Outer Wilds

 "Outer Wilds"は、宇宙船に乗ってある星系を探検する、一人称視点のアドベンチャーゲーム。いくつかの星を巡って、そこにある異星人の遺跡を探索する。


 宇宙探検ゲーであり、謎解きゲーであり、遺跡探索ゲーでもある本作。私なら絶対好きに決まっているだろうと思い、プレイしたのだが……


 ……あんまり合わなかった。


 これはかなり意外だった。これだけ私の好きな要素がてんこ盛りなのに、イマイチなんてことあるのか?



 序盤は文句なく面白い。

 最初は、そもそも自分が誰かもわからないまま始まる。焚き火の前から始まり、そこが村らしいことがわかり、人々に話しかけるうちに、自分が4つ目で3本指の生物だということを知る。

 そして新米の宇宙飛行士らしくて、この星系に散らばる3つ目の異星人の文明を調査するために宇宙船に乗って旅立つらしい。

 で、実際に旅立ち、変な惑星に辿り着き、異星人の遺跡を調べてワクワクする。そうしているうちになぜか突然画面が切り替わって、最初の村に戻される。

 どうやら死んでやり直しになったらしいが、なぜ死んだのかさっぱりわからん。すげえ、意味わからん! 楽しい!


 序盤はこうして、何もかもがよくわからん状況で、純粋に己の知的好奇心を満たすために探検ができる。この間は楽しい。

 操作しづらい宇宙船と格闘したり、謎の装置を見つけて適当に動かしてみたり。タイムリープする瞬間に何が起きるのかを観察したり。



 しかし、ある程度情報が集まってきて、自分が置かれた状況や、自分がすべきことが見えてきた時点で、途端につまらなくなる。

 結局のところ、このゲームは謎のタイムリープを止めることが目的で、そのための情報集めをするゲームなのである。


『スカイリム』とかだと、ここでメインクエストをほっぽり出してプレイヤーが好きなように遊べる余地がある。タイムリープなんかどうでもいいじゃん、俺はただ己の知的好奇心の赴くままに遺跡が調査したいだけなんだ! と。

 しかし残念なことに、本作で得られる情報は、全て「タイムリープを止める」という目的に集約されるようになっている。プレイヤーが何かをやれば、それは全てメインクエストをクリアする目的に近づいてしまう。


 メインクエストの流れに反抗したいなら、焚き火でひたすらマシュマロを焼いて食ったり、あるいは何もない無限の宇宙へとひたすら進んでみたりとかするしかない。しかし、そうした行為は非生産的であり、知的好奇心を満たす何かがあるわけではない。実績は解除されるが。


 余談になるが、本作の実績は、メインクエストと何も関係ない。普通だったら大半の実績はメインクエストの進行に従って解除されるものだが、本作の場合、クリアした時点で解除実績0ということもありえるようになっている。本作で実績を解除しようとすると、非生産的で無意味なことをしなければならなくなっている。ちゃんと焼けたマシュマロではなく、燃えて焦げたマシュマロをひたすら食うとか。珍しい構造である。



 諦めてメインクエストをクリアするために情報を集めようとすると、それはそれでムカつくことになる。行き方がわからずに苦労する遺跡ほど、ろくな情報がないのである。さんざん苦労して行き着いた先で、すでに知っている情報、特に有力でもない情報をゲットしたときの落胆ぶりったらない。


 ネットで本作の感想を読むと、私と真逆の感想を書いている人が多い。序盤はよくわからなくてつまらないけど、中盤から面白くなってきた、と。

 ということは、私の感性は多くの人とは真逆らしい。



 別につまらなかった、というわけではない。それなりには楽しめたし、そんなに大きな不満があったわけでもない。謎解きのいくつかはクソだったが。ただ、中盤以降の私の気分の盛り下がりっぷりは隠しようもなかったというだけ。


 断片的な情報がタイムリープの止め方に集約されていくゲームの作りは、一般的には受けが良かったのだろうし、そういう意味では正解なのだろうが、私はそこが気に入らなかった。そんなのどうでもいいから、Nomaiの生活様式とか、何食ってるかとか、各惑星の植生についてとか、そういうどうでもいい情報をたくさん蒐集できる中で、ついでにタイムリープを止める手段も見つかるくらいの塩梅のほうが良かったと思う。


 本当に目的も何もなく、ただ宇宙を探索するだけのゲームだったほうが、私は楽しめたのだろう。『太陽のしっぽ』がめちゃくちゃ好きだったわけだから。しかし、それでは英国アカデミー賞のベストゲーム賞は獲れなかったのだとも思う。やはり、たいがいのプレイヤーは、目的がはっきりしているゲームのほうが好きだし、その方が評価されやすいということなのだろう。


