Breathedge

 "Breathedge"は、ブラックジョークに満ちた宇宙サバイバルゲーム。


 全6章仕立てで、章ごとに若干ゲーム性が変わっていく。1章から3章まではクラフト系の宇宙サバイバルゲームだが、4章以降は宇宙シューティングゲーム+一本道探索ゲームとなる。



 ソビエトが崩壊しなかった世界で、主人公はおじいちゃんの宇宙葬儀に参加するため、宇宙葬儀船に乗っていた。その船に菜食主義団体が襲撃を仕掛け、船は大破。乗員は主人公と、主人公の相棒であるニワトリを除いて全滅。主人公は生き延びるために、ゴミをかき集めて装備や道具を作り、地球に帰るための手段を模索する。



 ソビエトやロシアの社会体制の酷さは西側諸国の作品でさんざんネタにされてきたが、本作はロシアのメーカーによるもの。つまり本場の自虐ネタである。そして、西側によるロシアネタと大して違いがないのが笑える。お役所仕事な官僚体制、とんでもないローテクで作られたボロい機械、勲章をじゃらじゃら付けるのが大好きな軍人、なにかと「同志」と呼び掛けるなど、よくあるソビエトネタはひととおり網羅されている。

 ないのは資本主義に対する敵意くらいか。本作では共産主義や資本主義のネタはほとんどなく、菜食主義やポリコレに対する皮肉の方が強い。



 主人公は当初、酸素ボンベを持っていないので、宇宙空間での活動は75秒しか行えない。短い時間制限の中で素早く宇宙に出て、金属などの使えるゴミをかき集めて素早く宇宙船に戻り、それで道具や装備などを作っていく。

 そうすることで保有酸素量や移動速度などが上がっていき、徐々に遠出できるようになっていく、という仕組み。


 ある程度ゲームを進めていくと、酸素ボンベなども作れるようになるのだが、初期の装備はコンドーム製のボンベや、わざわざ腐ったものを食って腹を壊してオナラをすることで推進するスラスターなど、ひどいものばかり。しかも、そのひどい装備で結構長いこと頑張らないといけない。まともな装備が作れるようになるのは第2章の終盤になってからである。

 当然、そんな装備では「ないよりマシ」程度の効果しかないため、プレイヤーはかなり長いこと船外活動において厳しい制限を受けることになる。


 その厳しさがこのゲームの面白さでもあるのだが、ゲームバランスが悪いと感じるところもある。

 それは、ガラスの入手が極端に難しいこと。メインクエストを進める上でガラスは必ず入手する必要があるが、手に入るところは一ヶ所しかなく、そこは低温のため、長いこと留まるとヘルメットが凍結して視界を奪われる。それは死を意味する。

 それを回避するにはアルコールを飲めばいいのだが、そうすると今度は視界がブレまくり、ヘルメットが凍結して視界を塞がれるのと結果的にはあまり変わらない状態になる。アルコールは罠アイテムである。いかにも役に立ちそうに見せかけて、実際には何の役にも立たない。


 ではどうすればいいかというと、凍結する前にすばやくガラスを取って離脱するしかない。そのためには、事前にガラスのありかや、そこに最短でたどり着くためのルートを把握している必要がある。何度か偵察を繰り返し、ルートを検討するのである。

 おそらく、このゲームで一番難しいのがここだろう。序盤に最難関のクエストを持ってくるのは感心しない。


 後になると凍結を完全に防ぐ宇宙服を作れるようになるのだが、そもそもガラスが必要とされる時点で、凍結を遅らせる装置が作れたってよかったはずである。



 序盤が厳しい一方で、第2章で宇宙ステーションが作れるようになると、難度は一気に低下する。便利な装備が一気に作れるようになるためである。

 たとえば酸素ボンベは、宇宙ステーションを作るまではコンドームボンベに頼るしかなく、ずっと酸素が100秒しかもたない状態でプレイすることになるが、宇宙ステーション建造後は一気に275秒に増やせる酸素ボンベが作れるようになり、3倍近く活動時間が延びる。もう少し徐々に増えるようにできんのかね。

