PC:推理

Chicken Police - Paint it RED!

 Amazon Gamesにて"Chicken Police - Paint it RED!"をプレイ。


 本作は、ほぼモノクロ画面で描かれる、ハードボイルド刑事ドラマ。


 雨の大晦日。引退を121日後に控える老刑事のサニーは、自宅に謎の女の来訪を受ける。女はナターシャという女主人の使いで、脅迫事件の調査を、サニーに「個人的に」依頼してくる。

 なぜ引退を控えたしがない老刑事をわざわざ指名するのかと訝しがると、女は一枚の紙を差し出す。そこには「モリーからの紹介だ」と書かれていた。

 モリーは、サニーが若い頃付き合っていた女である。このきな臭い事件に、モリーがどう関わっているのだろう。

 ともかく、サニーは依頼主であるナターシャに直接会うことにする。



 ……と、こうして冒頭のあらすじを書くと、ベタベタな王道ハードボイルド刑事ドラマな雰囲気が漂っていることがわかるだろう。そして実際、本作は全編通して、1940~60年代くらいのモノクロ刑事映画を地で行く内容になっている。

 刑事映画からのオマージュもふんだんに散りばめられているし、挙げ句になんと、フィリップ・マーロウまで登場する。


 しかし、ひとつだけこのゲームには妙な点がある。登場するキャラクターがみんな獣人なのである。体は人間だけど、頭が動物。主人公のサニーはニワトリだし、依頼人のナターシャはネコ。マーロウはハヤブサ。

 ニワトリが渋い声で独白しながら夜の街を車で駆る絵面はすさまじいものがあるが、その点については本作ではスルーされる。


 本作の舞台であるクロービルは、全ての動物が仲良く暮らす理想郷を目指して作られたらしい。しかし、その理想はすでに瓦解しかけており、種族差別や捕食事件が横行し、警察は汚職まみれという有様になっている。

 ということで、一応キャラクターが獣人であることを納得させるための世界観は作り込まれているのだが、事件そのものは、登場キャラクターが獣人であることはほぼ関係ない。役者が全員人間でも特に問題ない内容である。



 ゲームシステムは、ポイントクリック式のアドベンチャーゲーム。気になるところにカーソルを移動させるとアイコンが出るので、クリックして進める。

 たとえば、キャラクターをクリックすれば、「見る」「話す」などのコマンドがポップアップされるし、店の入口をクリックすれば中に入れる。

 そうやって聞き込みをしたり、気になるものを調べたりしながら、手がかりを集めて捜査を進める。


 一箇所だけなぜかアイコンが出ないところがあり、しかもそれが本編の進行に関わっているのだが。アンフェアすぎるので、後のネタバレありのコーナーで答えを書いておく。



 重要キャラクターには尋問することができる。尋問では複数の会話選択肢から適切と思われるものを選んでいく。選んだ選択によって相手の信頼が上下し、0にならなければクリア。

 そもそも0にする方が難しいので、クリアするだけなら簡単。ただし、実績解除を狙うなら100にする必要があり、100にするためのルートはおそらく1つしかない。というわけで、実績解除を狙うなら総当りしてメモすることになる。面倒くさい。私は実績を気にする方だが、本作の実績は無視している。



 また、いくつかミニゲームがある。ミニゲームの難度は低いが、説明もなく突然始まるので、「は? どうすりゃいいの?」と思っている間にゲームオーバーになることはありえる。不親切である。

 ただ、すぐにリトライできるし、リトライすることによるペナルティもないから、気にしなくてもいい。とはいえ、やり方の説明くらい書けよと思うが。



 謎解きサスペンスゲームとしての難度は低めで、適当にやっていてもなんとかなる。証拠を取り逃して詰むことはない。

 ただ、金庫を開けるためにどうダイヤルを合わせるか、という謎解きがあるのだが、これが無駄にノーヒントで、かなり分かりづらくなっている。アンフェアなのでこれも後で答えを書いておく。



 シナリオは、王道ハードボイルド刑事ものそのものなので、かつての雰囲気を懐かしむ分にはいい。オマージュもふんだんに散りばめられているので、知っている人ならそれだけで楽しめるだろう。

 ただ、それは裏を返せば手垢まみれの陳腐なシナリオだ、とも言える。危険な女だギャングだスパイだといろいろ盛り上げておきながら、結局かなりしょうもないオチになっている。

 そのため、純粋なミステリーとしては期待しないほうがいい。これは懐古主義的な雰囲気ゲーなのである。



 グラフィックと音楽に関しては文句なくいい。

 グラフィックは全編モノクロだが、一部だけカラーが使われている。ネオンサインだけ赤だったり、ナターシャの瞳だけ緑だったり。これがいいアクセントになっていて渋い。

 音楽は当然スモーキーなジャズ。


 グラフィックに関して注意しておくと、グラフィック設定で垂直同期をオンにしておかないと、GPUの性能を使い切るまでフレームレートを上げてしまう不具合がある。マシンに無駄な負荷をかけてしまうから、必ず垂直同期はオンにすること。



