Myst(2021年版)

 Steamの2021年版"Myst"をプレイ。


 オリジナルの"Myst"は1993年に発売された、クリック式のパズルアドベンチャーゲーム。本の中の世界、妙な仕掛けがたくさんあるMyst島に行き着いたプレーヤーは、その仕掛けの動かし方を理解して作動させ、島の謎を解いていく。たくさんのフォロワーを生み出した、パズルゲームの草分け的存在である。


 "Myst"は様々な機種で発売され、リメイク版もたくさん出ている。私がプレイしたのは2021年版。

 2021年版の特徴は、Mystの世界を自由に歩けるようになっていること(オリジナルはクリック式で、道をクリックすると次の場面に移動する、という形式になっている。当時は3Dポリゴンの世界を自由に移動できるゲームを作るには、マシンスペックが足りなかったため)、VRに対応していること、パズルの解法をランダムにできること。

 ランダムモードは、オリジナル版の答えを知っている人向け。答えを知っていると、ほとんどの仕掛けをすっ飛ばして、数分でクリア出来てしまうため。ただし、解法そのものは全く同じなので、あまり意味がない気がする。たとえば、金庫のパスナンバーが変化するのだが、パスナンバーを知る方法は全く同じ。どこに数字が書かれているかを知っていれば、簡単に開けられることには変わりない。



 私は"Myst"をまともにプレイしたことはない。昔、少しプレイしたことはあったが、文字や音声が英語だったためによくわからなかった。また、当時はパズルゲームがそんなに好きでもなかった。結局、Myst島から一歩も出ることなくやめてしまった。



 今になってプレイしての感想は、93年発売のゲームとしては画期的だったことは間違いないが、今プレイするには古くさいし、ボリュームも少ない。パズルゲームの歴史を体験したいならプレイする価値はあるが、そうでないなら現代のゲームをプレイした方がいいだろう。この程度の品質のパズルアドベンチャーゲームなら、今なら500円くらいでたくさん出ている。

 2021年版"Myst"は定価3000円だが、これは割高と言わざるを得ない。もしセールで1000円くらいになるなら値段に見合っていると言えるようになるか。



 ただ、現代においてプレイしても、ちゃんと遊べるデキにはなっている。これはすごいことである。

 というのも、当時のパズルアドベンチャーゲームはクソばかりだったからである。どうでもいいようなアイテムを拾っておかないと詰むとか、どうでもいいような会話を覚えておかないと詰むとか、長々とした文章を読み解かないとクリアできないとか、そんなゲームばっかりだった。ファミコンだと『たけしの挑戦状』が理不尽クソアドベンチャーゲームとして有名だが、パソコンのアドベンチャーゲームの基準からしたら、あんなのは普通。あれよりも酷いものばかりだったのである。まさにゴミ山。


 そんな中にあって"Myst"は、ちゃんと理詰めで解けるし、どうでもいいアイテムや会話を忘れたら詰むこともない。93年のゲームにしては、めちゃくちゃまともなアドベンチャーゲームだった。さらに、攻略の順番は自由で、マルチエンディングという自由度の高さ。

 そして"Myst"に影響を受けた人達が、まともなアドベンチャーを生み出すようになるのである。



 ちょっとした推理ドラマ的展開があるのも特徴。Mystの著者の息子達が、それぞれ赤い本、青い本に囚われており、それぞれが「自分を出してくれ、でももう一人は裏切り者だから出すな」と言う。どっちの言っていることが正しいのかを、証拠から推理する必要がある。どちらを助けるかというプレーヤーの決断が、そのままマルチエンディングの分岐となる。間違った方を助けると酷い目に遭う。なかなかスリリングで面白い仕掛けである。



 本の世界を行き来するという仕掛けも面白い。風変わりな世界をいろいろ探検できるのは楽しい。ただ、昔のゲームが元になってるだけあって、それぞれの世界はさして広くはない。もっとも、広すぎるとパズルを解くのが大変になってしまうから、それを考えるとほどほどに狭いのは悪いことばかりではないのだが。



 昔のゲームなので、謎解きのいくつかはかったるいし、ヒントの出し方が不親切な部分もある。わかるとあっという間に解けるが、わからないと延々詰まることもある。


 ゲーム中には写真を撮ることができ、ヒントらしきものの写真を撮り、後で見ることもできる。昔のアドベンチャーゲームでは、写真を撮っておかないと詰むことが多かったが、このゲームではそれで詰むことはない。

 ただ、ゲーム中の写真を見るシステムは使い勝手が悪いので、ヒントはノートに書いた方がいい。



 パズルの難度は、全体としては低め。答えが丸々書かれているものが多く、周囲を観察して自分で考えて答えを導くタイプのものは少ない。順調にプレイすると30分くらいでクリアできるが、実際には変なところで行き詰まって結構時間を食うだろう。

 謎解きに関係のない、思わせぶりなギミックがあるのは少々鬱陶しかった。



 総評は、歴史を知りたい人、過去を懐かしみたい人向けのゲーム。歴史的価値に意義を見いだせないなら、いまさらこのゲームをプレイする意味はない。今なら似たような良質なゲームがたくさんある。"The Room"シリーズ、"The Witness"、"The Talos Principle"など。