 その上、宇宙車まで作れるようになり、この車に乗っている間は酸素を消費しなくなる。つまり、酸素による活動限界が実質的になくなるのである。極端すぎる。



 宇宙ステーション建設以降は、サバイバルゲームの要素はだいぶ薄くなり、指示されるままに素材を集めて指定されたものをクラフトして所定の位置に設置するお使いゲーと化す。

 この傾向は章が進むごとに増し、第3章は第2章の延長で、ワープできる宇宙船を修理するミッション。

 第4章以降は船外活動そのものがなくなり、宇宙空間の移動は宇宙船のみとなる。そして、各ドッキングポイントを回ってクエストをこなすのだが、これがまたひどい。

 無意味に曲がりくねって長くしただけの一本道を延々と進み、突き当たりで設計図を手に入れたら、元来た道を延々と戻り、宇宙船で指定のアイテムをクラフトしたら、また、さっきの長いだけの一本道を延々と進み、所定の位置にクラフトしたアイテムを納品したらクリア。そうしたらまたさきほどの一本道を延々と引き換えとして宇宙船に戻り、次のポイントに移動する。そしたらまた一本道のダンジョンが待ち受ける。それを5回くらい繰り返す。


 第5章、第6章はストーリーを追いながら指示されたまま進めるだけだが、最後に無駄に難しいラスボス戦がある。無限に出てくる敵に全方位から撃たれるというクソシチュエーションで、面白くもなんともない。


 このクソラスボスを倒すとエンディングになり、その後は今まで行ったことのある場所に自由に行けるようになる。つまり、自由に宇宙ステーションをクラフトできるようになるわけだが、このゲームのクラフトシステムは底が浅いので、あんまり遊べない。



 つまり、ゲーム的に盛り上がるのは宇宙ステーションを建設できるようになるまでで、それ以降はぐっとつまらなくなってしまうのである。



 もっとも、このゲームに散りばめられているブラックジョークを堪能できるようになるのは、ゲームとしてはクソ化する第4章以降だったりする。


 このゲームでは、宇宙服に搭載されたAIが皮肉を聞かせた台詞をしゃべりまくるのをはじめ、全編がブラックジョークに満ちている。

 しかし、酸素量の厳しい序盤では、そのジョークを聞いている暇がない。制限時間が75秒しかないのに、だらだらと無意味なことを喋っているのを聞いている暇などない。

 宇宙空間には様々なゲームや映画のオマージュが転がっているが、時間に余裕のないプレイヤーは「役に立つアイテムかそうでないか」でしか物を見ていない。「『トゥームレイダー』のオマージュだな」などと、元ネタが何かくらいはちらっと考えるが、重要なのは「要るか要らないか」。「あ、要らんわ。捨てよ」で終わりである。


 また、序盤にはなけなしの資源を使ってクラフトしたアイテムが全く使えなかったり、決死の思いで辿り着いた脱出用の宇宙船が全く役に立たないなどのジョークがあるのだが、こっちとしてはそんなジョークで笑っている余裕がない。「はあ? これ、作るだけ無駄だったの? ふざけんな!」と思うだけ。


 AIの皮肉たっぷりのおしゃべりや、ゲーム内にちりばめられているパロディネタなどを拾えるようになるのは、酸素を管理する必要がなくなり、資源にも余裕があり、ゲームとしてもただ長いだけの一本道を行ったり来たりするだけで退屈になってからである。

 しかし、このときはこのときで、ゲームのクソゲー化っぷりにイライラしているのだが。



 厳しい制限の中で短い船外活動を繰り返し、徐々に活動範囲を広げながら宇宙を探索する、という基本的なゲームコンセプトは面白い。ただ、雑なゲームバランスや底の浅いクラフトシステムによって、せっかくの面白さが損なわれてしまっているのが残念な作品。しょうもないジョークに力を入れるよりも、基本的なシステムを強化してほしかった。

 また、4章以降は完全に蛇足。4章以降のしょうもない一本道ゲーに費やしたリソースは1章、2章に費やすべきだったと思う。


 逆に、ジョークのほうが重要なのだとしたら、酸素量などはシビアにせず、笑っていられる程度の難度であるべきだったと思う。まあ、死にそうな状況で皮肉を連発するのはロシアらしいとは思うが。



