HUMANITY
"HUMANITY"は、プレイヤーは白い柴犬となって、人間の行列をゴールまで導くのが目的の、ステージクリア型アクションパズルゲーム。
ゲームの原案となるものを作ったのは中村勇吾というデザイナーで、ゲーム開発は本作がはじめてだが、"Rez"や『スペースチャンネル5』を手掛けた水口哲也率いるエンハンスが開発に関わっている。
"Rez"などとはゲームの方向性が異なるが、プレイすれば共通する特徴がそこかしこに見えると思う。特にBGMにそれを感じるだろう。
人間はゲートからぞろぞろと出てきて、放っておくと、ただまっすぐにしか歩かない。目の前が崖でもそのまま行進しつづけて転落する。そこで柴犬が人間たちに指示を与えて、適切に動くようにする。
指示の出し方は、地面に指示アイコンを設置することで行う。進行方向アイコンを設置すればその方向に進むし、ジャンプアイコンを設置すればジャンプする。
人間たちはゲートから無限に出てくるので、いくら死んでも構わない。いちおう、死んだ人間の総数は記録されるが、特に意味はない。
ただ、ステージによってはゲートがない場合もあるので、常に人命を軽視していいわけでもない。
ほとんどのステージにはGOLDYという、金色の人型のなにかがいる。GOLDYは人間と接触すると人間と一緒に歩き出す。このGOLDYも、できるだけゴールへと導いた方がいい。
GOLDYは死んでしまうと復活しないので、人間より大事に扱う必要がある。
各チャプターでGOLDYを一定数導くと、そのチャプターの最終ステージが開放される。また、全ステージで導いたGOLDYの累計数に応じて、このゲームのオプションが開放されるようになっている。
プレイしていると、まず間違いなく大勢の人間が死ぬことになるが、別に洋ゲーみたいに血しぶきがあがったりなどのグロい表現はなく、発光して消えるだけなので、スプラッタ表現が苦手な人でも大丈夫。
この表現は万人向けにするために配慮されたものだと思うが、このゲームの雰囲気とマッチしているので不自然な感じはない。
シンプルなゲームなので、最初は面白くても、やっていたらだんだん飽きてくるんじゃないか、と思えるが、そこはよくできていて、各チャプターごとに特殊な設定が用意されていて、それぞれに少し異なったプレイ体験ができる。
基本的にこのゲームはパズルゲームだが、一部のステージではアクション要素が強くなることもある。難しくはないが、一部、時間制限的にやや忙しいステージもある。
ひととおりクリアすると、ユーザーが自分でステージを作って公開するモードが解放されるので、クリアしたら自分でステージを作るなり、他のユーザーが作ったステージをプレイするなり、といった遊び方もできる。
難度は、パズルゲームとしては見れば簡単な部類だが、カジュアルにしては少し難しめ。いちおう万人向けの難度だが、やや難しめのステージもある。
ただ、解法がわからない場合はヒントを見ることができ、それを見れば、公式の言によると誰でも解けるらしいので、パズルゲームに慣れていない人でも、ヒントさえ見れば解ける……と思う。私はヒントを見なかったので不明だが。
気になった点は、人の動きに若干ランダム性があり、たまたま1人が群れからはぐれてどこかに行ったせいで、簡単にクリアできてしまったり、逆に失敗してしまったり、といったことが起こること。
パズルゲームとして見ると、こういうランダム性はあまり感心しない。同じ手順なら同じ結果になって欲しいと思うのが、パズルゲーマーの性である。
あと、このゲームのアクションゲーム的な要素は、パズルの息抜き的な位置づけとしては悪くない刺激だと思うが、そのわりにはちょっとシビアなバランスになっているところもあり、少々納得のいかないところはあった。パズルゲームで過度なアクション要素を要求されるのはあまり好ましくない、と、私は思う。
なお、序盤をプレイした人が気になっただろうポイントとして、ロングジャンプや、フロートを絡めた際のジャンプが、結局のところ何マス分ジャンプするのかよくわからない、というのがあると思う。
