第53話 あの泥棒ネコめ!1
俺たちが客間を出ると、廊下には腕組みをした母さんが立っていた。
その顔は不機嫌そうでもあり、悲しそうでもある。
「
瑠衣の方へ視線を移した母さんは、にこりと笑っていた。
それを嵐の前の静けさだと、瑠衣も気付いたらしい。
「……わかりました」
瑠衣は素直にそう言って、リビングへと姿を消す。
「ちょっと明に、伝えなきゃいけないことがある」
母さんにそう言われ、俺は母さんと客間に入りなおす。
正面に対峙するように座って、先に口を開いたのは母さんだった。
「あんな無責任なことを言って、どうするつもりなの? 責任とれるの?」
「……」
「私たち素人にできることなんて何もないかも知れない。霊媒師で最高峰まで上り詰めたお父さんだって、それを目指して死んだわ。本人はそれで本望かも知れない。私はお父さんが勝手に死ぬのも仕方ないと受け入れたわ。でもね、明? あなたは私が腹を痛めて生んだ子供よ?」
「わかってる」
「……わかってないわ」
「……俺は、親父と同じじゃない。俺だって、親父が先に逝って悲しかった。俺は勝手に死ぬ奴なんて大嫌いだし、死ぬ気なんてない。俺は絶対に生きて帰る」
「……」
「子供みたいなことを言ってるのだって百も承知だ。どっちも手に入れたいなんて都合のいいワガママを言ってることだって分ってる。でも、それはどっちも捨てられない大切なことでさ。だから――だから、俺に行かせてくれ」
俺をまっすぐに見つめていた母さんが、ため息をついた。
「……勝算はあるの?」
「
その言葉を聞いて、母さんは頭をかいた。
「たぶらかしたのは千さんかぁ。なんでウチの男どもはいつも千さんに甘いんだか? 本当にやられたわ。あの泥棒ネコめ!」
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