 あと、本作をプレイするとマシュマロが焼きたくなるので注意。探すと意外と売っていないため、あらかじめ買っておくといいだろう。



 というわけで、以下はネタバレありの話。


 まずは行き詰まっている人のために、ヒントを提示しておく。

 なお、ここでヒントを提示しているものは、ゲーム中のヒントがクソだから挙げている。ここで行き詰まるのはプレイヤーのせいではなく、ゲームデザインのせいである。だからヒントを見てクリアしてもいいと私は思う。



 ヒントその1。燃え盛る双子星の北極にある湖底の洞窟。

 ゲーム中のヒントがクソなのでわかりづらいが、この洞窟は量子もつれの状態にある。つまり、月のかけらと同じ挙動をする。量子もつれとか言うと知的でハイカラでナウでヤングな感じだが、実際はゲームではよく使われる手法であり、古臭いゲームによくある理不尽謎解きのパターンのひとつに過ぎない。

 なお、燃え盛る双子星には、ここ以外にも、いかにもな感じでサボテンとかで塞がっている通路があるが、そこではこのテクニックは使えない。この湖底の洞窟限定。

 サボテンはアンコウと並んで本作におけるムカつく生物ニ大巨頭である。燃やせたらいいのに。



 ヒントその2。アンコウ。

 ゲーム中のヒントがクソなのでわかりづらいが、アンコウは、こちらを探知するまで動かない。そして、こちらを探知する条件は音と、アンコウに接触したときのみ。空気の流れとかでこちらを察知したりはしない。思ったよりも馬鹿な生き物である。

 ヘッドホンを付けてプレイすると、アンコウの呼吸音が聞こえる。その音が聞こえるときはブースターを吹かさないほうがいい。

 サボテンとアンコウを焼き殺せるビームを撃てるようになるDLCが500円くらいで出たら、買う人が結構いる気がする。私はたぶん買う。そして22分であいつらを絶滅させるチャレンジをやる。



 ヒントその3。クラゲ。

 たぶん、たいがいの人はクラゲを見てその利用法自体は気付くと思うが、試してみて失敗して「え? 違うの?」と困惑したと思う。

 あなたの考えはたぶん正しい。ただ、クラゲの当たり判定が無駄にシビアなだけ。ゲームのせいであり、あなたのせいではない。「このクソゲーが」と呪いの言葉を繰り返しつつ、めげずにチャレンジしてほしい。南無。

 どうしてもわからない場合は、闇のイバラにいる先輩がヒントをくれる。このヒントもわかりづらいっちゃわかりづらいのだが。


 これは開発者が、一人称視点で何の指標もなく三次元座標を完璧に合わせるのは難しいという、ゲームの基本すらわかっていないでデザインしているからこうなる。ゲームの一人称視点は片目を瞑っているのと同じだから、奥行きを認識しづらい。だから本来ならプレイヤーを補助する機能が必要。その、あるべきものが用意されていないから無駄に難しくなっている。



 ヒントその4。量子の月。

 ゲーム中のヒントがクソなのでわかりづらいが、量子の月の「観測」には、写真撮影した月を眺めることも含まれる。一方、偵察機のカメラが月を向いていることは「観測」には含まれない。

 物理学的におかしい話だが、このゲーム内では写真の月を見ることが月を観測することと同義になるらしい。

 本作では写真は1枚しか保存できないから問題は起きないが、写真を見ることが月を観測することと同義になるなら、位置aにいる月の写真と、位置bにいる月の写真を同時に「観測」したら、月は位置aとbの両方に同時にいることになる。これはおかしいだろう。

 まあ、ゲームの謎解きが物理に反してたっていいのだが、それならそれでちゃんとわかるようにして欲しい。量子もつれとかいかにも科学的なことを言いながら、非科学的な解法というトラップはアンフェアである。



 ヒント5。打楽器。

 最後の最後で、打楽器の取り方がわからずに発狂した人もいるんじゃないかと思う。私も発狂した。「なんでここにきてわけのわからん謎解きで詰まらなきゃならんの? おかしいだろこのクソゲー!」と思った。

 電波探知機にはズーム機能があるから、使ってみるがいい。ここでしか使わない機能だぞ! やったネ! クソが。




 私が行き詰まったところ集。ヒントで出したところは省く。



 脆い空洞の南極観測所。

 標識に沿って進んでも、ちっとも目的地に辿り着かねえ。役に立たない標識ほどムカつくものはない。これも特定の時間限定でしか行けないのかもしれないが、ノーヒントなのでわからん。