今後もしかして、1マス単位で正確にジャンプさせないとダメなステージが出るんじゃないか、だとしたら面倒くさいなあ……という危惧があると思うが、そういうステージは存在しないので、その心配はしなくていい。
実際、私はフロート+ロングジャンプで何マス跳ぶかは知らないが、それでもクリアできている。
ストーリーに関しては、意外とちゃんとある。
序盤をプレイしていると、なぜか柴犬になった主人公が、謎の光の言うままに謎の実験に参加させられるという、意味不明なシチュエーションを提示されて「なにこれ?」と思うが、中盤辺りから徐々に「実験」が何なのかが見えてきて、要するにプレイヤーが何をやっていたのかがわかってくるようになっている。
人間の行列を犬で操作するという絵面がかなり変なために受け狙いのゲームに見えるが、かなりしっかりした作りで、見た目だけのゲームではない。
興味を持ったならプレイして損はないだろう。
以下は、ストーリー部分のネタバレあり。
このゲームについてよく言及されるのは、人間の行列がひたすらまっすぐ進んでいくという絵面のシュールさについて。
人間が群衆になったときの無機質さ、非人間的な雰囲気が、現代社会に対する皮肉になっているとかなんとかという話。
しかし私は、その点には何も感じなかった。
自律しない群れを誘導するゲーム自体はよくあるし、そんなに物珍しいわけではない。我々ゲーマーは常日頃から、お馬鹿なAIや、指示されなきゃ自分では何もしてくれないNPCを誘導しながらゲームをプレイしている。指示されなきゃ勝手に前進しつづけて、崖から投身自殺しちゃうお馬鹿な人間なんてのは嫌というほど見てきている。
それに、人間は、個としては自由に行動しているように見えても、群れとして見れば無意識に社会システムに従って動いている、というのは、レヴィ=ストロースが唱えた構造主義の基本である。私は大学時代に構造主義をかじったから、いまさら「人間の群衆が無機質でござい」と言われても「その発想は50年以上前からあるのよ」としか思えない。
私が1年ほどこのゲームに手を出さなかったのは、見かけ倒しのゲームなんじゃないか、という危惧があったから。群衆の異様さをウリにしただけのゲームだったら嫌だなあ、と。
ではなぜいまさら手を出したか、というと、水口哲也が関わっていると知ったから。私は"Rez"や『ルミナス』、"Every Extra Extreme Extend"などをプレイしており、水口だったら見かけだけで中身のないゲームは作らないだろうと、信頼してのことだった。
このゲームが面白いのは、段階的にプレイヤーに人命を軽視させていくところだと思う。
最初のステージは、的確にプレイすれば一人も殺さず、全員ゴールに導ける。
しかし、ある程度進めると、一部の人間をスイッチを踏ませるためにその場でぐるぐるループさせて置き去りにしなければならなくなる。
このときプレイヤーは、「ああ、全員ゴールに導かなくてもいいのか。大勢を救うためには少数の犠牲はやむを得ないのね」と学ぶ。
実際、ステージが進めば進むほど、少数を犠牲にするという発想がないと解けなくなってくる。
そうやってステージをクリアしていくと、最初は人が死ぬことに抵抗があったプレイヤーも、だんだんそれが気にならなくなってくる。
そして、そのうちプレイヤーは、人間に武器を持たせることができるようになり、OTHERSとの戦争へと発展する。
私は、初めて人間に武器が持たせられるようになるステージをプレイしたとき、「どうせ武器なしでクリアできる方法があるんだろ」と思った。というのは、しばしばこの手のゲームでは、一見悪事に手を染めないとクリアできないように見せかけて、それを回避できる手段を用意しておき、あとで「戦闘を回避できる手段はあったのに、その手段を取らなかったプレイヤーのせいでバッドエンドになりました」みたいな罠が仕込まれているからである。
