第51話 オレンジジュースが好き1


「私はお父さんに引き取られてから、すぐに説明をしてもらった」


 瑠衣るいの言う〝お父さん〟とはまくらさんのことだ。


 瑠衣は注ぎ直したオレンジジュースを飲んで続ける。


「最初に聞いたときは子供だったし〝なんで他人のために私が死ななきゃいけないのか〟って、お父さんに訴えたみたい。でもね、お父さんはそんな私に平謝りしてくるのよ? 幼い私に向かって、大の大人が誠心誠意を込めて、それこそ辛そうな顔をしてだよ? でも、だからこそ、私は納得できたんだ。どうせ人間なんて、いつかは死ぬでしょ? それなら開き直って、その日が来るまでは全力で楽しもうって、決めたんだよね」


 瑠衣の告白は、今まで能天気に生きてきた俺なんかが口を出せるものではなかった。


「そして、私が高校に進んだ時、シノちゃんと再会したの」


 何も言えない俺が見つめる先で、瑠衣は言葉を続ける。


「あの施設で別れた後、シノちゃんは霊媒師として育てられたんだって。成績の良かったシノちゃんは、すでに一人前の霊媒師として活躍していて、新たな仕事を受けた。それは鬼を宿す私の様子を観察して、鬼の動向を逐一報告するっていう仕事。本当は仕事上の付き合いだったんだけど、シノちゃんと一緒にいるのは楽しかったなぁ。経費として落ちるからって、カラオケだって遊園地だって水族館だっていっぱい行ったし、ファミレスでも沢山お喋りした。少し帰りが遅くなってもお父さんはあんまり怒らなかったし、それこそやりたい放題で、私はこの二年間、シノちゃんやお父さんを困らせてたと思う」


 瑠衣の膨らんだ笑みは、涙へと変わる。


「先週、シノちゃんが、その日が近づいているって教えてくれた。その時のシノちゃんの悲しそうな顔を見て、本当に申し訳ないなぁって思ったよ。シノちゃんは私のことを運が悪かっただけだって言うんだけど、そんなこと言ったら、シノちゃんだって、死んじゃう私と仲良くするなんて辛かっただろうし、私は覚悟を決めてるから大丈夫って言ったのに、シノちゃんは鼻水すすりながら泣き出しちゃうし、私はそんなシノちゃんと友達になれて、本当に良かったって思ったの。本当に、心の底から、運が良かったなぁって、思ったの。一緒にいてくれてありがとうって、それだけで充分に私は嬉しかったのに。それなのに、なんで、シノちゃん、がっ。わ、私の、代わりに、そんなの、そん、な――」


 瑠衣は、音を立てて泣いた。

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