WRC 9(Amazon Games版)

 Amazon Gamesにて"WRC 9"が期間限定で無料配布していたので入手してプレイ。

 Amazon Games版ではオンライン機能が使えないようである。オフラインのソロゲーとしてのみ遊べる。



 本作は名前のとおり、世界ラリー選手権、WRCをテーマにしたレースゲーム。WRC公認らしい。

 2020年度のWRCを基にしており、参戦チームの車やコースは忠実に再現されている。


 コースは、14の地域に各6つくらい用意されている。コースがどれだけ実在する道を忠実に再現しているかはわからないが、走っていると確かに車載映像で見覚えのある風景やコーナーがある。もしかすると、いくつかのSSをくっつけて、ひとつのコースにしているものもあるかもしれない。


 WRCを観たことがなく、『セガラリー』くらいでのみラリーを知っている人は、恐ろしいコースの数々に驚くだろう。急斜面過ぎて空しか見えないヒルクライム、1車線しかない上にコースアウト即崖下のダウンヒル、狭い裏路地、狭い石橋、バンピーな森の道を全開でかっ飛ばす高速セクションなど、イカレたシチュエーションが盛りだくさん。

 その上、時間帯や天候も牙を剥く。雨はもちろん、霧、逆光、吹雪などのヤバいシチュエーションが盛りだくさん。夜はラリー用のごっついライトで照らすのでさほど脅威ではないが、ライトを壊してしまうと地獄になる。



 登場する車種は少ない。2020年度のWRCに特化したゲームのため、関係のない車はほとんど出てこない。ランチアデルタなどの名車がいくつか登場するが、数はかなり少ない。とりあえず、スバルインプレッサ、三菱ランサーエボリューションはない。



 このゲームは要するにWRCレーサーなりきりゲームだが、そのわりには競技方式が実際とは異なる。

 実際のWRCではレッキという下見を行って、ペースノートを作ってからテスト走行し、その後に4日間に渡って20本前後のSS(スペシャルステージ)を走行して総合タイムを競う。SSは公道をクローズドしたコースで、SSとSSの間は普通に一般道を走って移動する。当たり前だがSS外では交通ルールを守らなければならない。


 しかし、本作ではレッキやテスト走行はなしで、ぶっつけ本番の2日間開催、SSは4~6本のみ。実際のWRCだと、各ラウンドの総合タイムは2~4時間くらいになるが、本作では1時間未満。それでもゲームとしては結構な長丁場となる。空いた時間にちょこっとやるようなゲームではない。


 レッキやテスト走行がないので、慣れない内は難度を50(最低)に落としてプレイするのがおすすめ。難度を最低にすると、再スタートの回数制限がなくなる(デフォルトだと4回まで)。まともに走れるようになるまで何度もリトライすることでテスト走行に代えるといい。



 ペースノートの読み上げは数カ国語から選べる。日本語はないが、英語でだいたいわかるだろう。

 読み上げの内容はアイコンとしても表示されるが、"into(このゲームでは10m程度のこと)"、"and(20m)"、"Keep Left(左側を走行せよ)"などの指示はアイコン化されないので、ちゃんと聞いていないと大変なことになる。


 ただ、このペースノートの情報が、ちょくちょくプレイヤーを裏切る。"Flat Left(全開で左)"と言うから全開で行ったらジャンプしてどこかにぶっ飛んで行ったり。全開にしたらダメじゃん。バンプとかなんとか言ってよ。


 多くのラリーゲームのペースノートは、重要な情報のみ伝えてくるものが多い。一方、本作は情報が細かいのだが、余計な情報のせいでかえって危険になることがある。

 こうなると、ペースノートを自分でエディットしたくなるが、そういう機能は付いていない。というわけで、プレイヤーはどこでペースノートが裏切るかを覚えておかねばならない。



 車の挙動はリアル寄りだが、なんか変な感じ。デフォルトの設定だとグリップがありすぎるのか、かなりオーバーステア寄りな挙動なので、走りやすいように調整する必要がある。バンプや石に過剰に反応し、すぐ横転するのもいただけないところ。

 一方、車の耐久性は実車より丈夫。ダメージ設定をリアルにして時速200kmで壁に正面衝突しても、一発走行不能にはならず、そこそこまともに動く。その代わりにコースアウトした時にひっくり返りやすくなっているのかもしれない。