それで、いろいろ挑戦してみたが、どうやら絶対に武器を持たせないとクリア不可能だとわかった。
たいがいのお説教ゲームは、ここでプレイヤーに対して「お前のやっていることは非道だ」と批判してくる展開になりがち。
私はそういうゲームは好かない。「非道」なことをプレイヤーにやらせているのはゲームであり、本当に非難されるべきは、それを作った開発者のはずだからである。
なのにゲームの開発者たちは、しばしば自分の悪行を棚にあげて、プレイヤーに罪を擦り付ける。そしてプレイヤーにお説教する。そうすることで開発者は、自分は道徳的、哲学的に素晴らしいゲームを作り、プレイヤーを啓蒙できたと満足する。プレイヤーは開発者の自己満足と理不尽なお説教に付き合わされることになるのである。こういうゲームは本当に多いし、その度に私はげんなりする。
"HUMANITY"が一味違うのは、ここでプレイヤーを一切非難しないこと。むしろ称賛する。なんだかよくわからないが、たくさんの人間を犠牲にし、戦争を起こしつつチャプターをクリアしていくと、どんどんプレイヤーは人間に好かれるのである。
いやまあ、コアが「人間は君のことを好いている」と言っているだけなので、本当に好かれているのかは不明だが、ともかく、プレイヤーの行動は肯定される。すんごい犠牲を出しまくっていても、戦争をおっぱじめても、その点については何も言われないし、何も影響ない。あまりにもノータッチなので、「本当に問題ないのかよ」と不安になるくらいである。
このゲームの世界では、トロッコ問題的な葛藤は一切ない。徹底的に功利主義でOKであり、目的さえ達成すれば、犠牲はいくら払ってもおとがめなしである。
哲学的なテーマを問うゲームが多い中、ここまで徹底的に哲学的葛藤を排除したゲームは珍しい。
そして、大勢の人間を犠牲にすることについて、何も言及されることがないゲームのタイトルが"HUMANITY"なのである。なかなかに皮肉が効いている。
ゲームクリア後、実験を経て人間は再生されたらしいのだが、エンディング中にその人間がやっていることは、結局ひたすら前進してゴールを目指すという、ゲーム中でやっていることと変わりない行動しか取らないので、これで本当に人間が再生されたのかは非常に怪しいものがある。
そういえば、GOLDYは結局なんだったのだろう。このゲームは意外とほとんどの伏線は回収して終わるようになっているが、GOLDYが何かは、特に具体的な話はないままだった。
エンディングの感じからすると、人間が進歩して再生した姿がGOLDY、ということなのかもしれないが。……しかしだね、実験を経て再生した結果、人間がGOLDYになるのだとしたら、結局GOLDYって自律しない人形に過ぎないのだから、それで実験が成功したと言えるのか、という疑問が残るっちゃ残る。
私が行き詰まったステージについて。
本作は別段難しくないゲームだが、私は1ステージだけめちゃくちゃクリアに時間がかかった。
それはSequense 7: 05B "STEP BY STEP"。
クリアは簡単だが、GOLDYがどうしても全部取れなくて、このステージだけ数時間行き詰まった。
どう考えてもこのステージだけ突出して難しすぎるので、「私は何か勘違いしているのか?」と疑ったが、何を勘違いしているのかはずっとわからなかった。
結局、何を勘違いしていたかと言うと、縦に2個並んだブロックを押せるのに気づかなかったこと。
普通、こういうゲームでは、縦に複数個並んだブロックを同時に押すことはできないものなので、私はずっと、押せないものと思っていた。そして、このステージ以外は、その認識でも問題なくクリアできてしまう。
ブロックを縦に2個並べて押さないとクリアできないステージは、たぶんここだけだったはず。……もしかして最序盤のステージに、2個押ししているのがあったのか?
なんにせよ、押せるとわかったらめちゃくちゃ簡単である。
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