第77話 刀オタク3


「実は刀に使われる刃鉄はてつ心鉄しんてつには炭素の含有率がんゆうりつが違うという特徴があり、この含有率によって硬さと靭性じんせいの差が生まれ、また熱膨張率ねつぼうちょうりつも異なります。つまるところ、刀のりというのは刀匠が付け加えたモノではなく、日本刀を作るに当たって必要不可欠な要素であり、この反りこそが日本刀の醍醐味だいごみのひとつであると私は思って――」


「この刀オタクがっ!!」


 二人で顔を上げ、工房こうぼうの入り口を見れば、もの凄い剣幕けんまくせんさんが立っていた。


瑠衣るいの飯を冷まさせるつもりか!? 早く来い阿保共あほどもがっ!」


 千さんはそれだけ言って、背を向けて帰っていった。


「……熱処理の話だけに、少し熱くなってしまいましたね」


「……そうですね」


 まくらさんは恥ずかしそうに頭をかき、眼帯がんたいを付けながらまとめに入った。


「つまるところ日本刀のりとは、二種類の鋼の特徴により存在しており、この刀身はこれから熱処理を行うために反りが無いという訳です」


 まとめて話してもらえたことで、なんとなく理解はできた。


「面白い話をして頂いて、ありがとうござました」


 考えてみれば、本物の刀匠からこんな説明をしてもらえるなんて、中々ない経験だろうと思う。社会見学と比べたら、素直に面白かった。


 しかし、まくらさんは俺から礼が出るとは思っていなかったらしい。


 まくらさんは少しだけキョトンとして、苦笑をらす。


「ははは。大人気おとなげない話に付き合って頂いてありがとうございます。その代わりと言ってはアレですが、東雲しののめ君に苦戦しているようですね。私に何か手伝えることはありませんか?」


 まくらさんは、ボロボロな見た目の俺を察してくれたらしい。


 俺は腕を組んで、少しだけ考えてみる。


 俺の現状で抱える問題は、東雲への勝機がまるで見えないということだ。


 まくらさんに手伝ってもらえるなら、それに越したことはない。


「あの、それじゃ、頼みがあるんですけど――」


 俺の話を聞いたまくらさんは、素直に感心した様だった。


「どう思いますか?」


 不安を帯びた俺の問いに、まくらさんは笑う。


「面白い試みだと思います。是非、手伝わせてください」

 

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