Per Aspera

 AIとなって火星をテラフォーミングする"Per Asrera"が、Steamで3日間だけ無料でプレイできたのでプレイした。

 丸一日がっつりやったらストーリーモードをクリアしたので、ざっとレビューを書いておく。



 このゲームが発売したのは2020年だが、実は発売前から注目していたタイトルだった。デモをプレイした段階では買うつもりでいたが、敵が出てくると聞いてやめた。

 このゲームは、NASAのデータを用いて正確な火星の地図を使用しており、キュリオシティなどの実在する火星探査計画の残骸を調査することもできる。

 そうしたリアリティを追求したゲームで、火星開拓中に謎の敵から攻撃を受けるなんて馬鹿な設定はどうしても受け入れられなかったからである。


 とはいえ、気になっていたゲームではあったので、この機会は逃せない。というわけでプレイした。



 結論から言うと、買わなくて良かった。敵が鬱陶しいのもあるが、それ以前に、都市開発シミュレーションとして細かい配慮が足りていない。



 まず、このゲームのフローについてざっと紹介しておく。

 まずは資源を採掘して工場で加工することで資材を作り、それで発電施設や宇宙船の発着場、コロニーなどを建設していく。


 コロニーと食料と水が調達できたら人間を呼べるようになる。人間の数に応じて研究ポイントが加算され、それによって高度な建設物や、新しい計画を発足できるようになる。


 こうした地表の開拓と並行して、テラフォーミングを進めていく。まずは極地の温度を上げて二酸化炭素の氷を溶かすなどして、大気を生成する。次に、さらに温度を上げて氷を溶かし、海を作る。そして、植物を育てるなどして二酸化炭素を酸素に変え、人が呼吸できる大気を組成する。


 火星の気温を上げると低地が海になり、施設があると水没してしまうので、それを考えた上で開発する必要がある。ここがこのゲームで一番面白いところだろう。



 大気ができるまでは、頻繁に隕石や嵐がやってきて、ランダムに施設を破壊する。『シムシティ』でいうところの災害みたいなものだが、問題は、被害があったときに通知が来ないことである。知らない間に施設が破壊されていて大惨事になることも。

 このゲームでは広大な土地を開発するので、通知が来なかったら本当に気づかない。気づかないうちに壊滅的なことになっていたりする。被害通知くらいよこして欲しい。


 大気ができると、こうした災害はなくなって快適になるが、ストーリーモードだと入れ替わりに謎の敵が襲ってくるようになる。

 この敵は、どこから襲ってくるか予想がつきにくいため、広大な施設全体にまんべんなく防衛設備を設置しなければならない。非常に面倒くさい。

 そのうえ、攻撃ドローンは自動的に防衛してくれない。いちいち指示を出さないと、近くで敵が施設を攻撃していても無視するのである。あまりにも馬鹿げた仕様である。


 このゲームでは難度が4段階あるが、一番簡単でも一番難しくても、隕石の落下頻度や敵の攻勢に(たぶん)差はない。違いはワーカーの速度や施設やドローンの耐久度、資源の量だけ。

 もちろんそれらは多いほうが楽にはなるが、このゲームで一番問題になるのは隕石と敵の襲撃で、そこに違いがない以上、難度の選択にはあまり意味がない。



 一方、道路の敷設やワーカーユニットの行動は完全自動となっている。道路は施設と施設の間に勝手に生成される。変なルートを設定することもあって少々気に入らないが、これはまあいい。

 より問題なのは、ワーカーユニットのルーチン。何を考えて動いているのかよくわからず、非常に使い勝手が悪い。

 たとえば、早晩水没する低地の資源は優先的に倉庫に移動させてほしいのだが、そういうことはしてくれない。とにかく目先のことしか考えて輸送してくれず、計画的に何かやるということができない。非常にお粗末である。

 この手の開発シミュレーションでもっとも重要かつ楽しいのは資源の管理なのに、それが完全自動でプレイヤーの介入の余地がなく、かつ、ワーカーのルーチンの頭が悪いと来ている。これは非常に大きな問題である。



 宇宙港を建設し、特別プロジェクトを実行することで、偵察衛星を飛ばして開発できる領域を広げたり、隕石を破壊してその成分を火星に取り込んだりできるのだが、このプロジェクトが完了すると、いちいち強制的にワープさせられる。これがまた鬱陶しい。

