メタルウルフカオス XD (3500字)

『メタルウルフカオス』は、フロム・ソフトウェアがXboxで出した奇ゲーである。おおざっぱに言うと、アメリカ大統領がアーマード・コアに乗ってアメリカの都市を破壊しまくり、アメリカ軍をなぎ倒すことでアメリカを救うゲーム。

 9.11もあって海外版は発売されず、フロム内部では「絶対移植やリメイク、続編は作らない」とお達しがあったらしいが、一部のゲームファン、とりわけアメリカでは根強く移植の要望があった。


 そうした熱い要望をネットで見たDevolver Degitalがフロムと交渉し、移植する権利を獲得した。開発はシンガポールの会社、General Arcadeが担当。

 そしてリリースされたのが『メタルウルフカオス XD』である。2019年のアメリカ独立記念日に発売した。



 16:9画面対応で画質はオリジナルよりきれいになっているが、基本的にはオリジナルに忠実な移植になっている。フレームレートは30FPS固定。そこは60FPSに対応してくれても良かった気がするが。


 リリース直後はオリジナルに比べてエフェクトやネオンサインなどが地味だったり、ヘリコプターのローターの表現が変だったりしたが、アップデートによりその辺は改善した。ただし、ムービーは初期版のままなので、ムービー中のヘリのローター表現は変なままである。



 このゲームは、アメリカ大統領がロボに乗って、副大統領の起こしたクーデターを鎮圧する、という内容になっている。

 この設定はぶっ飛んでいるが、まあ、ハリウッドには大統領がワンマンアーミーする映画もあるし、ロボに乗るくらいなんてことないだろう。

 しかし、絶対ハリウッドでは思いつかない要素がひとつある。街を壊すと弾薬やパワーアップアイテムが手に入るのである。


 私は最初、この仕組みが理解できなかった。大統領はアメリカを守るために戦っている。だからむしろ、非敵対の民間施設は壊したらペナルティがあるものと思っていた。

 そもそもこのゲームのリザルトには「被害総額」という項目がある。だからてっきり、街を壊すと弁済しなければならないと思っていたのである。

 しかし実際は、街を壊せば壊すほどご褒美がある。そして「被害総額」は、高いほど評価がいいのである。一体どうしたらそういう発想になるのだろう。さすがフロム・ソフトウェア。意味がわからない。

 というわけで、アメリカ大統領扮するプレーヤーは、アメリカの街々を隅から隅まで破壊し尽くす。そうすることによってクーデターからアメリカを救い、自由と正義を守ることになるのである。この仕様を考えた人はイカレている。



 基本的なゲームシステムは『アーマード・コア』に近い。アメリカ各地でミッションがあるので、それを受諾して遂行し、結果によって資金が得られ、それを使って武器を開発、製造して強化していく。

『アーマード・コア』と違い、出撃にはコストがかからないので、難しいと感じたときは序盤の簡単なミッションを繰り返しプレイすることで資金を稼ぎ、武器を強化して楽に進めることができる。


 ミッションは全部で14。エンディングを見るまでは14時間程度。クリア後は高難易度モードと、弾薬無制限で撃ちまくれるモードが出る。弾薬無制限モードでもミッションで獲得したものはそのまま手に入るので、通常では解放しにくい人質や、取りにくいアイテムなどがある場合は、一旦クリアしてから取ると楽。

 実用的なことは抜きにしても弾薬無制限モードは楽しい。通常モードではあまり無駄撃ちはできないが、このモードなら好きなだけ撃ちまくり、壊しまくれる。



 操作系統は『アーマード・コア』よりも簡易で、操作しやすい。『アーマード・コア』のプレイヤーなら、『アーマード・コア』と同じ操作系統にしてくれた方がやりやすかったのにと感じるかもしれないが。

 武器の選択だけは特殊で、武器ラックを開いてから武器を選択する方式で、面倒くさい。ただ、これは、このゲームのロボの特徴的な兵装ギミックでもあるので、仕方のないところでもある。ボタンひとつで武器変更できると、らしさがなくなるのも事実だと思う。

