュエーションが、現実なのか、それとも脳スキャンの影響による仮想現実なのかがわからない。仮想現実なら、無茶なことをしようが死のうが構わないのだが、現実だとしたら無茶なことはできない。この、自分の置かれている立場の不明確さが、このゲームのプレイに独特の緊張感を与えている。


 私は、このシチュエーションで最後まで引っ張った方が、このゲームはよりよいものになったと思う。最後の最後に、これが現実だったと知るようにした方が、「どうせ仮想現実だろ」と思って殺しちゃった人達や、適当に選んでしまった選択肢への後悔がずっしりと重くのしかかると思うのである。


 たとえば、自分のコピーを作ってコピー元を置き去りにするイベントにしても、あれがリアルな出来事かシミュレーションの中の出来事か、わからない状況で行う方が断然良かったはずである。そうすれば、プレーヤーによっては「どうせ仮想現実の中の出来事だし、置き去りにしちゃえ/殺しちゃえ」という安易な選択をして、後ですんごい後味の悪さを覚える、といったことが起こりえたはずである。


 このゲームは、プレーヤーに度々「悪事」を行わせようとしており、それがこのゲームの「ホラー」たるゆえんなのだが、仮想現実だと錯覚させておけば、プレーヤーはより気軽にその悪を実行できる。そして、後で「実は現実でした」とした方が、ダメージが大きかったのではないかと私は思う。



 もうひとつ、WAUが何なのかをゲーム中でもっとわかりやすく演出しなかったことは、このゲームにおける最大の失敗だったと私は思う。

 WAUは人類を保全するためのシステムで、ストラクチャーゲルを介して人間やロボットを自身のネットワークに接続して管理している。つまり、WAUは別に人間をゾンビ化したいとか、殺したいわけではなく、あれはあれで人間を救おうとしているわけである。

 実際、シータでプレーヤーがWAUの怪物にはり倒されるイベントの時、プレーヤーはわりと幸せな幻覚を見ている。WAUに保全されると、傍目からは酷いことになるが、本人としてはわりと幸せになれるわけである。


 WAUが何なのか、ということをプレーヤーがもっとちゃんと理解できるようにシナリオを練っておけば、道中でWAUに繋がれたロボットや人間を殺すのがいいのかどうか、WAUを殺すべきかどうか、Arkが本当に人間を救う唯一の道なのかなど、いろいろ考える幅が増えて、このゲームが提示するテーマも深いものなったはずだし、WAUの怪物との対峙も、単なる鬼ごっこに留まらないものになったはずである。いっそ、WAUにあえて保全されるルートとか、WAU側に付くルートがあったって良かったはずである。

 なのに、WAUの怪物を単なるゲームオーバー要素にして、WAUの設定をプレーヤーにわかりやすく提示しなかったおかけで、多くのプレーヤーにとってWAUは単なるキモい敵に過ぎない認識になってしまうのである。非常にもったいない。


 もしホラーということをむやみに意識せず、設定を重視してゲームデザインを考えるなら、WAUの怪物と接触したときに幸せなノイズが入るようにして、ゲームオーバー時にはトロントに戻れるとか、そういう演出にした方が良かったと思う。

 ゲームオーバー時には例の脳スキャンの部屋に戻れて、夢だったのか、みたいな感じになり、そのまま研究所を出たらゲームオーバー、再び脳スキャンを受けたらゲーム再開とか。


 もしくは、WAUとの鬼ごっこの難易度をもっと上げて(その代わり明確なゲームオーバーを無くすなどして)、WAUと関わる回数が増えることで、ゲーム本編には影響しない範囲で異常を来すとか、そういう演出があっても良かったと思う。

 あと、設定上、主人公はコピーし放題なのだから、死んだら別の主人公から再プレイ、ということにすれば良かったんじゃないかと私は思う。「死んだら生き返らない」となれば、怪物との鬼ごっこももうちょっと緊張感が出たと思うのだが。


 そもそも主人公はヘルス回復時にWAUのお世話になっているわけだし、プレーヤーの行動によって、主人公がWAUに徐々に浸食されていく(つまりはWAUの思考を理解できるようになる)ような演出があっても良かったと思う。そして、WAUを殺す選択をするときに、プレーヤーにもっと躊躇させて欲しかった。腕を食われるかどうかなどというつまらないレベルの問題ではなく、もっと高次の葛藤が欲しかったように思う。


 その辺がうまく処理できていれば、この作品は『バロック』級の名作になり得たと私は思う。非常に残念である。


 主人公がネタバレを理解しないのもどうにかすべきだったのは言うまでもない。自分が脳スキャンした際のコピーデータで、オリジナルはとっくの昔に死んでいるという情報を知ったとき、もしくは、身体を入れ替えた際にコピー元の意識が残っていることを知ったときに、ラストの展開(Arkにデータをコピーしても、コピー元は研究所に残ったままになる)は当然予想が付いたはずである。なぜ主人公が理解できないのか、私にはさっぱりわからない。たぶん、プレイしたほとんどのプレーヤーは私と同じように呆れただろう。おかげであまりにもアホらしい終わり方をするのだが、なんとかならなかったのだろうか。酷すぎる。

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