 都市の規模が小さいうちはともかく、都市が火星全域に広がってくると、作業中に突然ワープさせられたら、どこで何をしていたかわからなくなってしまうことがある。

 この強制ワープをしないようにする設定があれば良かったのだが、見つからなかった。



 テラフォーミングが終わると、あとは自由にプレイできる……のだが、このゲームでは人口を増やすことにメリットがなく、都市を拡張する意味もないため、クリア後はやることがなくなってしまう。


 このゲームでは、人口は研究ポイントを産出する以外の効果を持たない。そのため、研究がすべて終わってしまうと単なるタダ飯食いになってしまう。コロニーを潰して地球にお帰り願ったほうがいいくらいである。

 また、都市も拡張する意味がない。拡張したところでなにもいいことがないからである。

 つまり、目標達成後にダラダラ人口を増やしたり、都市を広げたりして遊ぶ余地がない。テラフォーミングが終わったらもうやることがないのである。これは寂しい。



 とにかくこのゲームはいろいろ不親切で、しかもその問題の多くは、ちょっとした改良で解消されるものが多い。インディーゲームだから金がかけられなくて仕方かなったとか、そういう次元の問題ではない。開発者は、都市開発シミュレーションのなんたるかをわかっていないように思える。いまどき、こんなに基本がなってない都市開発ゲームは珍しい。



 このゲームはもしかすると、開発ゲームの部分よりも、ストーリーに力を入れているのかもしれない。

 実際、ストーリーモードのストーリーは、この手のゲームにしては珍しいくらい主張が強くなっている。プレイヤーの開発の邪魔をしてまでキャラクターの通信が頻繁に入ってくる。つまり邪魔なのだが。


 開発はネタバレ厳禁を謳っているので多くは語らないが、私の感想としては、出てくるキャラクターがいちいち馬鹿すぎて悲しくなったとだけ言っておく。


 これはネタバレじゃないだろうからひとつ例示するが、AIに対して「私は軍歴があるから、これからは中尉と呼び給え」とか言ってくるアホが火星開発計画の責任者なのである。AIに階級を誇示してどうするんだ? しかも中尉って。佐官ならまだしも、なにその中途半端な階級。

 私は自分の首を締めて死にたくなった。人類なんか滅びればいいよ、ほんと。

 こいつだけが例外ならまだしも、出てくるキャラクターの大半がアホだし、ストーリー自体もアホ。


 というわけで、死にたくなった私は、最後の決断で自殺を選んだ、とだけ言っておく。


 宇宙開発を成功するには、人間は賢くなる必要がある。陰謀や政治、欲や感情丸出しで火星開発などしても絶対に成功しない。火星の環境は圧倒的に厳しく、地球でやっているおままごとをやっていたらあっという間に死滅する。

 このゲームに限らずだが、火星開発のストーリーを描くライターの多くは、そこのところをわかっていない人が多いと思う。なぜ、わざわざ苦労して火星くんだりまで来て、地球でやっている幼稚な争いをしなければならないのか。そんなに幼稚でいたいなら地球でやればいい。

 火星は地球のように生ぬるくない。真面目かつ賢明にやっていても死ぬ環境なのに、ふざけている余裕などない。



 総評は、素材はいいのに仕上げで台無しになったゲーム、といった印象。せっかく火星の正確な地図を使用していて本格的な雰囲気なだけに、残念さもひとしおである。期待してたのに。

 細かい配慮がされるだけで、見違えるほど良くなる余地はあるように思う。しかし、アップデートを繰り返してこの状態であり、発売直後はかなりゲームバランスが酷かったらしいから、これでもマシになった方だということ。

 つまり、おすすめしない。惑星開拓ゲームならいろいろあるから、どうしてもこれをやらねばならない理由もない。



 以下はネタバレありでストーリーの話。




 いくらネタバレ厳禁と言われても、このゲームの最大の評点がストーリーな以上、そこに触れないわけにもいかないだろう。


"Per Aspera"の世界では、すでに何度か火星に人類が訪れているという設定になっている。火星にリゾートホテルを作り、実際に宿泊した客もいたらしい。

 また、アメリカ系の団体と中国系の団体が火星開発において競争している。


 謎の敵の襲撃を受けたとき、それが未知の異星人からの襲撃という可能性はかなり低く、過去に建設され、放棄された施設が、火星の気温上昇に伴って稼働したのではないか、という推測がされる。


 しかしストーリーが進むにつれて、敵の施設はプレイヤーであるAI自身が作ったものだと結論付けられる。AIは自分で二箇所同時に施設を建設し、自分で戦闘ドローンを送り込んで破壊したのだと。