 チュートリアルがないのでわかりにくいが、移動せずその場でブーストボタンを押し続けると垂直にブーストし、高いところに登ることができる。

 ブースト中にオブジェクトや敵に触れるとダメージを与えることができる。また、滞空中に急降下することでスラム攻撃を行える。これらを活用することで弾薬の消費を抑えられる他、ミッションクリア後に表示される成績評価も良くなる。


 武器の射程は総じて短い。普通のゲームなら余裕で届きそうな距離でも弾が届かない。ロックオンサイトが緑なら間違いなく届くが、白だと届かない可能性が高い。それもあって、近距離戦に強い武器の方が戦いやすい。

 ミサイルは射撃で撃ち落とせるが、ボス戦でミサイルをロックオンサイトに収めて撃ち落とすのは大変でもある。大統領のスーツはアーマード・コアほど機動力がないので、誘導性能の高いミサイルはかわしにくい。ショットガンにチャフをバラ撒くものがあって、ミサイルを撃ちまくってくるボスには高火力兵器以上に有効だったりする。



 ストーリーはイカレている。大統領がロボに乗って悪と戦うところまでは、よくあるハリウッド的大雑把かつお馬鹿なノリだが、いくらハリウッドでも大統領がアメリカ兵を殺しまくる作品は作らないだろう。大統領がアメリカの兵器や街や基地をぶっ壊しまくって「アメリカを救う」とか言っているのだから、常人の理解を超えている。

 根底となるストーリーが非常識だから、当然、登場人物の言動もぶっちぎれている。当事者の大統領、副大統領はもちろん、オペレーターやニュース番組まで誰一人としてまともな奴はいない。


 主人公の父親の像がホワイトハウスのど真ん中に建てられていたり、その像を攻撃すると父親が心に直接語りかけてきたりと、ツッコミどころや笑いどころは満載だが、そもそも全体的におかしいので、いちいち突っ込んでいたら身が持たない。



 難易度は、アイテムや資金を丁寧に集めていけば、まあまあ簡単。だいたいゴリ押しでどうにかなる。そもそも大統領のロボはアーマード・コアと比べると機動性に難があるので、フロムらしい難しさになってしまうとかなりキツいだろう。このくらいのバランスでちょうどいいのだと言える。


 ただ、武器の選択を誤ると、難易度が跳ね上がるゲームでもある。難しいと感じたら、使う武器を変えるといいかもしれない。


 私はアサルトライフルを主体に戦っていたが、巨大メカ戦があまりに厳しいので、もしかしてアサルトライフルは弱いのではないかと疑い始めた。それで、いろいろ武器を開発してみると、やはりアサルトライフルは武器全体から見ても火力が低いことがわかった。射程が長めかつ精度が高いので、対空戦や人質解放には使いやすいのだが。


 マシンガンは初期こそ弱いが、開発度が上がると馬鹿みたいな火力が出るのが作れるようになる。レールガンも、フルチャージすればどんな敵も一撃で倒すのが作れるようになる。ただし、敵弾を食らってノックバックするとチャージが途切れてしまうので、正面対決では使えないが。


 敵の火力と防御力が上がるヘルモードは、プレイしていても大して違いを感じない。正面切ってボスと戦うと、さすがに厳しくなっていることに気付くが、たいがいは楽に倒せる方法があるので問題にならない。



 プレイしていて気になったのは、プレイ中に突然カットシーンが入って、度々プレイを邪魔されること。ボス出現時、破壊時の演出などはまあいいとして、報道機関のヘリが飛んできたなどのどうでもいいシーンや、「あの基地を破壊してください」的なチュートリアルカットなどが、これからスラム攻撃を仕掛けようとしている最中に割り込んできて、不発に終わったりする。コンボを繋いで点を稼ぐシステムとかあるのだから、もう少し考えて欲しい。……とはいえ、この仕様もオリジナル通りなのだろうから、できるだけベタ移植っぽくすることを心がけた本作に言っても仕方ないことかもしれない。



 初期にはグラフィックやSE、エフェクトの再現度についてオリジナル版プレーヤーから不満が出ていたが、その多くは現在、アップデートによって改善されている。

 そもそも、オリジナル版は希少で馬鹿みたいなプレミアムが付いており、ほとんどの人はプレイできない。その上フロム内部では絶対移植しないと厳命されていたというタイトルである。多少移植度が怪しくても、普通にプレイできるようになっただけでも幸いというべきだろう。

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