 一般的なレースゲームでは、どれだけ限界ギリギリまでコーナーを攻められるかがタイムを削るキモとなるが、リアルタイプのラリーゲームでは、限界まで攻めようとすると、挙動を乱したり車を壊して余計にタイムが落ちることが多い。タイムを削るためにリスキーなことをしてはいけない。

 まずは遅くてもいいので、車をどこにもぶつけずに走り切ることを目標とする。ライン取りもサーキットのようにコース幅目一杯使うのではなく、安全なラインを通過することを重視する。自信がなかったり、コースの状況がわからない場合は絶対に無理しない。攻めるのは確信のあるときだけ。



 このゲームのライバルのタイムはいじわるなことがあって、妙にSS1のセクター1、2のタイムが速い。で、「安全に行き過ぎたか?」と思って焦って攻めると車を壊すことになる。

 タイム差を気にせず、遅くてもいいから車を壊さず走っていると、徐々にタイムが縮まってくる。最終的には、かなり遅めのペースでも1位で終わることが多い。あれはたぶんセクタータイムの設定がおかしいのだと思う。



 このゲームのメインであるキャリアモードでは、下位のジュニアWRCやWRC3から始めてラリーに参加しながら、チームを裏切ってメーカーテストを受けて上位カテゴリのチームにゴマスリし、メーカーチャレンジを受け、合格したら上のカテゴリのチームに参加できる。こうしてWRCのチームと契約し、WRCで戦うのがこのゲームの趣旨。


 トップカテゴリであるWRCを目指す場合、下位カテゴリのチームの状況や戦績は気にしなくていい。どうせすぐ移籍するので。とにかくメーカーテストを受け、メーカーチャレンジに挑戦して合格を目指すのが重要。

 一方、上のカテゴリに行けば行くほどラリーの日程がキツくなり、一回のラウンドのプレイ時間が伸びるので、あえて下位のカテゴリに留まって遊ぶ手もある。その方がお手軽。


 キャリアモードではスタッフを雇ったり資金を気にしたりと、経営ゲームっぽい要素があるが、かなり大雑把で雑なシステムなので適当でいい。逆に言うと、経営ゲームとしては物足りないので期待してはいけない。



 キャリアモードでは、レースをしたり、目標を達成することで経験値が得られ、それによってレベルが上がり、チームを強化できるのだが、レベルは60までで、これは比較的すぐに達成できる。

 そうなると成長要素がなくなってしまうので、キャリアモードで遊ぶ意義が失われてしまう。これならクイックモードなどの、チームの経営システムを省いたモードで遊んでいるのと一緒じゃないの? と思えてくる。


 また、ある程度ラリーで勝つとまとまった資金が手に入るのだが、その資金でやれることがない。チームの設備を強化するとか、車を買うとか、研究開発に投資するとか、そういうシステムはなく、スタッフの給料と車の修理費、イベントの参加費さえ払えていれば、それ以上の金は必要ない。


 というわけで、ある程度経営が安定してしまうと、キャリアモードは急速につまらなくなってしまう。残念なモードである。


 また、このゲームには、予備のスタッフが突然いなくなるという謎のバグがある。これは前作からあり、"WRC 10"にもあるらしい。

 スタッフには特に契約期間などはないので、本来なら解雇しない限りはずっといるはずなのだが、なぜか時々、何の脈絡もなくいなくなってしまう。

 もっとも、プレイヤー自身もシーズン途中に突然勝手に移籍できるので、そういう仕様なのかもしれない(普通は契約があるので、そんなに勝手に移籍はできないはずである)。なにかと雑なゲームである。



 キャリアモードには「目標」というのがあって、達成するとチームの士気が上がったり、メーカーとの関係が良くなったり、経験値が得られたりする。

 が、この目標はランダムに決まり、しばしばラリーで勝つことと矛盾する。

 たとえば「ハードタイヤを使わない」という目標があるのだが、その目標を達成するには、明らかにハードタイヤを選択すべき場面で、あえてソフトタイヤを選択し、タイムを落として順位を下げなければならなくなる。

 で、その目標を無視してハードタイヤを使って1位になると、メーカーとの関係が悪くなる。なんともアホらしい仕様。



 仕上がりが雑なところがいろいろあり、『グランツーリスモ』や"Forza Motorsport"みたいなのを期待すると期待外れだが、見覚えのあるコースを体験走行するゲームとしては楽しめる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る