 ゲームをプレイしていて、わかりにくいところがいくつかあったので解説しておく。


 宇宙ステーションは、空間さえあればどこにでも作れる。宇宙ステーションのチュートリアルミッションでは既存の宇宙ステーションを修理するため、既存のステーションを拡張する形でしか建設できないと勘違いしやすいが、実際は違う。むしろ既存のステーションからは離れた、そこそこ周囲になにもないところに建設した方がいい。

 必要なのはディスペンサーと、モジュールを作るのに必要な素材のみ。何が必要かはディスペンサーで「建造する」を選び、建造予定のモジュールにカーソルを当てればわかる。


 モジュールには「管理用」、「居住用」などとあるが、どれも一緒。この区別には意味がない。重要なのは大きさだけ。


 乗り物を作るには、モジュールの床に「輸送プラットフォーム」を建設する必要がある。建設してアクセスすれば、乗り物を作るインターフェースが出てくる。


 マヨネーズの中に入ると先が見えなくなるが、ライトを点けると見えるようになる。まさかこんなところでライトが役に立つとはね。ここ以外じゃ使わんのに。……というか、マヨネーズって不透明だから、ライト点けても意味なさそうなんたがね。

 しかしこれ、プレイしたことのない人には意味不明な話に見えるだろう。宇宙でマヨネーズ? 中に入る?


 宇宙ステーションでは、物を入れるコンテナは作れない。最初の宇宙船のような物入れの付いたモジュールは存在しない。代わりにスーツケースがコンテナとなる。



 あと、プレイする際の注意だが、変なところでスタックして動けなくなることがよくあるので、セーブはこまめにしたほうがいい。ただし、変なところでセーブすると詰んで最初からやり直しになりかねないので、確実に安全で死の危険がないことが確認された状況でのみセーブすること。


[2023.01.29 追記]

 このゲームは宇宙版"SUBNAUTICA"と評されることが多い。というわけで"SUBNAUTICA"をプレイして比較した。

 両方プレイした人なら、"Brethedge"が明らかに"SUBNAUTICA"をパクっていることはすぐわかると思う。隠す気すらない。


 ただ、"Breathedge"は"Breathegde"でオリジナリティもある。このゲームならではの良さはある。ただ、どうせパクるなら、"SUBNAUTICA"のいい部分はそのまま踏襲して欲しかった気はする。明らかに劣化している箇所もある。


 ざっと両者の違いを列挙する。


 "SUBNAUTICA"は海洋惑星を舞台にしており、海面に出ればどこでも酸素を補給できる。しかし"Breathedge"は宇宙なので、いちいち脱出ポッドに戻らないといけない。ここがまずだいぶ異なる点。序盤の厳しさは"Breathedge"の方が上。


 "SUBNAUTICA"は指示やヒントが少なく、プレイヤーに自分で考えてプレイするのを要求するが、"Breathedge"はタスクを順番にこなすタイプとなっており、次に何をやるべきかはわかりやすい。


 "SUBNAUTICA"は、設計図を作るための残骸が多数あり、ある場所で残骸を見落としても、他の場所で見つけることで設計図は完成するようになっている。

 "Breathedge"はスキャンできる残骸が決まっており、そこで見落とすと設計図は完成しない。特にベッドの見落としは結構痛い。ベッド自体はたくさんあるのに、スキャンできるベッドはひとつだけというのは理不尽な気がする。

 その点、"SUBNAUTICA"は、ベッドならどれをスキャンしても設計図が作れる。"Breathedge"もこういう仕様にして欲しかった。


 "Breathedge"は1章では敵が登場せず、2章も大した戦闘があるわけではないが、"SUBNAUTICA"は序盤から危険な生物に襲われるリスクがある。


 "Breathedge"は4章以降別ゲーになるが、"SUBNAUTICA"は最後までサバイバルクラフトゲーのまま。むしろ、なぜ"Breathedge"は途中からクソゲー化してしまうのだろう。なぜ一本道お遣いゲーになるのか。その方が不思議である。

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