 総評は、マーロウが出てくるというだけで興奮できる人なら買って損はないだろう。

 マーロウって誰? という人にとっては微妙かもしれないが、昔懐かしいベッタベタなハードボイルドの雰囲気を面白がれるならあり。

 純粋にミステリーとか謎解きゲームを期待するならなし。




 以下、ネタバレあり。



 まずは攻略情報。

 本作の一部の謎解きはアンフェアでクソだから、ここで答えを書いておく。



 まずは別荘の金庫。動物の絵柄を4つ合わせるというものだが、この解き方は、手帳で「世界観」の項目を読んでいくと、クロービルのエンブレムには4匹の動物が描かれていて、それは警察署内に掲げられていることがわかる。で、警察署内でそのエンブレムを見れば答えがわかる、というもの。


 このゲームの世界観の住人だったら、このエンブレムを知らない人はいないと思うが、プレイヤーはそんなこと知るはずもない。もう少しヒントを出すべき。サニーかマーティーが「これって市のエンブレムじゃないの?」「どこかにこのエンブレムって掲げられてなかったっけ。警察署内とか」くらい言うべきだろう。なんでここだけガチ謎解きなのか、さっぱりわからん。しかもかなり意地悪だし。補助的な読み物である「世界観」に答えがあるなんて、普通思うか?


 逆に、ここでこの難度にするなら、もっと別のところで謎解きの難度を上げて欲しい。他のところは寝ていてもクリアできるのに、しょうもない金庫開けだけ難度が高いのはバランスが悪すぎる。

 しかも、この金庫に入っている絵の切れ端が捜査の何の役にも立たないというのがまた悲しい。実は開けられなくても良かったんじゃないかよ(ゲームとしては開けないと進まないが、仮にここでサニー達が金庫を開けられないまま捜査を進めても何の支障もなかった)。



 次に、ホップドッグで店主が隠したものを探すイベント。ジュークボックスを叩き割ると中から証拠品が出てくるが、なぜかゲーム中でここだけアイコンが出てこない。

 このゲームでは、カーソルを合わせて、アイコンの出てくるところをクリックして捜査を進める、というルールになっている。なのにここだけルールが変わる。自分達の作ったルールを勝手に変えないで欲しい。隠し要素ならともかく、本編の進行に必要な部分なんだけど、ここ。




 シナリオに関しては、プレイしている時はさして気にならないことだが、改めて考えみると、ずいぶん回りくどいことをしたわりにしょうもないオチだったと言える。

 サニー達の捜査のほとんどは意味がなく、ナターシャの怪しい過去とか、サニーの元カノとの絡み、スパイとの疑惑、ギャングとの絡みなど、うさんくさい要素は全部事件とは何も関係ない。


 結局、ナターシャを脅迫していたのは、ナターシャの彼氏でありギャングのボスであるイヴン・ウェスラーなのだが、実はイヴンには解離性同一症を患う双子の弟がおり、ナターシャに惚れてしまった弟は、兄貴を殺してイヴンになりすましていたのである。

 しかし彼はなにしろ解離性同一症なわけで、彼の中にある人格のひとつが、ナターシャを憎んでおり(理由はよくわからん。ナターシャのせいで兄貴を殺さねばならなくなったことを恨んでいたのだと思うが)、それで脅迫したわけである。

 なんというオチ。今まで長々と捜査してきたことがすべて無になり、ただ「犯人が精神病だから」の一言で全てが片付けられてしまう終わり方はどうなの? と思う。これが推理小説本だったら私は燃やすね。


 そもそも双子オチというのがダメ過ぎる。それはミステリーではタブーに近い。容疑者が実は双子でした、なら、たいがいの辻褄は合うが、そういうのをミステリー業界ではアンフェアと言う。それをやっていいのはタブーを冒しまくることに生涯をかけたアガサ・クリスティだけである。もっとも、クリスティでも、双子やそっくりさんによるすり替えネタを使ったときのトリックの質は総じて低めである。要するにダメということがクリスティによってすでに証明されているのだから、よほどうまく使わないといけない。この作品での使い方はあまりにしょうもなさすぎる。



 また、証拠品のほとんどはなくてもいいものだというのも気に入らない。マーロウがくれる怪しいリストと、金庫から出てくる絵の切れ端は、結局捜査の役に立っていない。なくても何も問題なかった。


 推理作品として見ると、これはかなりお粗末な作りだと言える。証拠が大量にある中から本当に必要なものを選び取るタイプの作品ならともかく、証拠品が少ないタイプの推理作品なら、全ての証拠品はちゃんと役に立つように組むべきだろう。



 ところで、ナターシャが絵の切れ端を主人公に見せようとした理由はなんだったのだろう。

 私は当初、ナターシャがウェスラーの秘密を知っていて、かつ、それを直接伝えることができない事情があるのだと考えていた。しかし、結局そういうことではなかった。ナターシャはウェスラーに双子の弟がいること自体に気付いていなかったようである。

 では、なぜ絵の切れ端を渡そうとしたのだろう。脅迫状に同封されていたとか? それで、手掛かりになるかもしれないと思って渡そうとしていたということならありえるか。

 でも、それなら直接手渡しすればいいと思うのだが。わざわざ別荘の隠し金庫に入れる必要あるか?

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