FC版ドラゴンクエスト (3400字)

 wii版の『ドラゴンクエスト I・II・III』にてFC版『ドラゴンクエスト』をプレイ。

 内容はオリジナルと同じだが、どこでもセーブが1箇所可能になっている。



 FC版『ドラゴンクエスト』の特徴は、なんと言っても主人公が前しか向けないことだろう。移動するときはカニ歩きやムーンウォークを披露し、話すときには「きた・ひがし・みなみ・にし」を選択しなければならない。

 これを聞くとものすごく面倒くさそうに感じるが、やってみると案外どうってことない。いちいち相手の方向を向いて話す必要がないから楽と感じることすらある。


 ただ、役に立たないことしか喋らない人物が多いことには辟易する。後の『ドラクエII』、『III』になると、役に立たないことを喋る人は激減するが、本作に出てくる人物の半分くらいは話しかけるだけ無駄。

 特に、1回使ったら壊れる有料の鍵を使って開けた扉の奥にいる人物が何の情報も提供してくれなかったときのいらだちと言ったらない。鍵を返せよと言いたくなる。

 余計なことを話す人物のセリフが面白ければまだ救いがあるが、そういうこともない。内輪ネタ(住人にスタッフが何人か紛れていて、お互いを探しているようなセリフを言う)は攻略情報と勘違いしやすくて紛らわしい。



 クエストは行き詰まるほど難解なものはない。


 本作ではダンジョンは真っ暗で、たいまつかレミーラを使わないと視界が確保できないが、そこまで構造が複雑ではなく、問題なく攻略可能になっている。

 竜王の城は複雑になる上に無限ループがあるが、ループする箇所はわかりやすくなっているので延々引っかかることはないだろう。また、先にレミーラを使ってマッピングしておけば、本攻略の際はたいまつを使ってMPを温存することもできる。


 ロトの鎧はメルキドで情報が入手できるので、そう難しくないはず。

 ロトの剣はおそらくノーヒントだが、竜王の城を攻略中に、いかにも重要そうな宝箱が見えるようになっている。


 やや問題なのはロトのしるし。メルキドにいるじいさんが在処を教えてくれるが、メルキドの近くに落ちているにも関わらず、ラダトーム城を基準に何歩と教えてくれる。いじわるクソジジイである。

 私はだいたいのありかを知ってはいたが、今回は知らない体でプレイすることにしていたので、いちいちラダトーム城から歩数を数えて入手した。

 しかし実は、自分で歩数を数える必要はない。ローラ姫を助けると「王女の愛」という重たいものをくれる。これを使うとレベルアップまでに必要な経験値の他、勇者が城から何歩のところにいるかを報せてくれる。どこにいようと常に王女に居場所を捕捉され続けるという恐ろしいアイテムであり、捨てることも売ることもできないが、これを使うことでロトのしるしの落ちている場所を見つけることができる、という仕組み。

 しかし、ロトの末裔であることを示す証がその辺に転がっているのはどうなのだろう。もし偶然誰かが拾ったら、そいつがロトの末裔ということになるのだろうか。実は「ロト」とは血縁ではなく呪いなのかもしれない。


 竜王の玉座の後ろに隠し階段があるのも、わかりにくいといえばわかりにくいが、これはいかにも怪しい玉座を調べるとヒントが出てくるので、そこまで酷くはないと思う。

 ただ、1階にある、扉の先にある階段が2つともダミーなのはクソってはいる。



 戦闘は常に1対1で、モンスターと仲良く順番に殺し合う。必ず交代で自分の行動フェイズが回ってくるので計画的に戦いやすい。

 戦闘のバランスはそう悪くないが、主人公にラリホーが確実に効くという極悪仕様のせいで、勝てるはずの相手に永眠することがある。せめて魔法の鎧やロトの鎧にラリホー耐性をつけて欲しかった。

 逆に、ドラゴンや悪魔の騎士、果ては竜王にもラリホーが効くことがある(ベギラマもたまに効く。ベホイミの回数を減らしてまで博打するほどのものではないと思うが)。このシリーズは伝統的にラリホーのバランスがおかしい。


 あと、全体に獲得経験値が少なめなせいで、このゲームでは延々と経験値稼ぎをしなければならない。ゲームプレイ時間の半分以上は経験値か金を稼ぐために同じところをうろうろする。フィールドのBGMが眠気を誘い、プレーヤーにまでラリホーをかけてくる。

