第44話 明君、お茶をっ!!2


 まくらさんが机のお茶を差し出してくれる。


 ナイスアシストだった。


「あっ、ありがとうございます。……ずずずっ!?」


 しかし、それは罠だった。


 急いで飲み込んだそのお茶は――


「熱つぅいっ!? これっ、あつ、これあっつっ!? これっ、ごっほげほぉっ!?」


 熱すぎてまるで飲めない、というか火傷やけどした。


「あ、明君っ!? すぐに水を持ってきますからねっ!?」


 俺が苦しみに涙を浮かべ、まくらさんが立ち上がる。


 そんな時だった。


 部屋の障子が、勢いよく開かれる。


「この阿保共あほどもがっ!!」


 縁側えんがわへと続くその場所に、せんと呼ばれていた鬼が立っていた。


「大切な話し合いだと思うて身をひそめておれば、なんじゃそのうっすーい内容の会話は!? 煎餅の値段など興味ないわ阿呆! お茶が熱いことぐらい察してから口にしろ阿呆っ!! 貴様らにはもっと真剣に話さなきゃならんことが山のようにあるじゃろうがっ!! わらわの気遣いを無下むげにしおって――貴様らは、本当に何をしておるのじゃっ!?」


 はたから見ていて、我慢の限界だったのだろう。


 睨みつける鬼を前に、俺とまくらさんは不自然な体勢で停止している。


 ……本当に、俺達は何をしているんだろう。


 俺は悲しく思いながらまくらさんへ視線を向け、深呼吸してから口を開く。


「あの、東雲しののめを助ける方法って、本当に――ごほっ!? なっいっ、ごほっげほ……」


 恰好かっこう付かず涙目になる俺を見て、鬼は盛大にため息をついた。


「……とりあえず茶でも飲んで落ち着け、この阿呆がっ」


 そうして、俺は改めてお茶を飲む権利を得たのだった。

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