SQUARE ENIX AI Tech Preview: THE PORTOPIA SERIAL MURDER CASE

"SQUARE ENIX AI Tech Preview: THE PORTOPIA SERIAL MURDER CASE"は、スクエニが『ポートピア連続殺人事件』をベースに、AI技術のデモとしてSteamで無料公開したもの。


 私は『ポートピア連続殺人事件』は、ファミコン版を3歳の時に友達の家でちょっとだけプレイしたことがある。

 そもそも3歳では理解できない内容だったし、地下迷路で迷って終わった。


 その後プレイする機会はなかったが、気にはなっていたゲームである。

 というわけでプレイしてみた。



『ポートピア連続殺人事件』は機種によって謎解きが異なるなどの違いがあるが、本作のシナリオはファミコン版がベースになっている。

 ファミコン版と異なる点は、地下迷路がないことと、コマンド選択式ではなく、テキスト入力によってゲームを進めること。テキスト入力欄に「~を調べろ」とか「~に行け」などの定型文を入力することで進めていく。

 この方式は、黎明期のパソコンのアドベンチャーゲームにはよくあるものだった。


 ファミコン版で採用されているコマンド選択式は、PC版だと第二弾の『オホーツクに消ゆ』から採用されている。どうせ定型文を入力しないと進められないんだったら、いちいち同じ文章を何度も打つよりも、ボタン一発でコマンドを選択できる方がいいだろう、ということで編み出された、当時としては画期的でナウい方式だった。

 本作ではそれがテキスト入力式に戻っており、退化したとも言える。PC88版の原作では、よく使うコマンドを一発で出せるショートカットキーがあったらしいが、本作にはそれもない。……つまり、オリジナルのPC88版より……退化した?



 グラフィックが一新され、多少曖昧な文章でも理解してくれるようになっているが、基本的にはきちんと定型文を入力しないと「えっ?」とか言って理解してくれなかったり、全然違うことを実行したりする。

 また、用意されている定型文以外での返事はしない。説明によると、AIが質問の意味を考えて、どういう返事をするか考える機能は、現状では意図的にオミットされているらしい。それだとAIの意味がないと思うが。


 そのため、オリジナルの『ポートピア連続殺人事件』でどういうコマンドがあったかを知らないと、そもそも何ができて、それをやらせるためには何と入力すればいいかがわからない。


 たとえば、「検死報告は?」と聞いても「ちょっとわからないですね」とか言うくせに、死体のあった書斎で「床を調べろ」と命じると、床は調べないで「ここに被害者が倒れていました。検死報告によると、死亡推定時刻は~」と言い出す。検死報告届いてるんじゃないかよ。なんで検死報告について聞いても答えず、床を調べろと言ったら床を調べないで検死報告について言い出すんだ? この頓珍漢ぶりは20年前のカーナビの音声入力並である。


 このゲームはスクエニのAI技術のデモとして公開された。いわく、AIによる自然言語の理解により、アドベンチャーゲームがどう変わるかのデモらしい。

 しかし、はっきり言って40年前のテキスト入力型アドベンチャーゲームと操作感はほとんど変わっていない。むしろ悪化したとすら言える。オリジナルだとカタカナ入力で良かったのに、本作では漢字混じりで入力する必要があり、漢字を間違えると認識してくれないから、より入力が面倒になった。



 なにしろ元が黎明期の推理ゲームで、そこからリメイクもされていないため、捜査の仕方はめちゃくちゃ。

 第一発見者に、発見時の経緯や様子を聞くことすらできない。


 普通、誰かが刺殺されていて、それを発見して通報した人がいるんだったら、その人にまず聞くのは「発見時の状況」だろう。どんな推理ドラマでも絶対まず最初にそれを聞くし、実際、それを聞かなきゃ話にならない。

 なのに、このゲームではそれが聞けない。第一発見者に「死体発見時の状況を聞け」と命令しても「いま訊くことですか?」とか言いやがる。

 おかげで、何がなんだかさっぱりわからん。


 どうやらこの事件は密室殺人だったらしくて、犯人は鍵を内側からかけたりとか細工していたらしいが、そもそも死体発見時に書斎のドアに鍵がかかっていたかどうかすら、プレイヤーは知らないのである。死体発見時の経緯や状況を聞けないから。

 普通だったら第一発見者に、「何時頃に仕事で屋敷にやってきて、被害者に挨拶をしようと書斎に行ったらドアに鍵がかかっていて、ノックして声をかけても返事がありませんでした~」とかなんとか、そういう話を聞くもんじゃない? それすらないのよ。それでどうやって密室殺人だったことを知れと?