 結局、宇宙船で無理やり観測所の底に突撃して強行突破した。観測所の底だけ妙にブラックホールの引力が強いが(こういう、変なところでゲームゲームらしいところが気に入らない。なんで開発者の都合良く、ブラックホールの引力の強さが場所によって違うのよ)、勢いをつければなんとかなる。


 ここでわかることは、巨人の大海の深海に行く方法だが、それは私はすでに知っていた。私が知りたかったのは、さらに奥に進む方法だった。もっと言えば、クラゲの中に入るという方法が本当に正しいのか、だった。何度か試したが失敗して感電死していたので。

 つまり、ここに来たことはまるで何の意味もなかったわけである。あんなに苦労したのに。クソである。



 脆い空洞の重力鍛冶場。

 崩れる前だったら行けるのか、むしろ崩れたあとの方が行けるのかとさんざんいろいろ試した。

 そのうち、光っているのがワープゾーンだということがわかり、ワープを使えばいいということはわかったが、それはそれで面倒くさいことがわかった。脆い空洞に行って鍛冶場を上げ、灰の双子星に行ってワープすりゃいいわけなのだが。

 で、面倒くさい手順をこなして辿り着いたその先には、特にめぼしい情報はないのであった。

 ……このゲームって、苦労するところほどろくな情報ないよね。



 量子の月で北極に行く方法。

 ここは行き詰まったわけではないが、無駄に面倒くさい。月には、南極の周辺が障害物に囲まれている月と、北極の周辺が障害物に囲まれている月がある。

 そこでまず、北極の近くまで行ける月に行き、塔に入ったら、南極が囲まれている月に行き、北極の塔に入る必要がある。

 具体的には、闇のイバラや巨人の大海の月から炉辺の月などに行き、それでようやく北極に辿り着く。

 どこに行くかはランダムだから、何度も無駄なワープを繰り返すことになる。

 本作にはこういう、解法がわかってなお面倒な謎解きがいくつかあって、そこがあんまり好きでない。何十年前のゲームの謎解きだよという古臭さがある。



 灰の双子星プロジェクトから出る方法。

 ワープゾーンは、ゾーン内に物体がある内は作動しない。これに気付くのに結構かかった。


 プロジェクトに行くには、タイミングよく流砂の中のワープゾーンに突撃する必要があるわけだが、私が最初にプロジェクトに入ったときは、流砂がなくなってから行ったので何も問題なかった。ただ、これだと時間切れ寸前なので、ろくに調べる間もなかったわけだが。


 しかし、次に入ったときは、偵察機をワープゾーンに置いて、偵察機がワープしたのを見計らってワープゾーンに入った。このほうがタイミングを視覚化できるから簡単。かしこい!

 しかし、偵察機をワープゾーンに放置したままだったので、ワープコアを取って出ようとしたとき、ワープゾーンが機能せずに閉じ込められてしまったのである。


 え? なんで? 最初に入ったときはワープコアを取り出してもワープゾーンは機能していたのに? と、結構困惑した。

 しょうがないからコアを元に戻すと、ワープゾーンが再起動したので、ますます混乱することに。

 実は、コアを戻す時に、知らない間に偵察機を呼び戻していただけだったのだが、私にはワープコアを元に戻したからワープ機能が復活したように見えた。

 おかげで、原因に気付くのに2ループもかかってしまった。



 座標の打ち込み。

 ワープコアを持ち逃げし、闇のイバラの船に持ち込む際、焦ってアンコウで死ぬ人はままいるらしいが、座標の打ち込みで行き詰まって死んだ人の話は見たことがない。私はそんな珍しい馬鹿である。


 私は用意がいいので、座標はあらかじめメモっていた。どうせどこかでこの図形を入力する装置があるんだろと。

 その予測は正しかったわけだが、私は図形を書き間違えていた。最初の文字は「く」の時に似ているのだが、よく見ると上辺が下辺より長い。しかし私は両辺の長さが同じの「く」の字として書いていた。おかげで、何度座標入力してもワープが機能しない。

 なんで? とか思っているうちにタイムオーバーで死んだ。


 私の死因とは関係ないが、あの座標入力やり辛くない? あそこで操作性を劣悪にする必要はないと思うんだけど。まあ、そのことと私が死んだことは関係ないんだけどね。私が死んだのは純粋に私が馬鹿なだけなんだけど。



 瞑想の仕方。

 瞑想の仕方はクリア後に知った。さっさとループしたいときは自殺するか、ゲームを終了して再開していた。

 瞑想の仕方を知ったとき、そうか、別に太陽に突撃したり、宇宙服を脱いで宇宙にダイブしなくてもリセットできたんだな、あの死は全くの無駄だったんだなと感慨深かったが、すでにゲームをクリアした後であり、知ったところで何の役にも立たないのであった。

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