第52話 オレンジジュースが好き2


「さっき目覚めて――私が死ぬべきだってお父さんに言ったけど、それはできないって言われた。私は素人だから分かんないけど、口移しって術は発動に時間がかかるんだって。それこそ半年とか、もっと長い時間をかけた準備が必要で――でも、それって、つまりシノちゃんは、この日が来るまで、ずっと準備してきたってことだよね? ずっと前から、私の代わりにって準備をしてたんだよ? なんで、そんなことするんだろ? そんなのおかしいよ。そんなの、私は、絶対にっ、い、嫌だっ」


 空になったグラスを見て思う。


 瑠衣るいはオレンジジュースが好きだ。


 カラオケとかファミレスでドリンクバーを頼んだら、瑠衣がいつでもがぶ飲みすることを、俺は小さい頃から知っていた。


「私、どうすればいいのかな?」


 そんなことすら知ってるほど親しい人が、目の前で泣いていた。


 無力さに打ちのめされて、どうすることもできないと悲しみに暮れていた。


 その姿を見て、俺はようやく気付く。


「瑠衣はどうしたい?」


 なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだろう?


「そんなの――」


「そんなの、決まってるよな?」


 やりたいことがあるなら、やればいい。


 可能性があるのなら、素人だとか、足を引っ張ってしまうかなんて、関係なかった。


「一緒に東雲しののめを、助けに行くぞ」

 

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