 また、現場検証や検死報告でも、争った形跡があるのかとか、被害者の服や部屋のどこに血痕が付いているのかなどの細かい状況は調べられない。書斎や隣の応接間にコーヒーの入ったカップが2つ置かれていたとかいないとか、屋敷や書斎に無理やり押し入った形跡があるとかないとか。何もわからん。


 凶器のナイフにしても、屋敷にあったものなのか、犯人が持ち込んだものなのかとか、指紋とか血痕とかの鑑定結果もわからん。

 ストーリーから考えると、このナイフに付いた血液を詳細に調べれば、被害者以外の、誰のものかわからない血液が付着している可能性もあると思われる。しかし、そういうことは一切報告されない。そういう鑑定をしたかどうかもわからない。



 というわけで、どういう状況で死体が発見されたかすらわからんので、もはや捜査は適当である。なんか行けるところに行き、なんか光っているところを調べ、なんか取り、電話番号を見つけたら片っ端からかけ、黙秘する容疑者はとりあえず何度も殴る。


 原作が80年代なので、警察の取り調べは顔面パンチOKである。とりあえず黙秘する奴は吐くまで殴っとけばいい。


 昔の刑事モノを観れば、正義の刑事が無実の被疑者に暴行を加えるシーンは当然のように描写されている。これは日本だけでなく、アメリカの刑事ドラマでも同じ。かつて、警察が無実の人間をぶん殴るのは正義だったし、そんな筋書きのドラマをみんな喜んで観ていた。

 少なくとも2000年代までは、正義の主人公刑事が尋問で無実の被疑者に暴行するドラマがあることを確認している。そして上司に怒られるが「あいつは現場のことを何もわかってない」みたいな展開になる。最近のは観ていないから知らない。

 今はおおっぴらにぶん殴るわけにはいかなくなり、もっと陰湿な手を使うようになったが、警察が取り調べで被疑者に暴行を加えること自体は昔と変わらない。


 余談だが、イギリスの刑事ものは、被疑者をぶん殴らない傾向がある気がする。何気ない会話から巧妙に情報を引き出す手法が好まれるようである。この辺は諜報技術に長けた国らしい。第二次世界大戦中も、ドイツ将校を捕まえたら盗聴器付きの豪邸にご招待して丁重にもてなし、日常会話を盗聴することで情報を得ていた。



 あと、証拠品からわかる電話番号が間違っている。一桁足りない。現状では原作の攻略情報を見て電話番号を調べないとクリア不能になっている。



『ポートピア連続殺人事件』は、黎明期の推理アドベンチャーゲームとしては歴史的価値はあるが、純粋に推理ゲームとして見ればまるでなってない。

 当時の制限された開発環境で堀井雄二が一人で作ったゲームだということを考えれば、それは仕方のないことではあるが、現代においてまともにプレイするには厳しいものがある。


 堀井ミステリー第二弾の『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』になると、この辺はだいぶ改善され、現代でも充分遊べる内容になる。



 総評としては、グラフィックがきれいになり、無駄に10GBとか容量があるだけで、中身はほぼPC-88版のオリジナルと同じ内容。しかも現状では重要証拠がバグっていてノーヒントクリア不可能。

 褒められる改良点は、地下迷宮がなくなったことだけ。対話型AI技術と関係ない部分である。

 このゲームから技術的進歩は感じられない。


 あと、犯人は知っているけど、実際犯人は何をどうしたのだろうと気になってプレイすると、それはそれで肩透かしを食らうので、その点も注意。このゲームでは犯人の動機だけは描写されているが、どうやって殺したのか(ナイフで刺したことだけはわかるが、細かいことは不明)とか、トリックやアリバイ作りに関しては描写されていない。なにしろ死体発見時の状況について、証言も得られなければ現場の検証もできないから、プレイヤーは推理のしようがない。


 好意的に見れば、プレイヤーは犯人を介してしか捜査できないという仕組みを利用して、犯人は肝心の情報を渡さなかった、というトリックだったと見ることもできる。つまりはメタフィクション的な手法だったと解釈もできるが、それにしてもお粗末であることに変わりはない。



[追記 2023.04.25]

 Steamのレビューを読んでいると、市外局番を入れないと寺田屋旅館に繋がらないという記事があった。

 私は関西在住なので京都府の市外局番を知っている。075である。なので試しにやってみたら……確かに繋がった。


 つまり、本作で寺田屋旅館の電話番号として認識されるのは2種類あるらしい。

 ひとつはファミコン版の電話番号の1772493。もうひとつは075177249。

 ゲーム中のヒントでは17-7249となっている。これでは繋がらない。


 市外局番を入れないと繋がらないのはPC88版の仕様なのだとか。ただし、PC88版では京都で電話をかけられるので、京都で電話した場合は市外局番なしで繋がる。

 一方、本作では京都で電話をかけられないため、必ず市外局番を入れないと繋がらない。


 2種類の電話番号が存在するのは謎だが、理由は推測できる。177-2493という7桁の番号は、実際の電話番号と同じ桁数である。というわけで、177-2493にイタ電をかける人がいるかもしれないことを配慮して、急遽桁数を減らし、17-7249にしたのだろう。


 しかし、177-2493はそのままプログラムの中に残っていて、そしてそれはファミコン版から移植してきたデータだから、市外局番が要らないままになっていた、とか。


 いずれにせよ、本作の電話番号は、桁数を減らしたことで現実の電話番号と桁数が変わってしまい、現実の番号と同じく市外局番を入れないとダメという発想には辿り着かなくなってしまっている。これは気付けという方が無理な話。

 それならせめて、京都で電話がかけられるようにするとか、ヤスが「市外局番入れなきゃダメなんじゃないの?」くらい言うとかすればよかったのに。

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