 以下はネタバレありの話。



 とりあえず、私が行き詰まったところを列挙する。


 まず、ストーンシップ時代の羅針盤のボタン。手車式の手動発電機を回して電力を回復させてから望遠鏡で周囲を見渡すと、灯台が方位135で光っているのを確認できる。同じ方位のボタンを押せばクリア。

 しかし、灯台が135度にあることを知っていながら、どのボタンを押せばいいかで結構詰まった。というのは、そんな単純な答えなのか? と思ってしまったからである。ストーンシップ時代はプレイして初めて行った場所だったので、まだこのゲームのクセを掴み切れていなかった。引き出しの中にヒントがあるんじゃないかとか、回せる地球儀がヒントなのかとか、まあ、すんごい遠回りをした。

 最後に、他にどうしようもないから135度のボタンを押した。正解だった。ふざけんなと思った。

 なお、私はフライトシューティングとかをプレイしているから、望遠鏡の目盛りの数字が方位を示していることはすぐわかったが、知らないと、羅針盤と方位の数字が結びつかなくて詰む人もいるんじゃないかな、と思った。



 次に、Myst島でロケットへ電力を送るやつ。ボタンを押すことで電圧を変えられるが、上げすぎると安全装置が働いて電線の接続が切れてしまう。接続を回復するには、電柱に登ってレバーを引く必要がある。答えの電圧は書庫の塔に書かれてあり、1階のダイアルをロケットに合わせてから塔に登ると確認できる。

 この時点ではまだ、書庫でダイヤルを合わせると塔のヒントが変化する、ということを知らなかった(ストーンシップに行けたのは、たまたま船に合わせていて、たまたまヒントが表示されていたため)。

 というわけで、何ボルトにすればいいのかさっぱりわからなかったが、ブレーカーが落ちるまでちょっとずつ電圧を上げてみたら、58ボルトなら落ちず、60ボルトで落ちた。じゃあ59ボルトか、と。完全な力技。



 セレニック時代の地下鉄(?)。この地下鉄でどっちの方角に進めばいいかは、メカニカル時代を先にプレイしているとすぐわかる。しかし私は先にセレニックに来てしまったためにかなり苦戦した。音が何を意味しているのかわからなかったからである。正解ルートを通ると特定の音がするのか、とか、音の違いで場所を示しているのか、とか。

 これは不親切な仕様だと言わざるを得ない。先にメカニックに行かないとセレニックに行けないようにするべきだったと思う。



 Myst島の時計塔。答えが221なのはわかったが、どうやっても221にならない地獄。

 上中下の3つの歯車があり、歯には1,2,3とナンバーが振ってある。左のレバーを引くと上と中の歯が1つ進み、右のレバーを引くと中と下が1つ進む。3の次は1になる。

 で、初期位置は333なのだが、これだとどうやっても221にはならない。これは計算すればわかる。上が2になるのは左のレバーを2+3a回引いたとき。下が1になるのは右のレバーを1+3b回引いたとき。そして中が2になるのは、左右のレバーを合計2+3(a+b)回引いたとき。

 つまり、(2+3a)+(1+3b)=2+3(a+b)が式として成立するなら解があるわけだが、この式は整理すると3+3(a+b)=2+3(a+b)となり、どう見ても成立しない。解無しである。

 どうなってるんだ? と、ずいぶん悩んだが、30分くらい悩んだ末に、レバーを引き続けると、真ん中の歯車だけが回転することに気付いた。その仕様、どこかに書いとくとかしてよ!



 兄と弟、どちらが悪人なのかについては、各時代の兄弟の部屋をちゃんと調べ、兄弟の話をよく聞いていれば容易に推測が付くようになっている。

 アクナーはシーラスが父を殺したと言っているが、アトラス(父)は死んでいないのでこれは明らかにウソ。一方、シーラスはメカニック時代で住民に重税を課していたとするアクナーの告発文が残っているから、こいつが少なくとも善人でないことはわかる。

 決定的なのはチャネルウッド時代のホログラフだろう。兄弟が共謀して良からぬ事をしていることをシーラスが自白している。

 というわけで、2人ともろくでなしであることは明白。どちらも助けないことでベストエンディングに辿り着いた。



 このゲームの謎解きは、時代を考慮すれば画期的だっただろうが、今の基準で言うとあんまり面白いものはない。プラネタリウムの時間入力や、セレニックの地下鉄、メカニックの回転するお家は無駄に手数が必要で面倒くさい。

 優れていると思ったのは、ボイラーの蒸気の加減で木のエレベーターを動かすやつ。これは今の基準でも面白い仕掛けだと思う。



 現代の基準からすれば、このゲームの質は、500円程度で売っているインディーゲームの凡作といったところ。ちゃんと遊べるけど、いまひとつ、といった感じ。


 ただ、これが1993年のゲームだとなると驚く。この時代のパソゲーアドベンチャーなんて理不尽クソゲーの山だったからである。このゲームがあるからこそ、現代の500円インディーゲームでもそこそこまともなのだと考えると、やはり偉大なゲームである。

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