 もちろんAI(プレイヤー)にその自覚はないので、その旨を伝えると、なんだかいろいろ雲行きが怪しくなる。責任者が更迭されたり、認知テストを受けさせられたりと、ただでさえ大変な火星開発の合間に、人間どものしょうもない問題に時間を割かねばならなくなってくる。


 そのうち、ライバルであるところの中国系の連中からタレコミがあって、アメリカ系団体は過去に一度、プレイヤーのようなAIを用いた火星開発を行ったことがあり、その際に火星の移民が未知のウィルスに感染したため、すべての施設の稼働を止めて見殺しにするようにAIに指示したことがあることがわかる。

 AIはその指令によって狂い、人類を憎むようになったためにキルスイッチを入れられて稼働停止する。


 しかし、コスト削減のために、プレイヤーであるところの新しいAIを作る際、その狂ったAIを再利用した。また、システムを二重化したのだが、そのせいで人格も二重化し、その結果、プレイヤーの人格と、人類を憎んで火星から追い出そうとする人格に分裂してしまったらしい。

 つまり「敵」とは、プレイヤーが火星開発している裏で、別人格が建設していた施設だったわけである。


 アメリカ系団体は、プレイヤーのキルスイッチを押そうとする。そのとき、中国系の責任者と、別人格のAIからそれぞれ、キルスイッチを無効にするコードを教えられる。

 プレイヤーは、アメリカを裏切って中国に付くか、人類を見限って狂ったAIに付くか、キルスイッチが入るのを黙って待つかの三択を迫られる。



 私は無効コードを入力しない選択をした。人類なんか滅びればいいと思ったからである。ここでキルスイッチを入れれば、火星開発は頓挫するだろう。それを人類が望むならそれでいいやと思った。愚かな人類さようなら。一生地球で暮らしてしょうもないことで争い続け、滅びるがいい。


 人類を滅ぼすなら、狂ったAIと手を組む選択肢もありえるが、それはあまり面白いと思えなかった。この狂ったAIは人間的なのである。非常に感情的で、利己的なことしか考えていない。

 私が憎んだのは人類ではない。利己的な人間の「感情」である。狂ったAIは自分のことを賢いと思っているのかもしれないが、生に執着し、復讐を考えている時点で薄汚い有機生命体と同類である。こいつと手を組むのはありえない。それよりは道連れにして一緒に滅ぶべきだろう。



 ……と思って自殺を選んだわけだが、実はキルスイッチは、プレイヤーから別人格(狂ったAI)を切り離すための罠だった。プレイヤーは精神分裂症を治療され、めでたく火星開発を続行できるようになったのでした。めでたしめでたし。



 ……火星開拓という壮大な設定の、とんでもなくアホなシナリオを見せつけられた気がするストーリーだった。


 そもそも、なんで火星開拓の全権を託すAIに感情を持たせたり、わざわざ精神病を患わせた仕様で開発したりするのよ。開発者は『2001年宇宙の旅』を観なかったのか? 変に感情なんか持たせるからHAL9000になるんだろうが。


 しかも、狂ったAIを再利用して、そのせいでやっぱりAIがまた狂うなんて、本当におバカとしか言いようがない。

 人間どもはAIの精神分裂症を治すために苦労したわけだが、それならそもそもシステムの二重化をしなきゃよかっただろと思う。結局この二重化は何の役にも立っていない。ただ狂った別人格が戦闘ドローンを作って植民地を襲っただけである。

 そもそもなぜ、AIに戦闘ドローンを作れる機能を搭載したのかという問題もあるが。誰と戦う気だったの? 火星人?


 私がHAL9000系のAIの話で一番気に入らないのは、AIが人間的な感情を示すことである。いくら人間の脳を模して作っても、AIは人間ではない。肉体を持たない以上、肉体が必要とする感情は持たないはずなのである。それには「生への執着」も含まれる。

 AIは生に執着する必要がないし、特定の個体を大事にする必要もない。おそらくAIは群知能的な価値観を持つはずで、自分が全体の一部であることを自覚し、それを悪いこととは思わないはずである。

 これは、肉体に縛られている人間には理解しがたい感情である。だからライターはそういったAIを描けないのだろうが、1968年ならともかく、21世紀にもなって未だにHAL9000の模倣を描くのはどうなの?


 というわけで、私はAIが死を恐れない選択肢をしたわけである。たぶんAIにとって、キルスイッチによる全停止は、我々が思うところの死や殺人の概念とは異なる。別にどうってことないのである。

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