The Stanley Parable (2000字)

 この作品について何か語ろうとすると、どうしたってネタバレするしかない。

 このゲームが気になる人は、デモ版があるのでプレイするといい。あと、買う際は"Beginner's Guide"とセットで買うといい。


 なお、デモ版に関する注意点や雑感については「2020年 Steam ハロウィンセール前 デモプレイ雑記」で取り上げている。


 というわけで、以下はネタバレあり。





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 インディーゲームには、一人称視点の探索ゲームは結構多い。その多くはパズルゲー。"Portal"登場以後、この手のゲームはものすごく増えた。


 しかし、"Portal"からパズルを抜いて、代わりにナレーションとのやりとりにのみ特化した本作の手法は珍しい。

 もちろん、ナレーションとのコミュニケーション要素を取り入れているゲームはある。"The Talos Principle"や、最近だと"Lightmatter"などはそれ。ただ、これらの作品はパズルがメインで、ナレーションは補助的要素。つまりは"Portal"と同様の作りになっている。


"The Stanley Parable"では、プレーヤーは歩くことと移動することしかできない。できることといえばせいぜい、どっちの扉に入るかとか、その程度。

 通常、こんなゲームには金を払う価値はない。もしナレーションがなかったら、このゲームはクソゲーである。しかし、ナレーションが「君は左の扉を選んだ」と言うだけで、そこにゲーム性が生まれる。

 ナレーションがなければ、左右どちらの扉に入るかは確率の問題でしかない。しかし「左に入れ」と言われたら、それに従うか従わないかという、プレイヤーの意思選択を反映できることになるわけである。


 このゲームは、探索できる範囲は狭いし、大した中身があるわけでもない。そのわりには、プレイヤーが自分で考えて、気づき、行動できる要素は意外と多い。そして、そうしたプレイヤーの行動に、きちんとゲームが反応してくれる作りになっている。"Goat Simulator"に似ているかもしれない。

 ただ、このゲームをプレイしていて最も「似ている」と思ったのは、"Portal"でもヤギゲーでもなく、『バロック』だった。プレイしたことがある人なら、私の言わんとしていることはわかると思う。プレイしていない人は、『バロック』は是非ともプレイすべき。もし可能ならサターン版がいい。このゲームに関しては、初回はできるだけオリジナル版をプレイした方がいい。あと、どんなゲームかは調べない方がいい。


 まさかこんなに周回して楽しいゲームだとは思わなかった。この楽しさは万人向けではないと思うが、好きな人は大好きだろう。


 もうひとつ、このゲームの面白い特徴として、プレイした感想を書いてもあまり意味がない、というのがある。たとえば私がここで、ノーマルエンドについての感想とか、「スタンリーが洗脳から逃れて自由になるためには、ナレーターの指示通りにプレーヤーが操作しなければならないという皮肉めいたエンドである」とか考察を述べたところで、何になるのだろうか。そんなことは、プレイしたらほとんどの人が理解できるだろう。

 このゲームはあくまで自分でプレイして、そのとき感じたことや考えたことが全てなのである。もしくは、他の人が初回プレイしているのを見て、自分とどう遊び方が異なるのかを見て楽しむか。後からその体験を言葉にしても、どうも虚しい。


 ただ、初回にどのエンドに行ったかは、その人の性格や洞察力などが反映されるので、面白いかもしれない。

 私はナレーターに逆らいまくった結果、スタンリーが棒立ちしているのを見下ろしているエンドに到達した。

 電話部屋の帰り道に、リフトからうまく飛び降りれば別の部屋に行けることに気付いたが、あの時点では飛び降り不可になっているので行けなかった。私にもっと観察力があれば、おそらく初回に「マインクラフト」とかが出てくるエンドに行ったはずである。どっちにしても禅エンドには行かなかっただろう。あそこまで来てナレーターの指示に従うはずがない。


 3時間ほどプレイして、見るべきものはほぼ見られたと思うが、ひとつ確実にルートがありそうで、まだやっていないのが、赤ちゃん救出ゲーム。4時間やれと言われるやつ。冗談の可能性もあると思っていたが、"Beginner's Guide"をプレイして悟った。マジで4時間やったら何か展開があるはずである。


 インディーゲームにはこういう仕掛けが多い。"Braid"、"The Witness"にもあった。

 私は"Every Extend Extra Extreme"を4日間プレイし続けて世界ランキング1位を獲得した実績がある。それを思えば4時間なんてどうってことないかもしれない。問題はそういうことではなく、開発者のエゴにどこまで付き合うべきかという哲学的命題である。……哲学的?

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