 たとえば、終盤は必要経験値が4000になるが、メタルスライムで115、それ以外で一番経験値をくれる敵が100となっている。現実的には40~50くらいの敵と戦って経験値稼ぎすることになるので、80~90回ほど戦闘してようやくレベルアップとなる。だいたい1レベルあたり40分くらいかかる。



 ところで、このゲームでは勇者の名前によって成長の仕方が変わるシステムになっている。有名なところでは勇者あああいは強い。

 私はこのことをすっかり忘れていて、勇者えにくすでプレイしてしまった。えにくすは力と素早さが伸びるタイプで、ボーナスは0。最重要ステータスであるHPが1割減となる、辛い勇者である。



 竜王を倒しに行った勇者が大勢死んだ、という話から、この世界には勇者はたくさんいるようである。彼らがロトの末裔だったかは不明。

 個々に戦わないで、勇者軍団を結成すれば良かったんじゃないのか? と思うが、それは言わない約束か。



 SFC版『I・II』の"I"では、戦闘バランスや経験値の獲得量、ヒントの出し方、物価などが改良されており、遊びやすくなっている。戦闘が少々楽になりすぎている感はあるが、つまらない経験値稼ぎ作業が大幅に軽減され、サクサク進められるのはいい。


 一方で、難しくなっている面もある。ターンごとの行動順は素早さを元に決められるようになったため、敵味方が必ず交代で行動していた旧作に比べると不確定性がある。素早さが低いと思わぬ先制を食らって死ぬことも。


 竜王は特に第一形態が強化されており、ベホイミを使うように。ベホイミを連発されて粘られるとこちらのMPを消費させられ、第二形態戦で使えるベホイミの回数が減って辛い戦いになる。


 岩山の洞窟、竜王の城は構造が変わっており、FC版の記憶を頼りにしてもダメ。


 難しくなっているというより、改悪された点としては、竜王の城の階段が保護色で見えづらくなっている。よく見ないと見落とす。なんでこんなことになるのか。


 その他、ラダトームの町で追っかけの女の子を宿屋に連れ込んで「お楽しみ」できたり、マイラの温泉でぱふぱふを受けられるといった謎の演出強化がされている他、ガイラでせっかく鍵を使って扉を開けてもヒントもくれない部屋では鍵を返却してくれるようになった。FC版で「鍵返せよ!」と思っていたら、本当に返してくれるようになるとは。

 内輪受けのセリフや無意味なことを喋る人物は大幅にカットされ、攻略に関係のないセリフはそれなりに面白いものに差し替えられている。


『III』はオリジナル版ですでに完成されているゲームなので、リメイクすると余計な付け足しになってしまう感じがあったが、"I"は必要なものがいろいろ足りていないので、それを補って作り直してもいいだろう。

 とはいえ、オリジナルの"I"も、充分に遊べるゲームではある。経験値稼ぎが面倒くさいだけ。



 しかし、『ドラゴンクエスト』が自らの欠点を次回作で解消してきた一方で、『ドラクエ』に影響を受けてRPGを作った開発者達が、村人の無意味なセリフ、意地悪なヒント、クソダンジョン(これは『ドラクエII』のこと。"I"はそこまでエグい構造のダンジョンはない)、クソ経験値稼ぎ作業などといった悪い点を見本にしてクソゲーを産み出したのだと思うと興味深い。彼らはプレイしていて、こうしたクソ要素を「面白い」と感じたのだろうか。なぜプレーヤーに不愉快な思いをさせる要素ばかり抽出したのだろう。


『ドラゴンクエスト』は完璧なゲームではなく、なんらかの欠陥を抱えている。しかし、全くクリア出来ないほどエグいバランスでもない。おそらくクソゲー開発者はその点を見落としているのだろう。

 重要アイテムを道ばたに置いておくところは真似しても、そこをプレーヤーに探させるための誘導をちゃんとしなかったり、無限ループをわかりにくく仕込んで、ループしていることにプレーヤーが気付かないようなダンジョンを作る。

『ドラクエ』がクソ要素をそれほどクソでないところで留めていることが、かえってクソゲーを作らせる要因になったのかもしれない。そうだとすると罪深いゲームである。

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