第54話 あの泥棒ネコめ!2


 あまり関係は良くないみたいだけれど、母さんとせんさんは、知り合いだったらしい。


 俺は勢いに任せて頭を下げた。


「わがままばっかり言って、ごめん」


 そんな俺の前で、母さんはため息をつく。


「顔を上げて、よく聞きなさい」


 母さんは俺と目が合うと、苦笑して続ける。


「生きて帰るって約束するなら、私にはあきらを引き留める理由は無いし、逆に渡すモノもある」


 客間には親父おやじ仏壇ぶつだんがあって、そこにある引き出しを母さんは開いた。


 そこに入っていたきりの箱を俺の前に持ってきて、ふたを外す。


 母さんが取り出したそれは、刀ののようなモノだった。


「これは、お父さんが最後に使った刀よ」


 刀という割に、それには刃先がついていない。


「【鬼殺おにごろし】っていう刀で、これを使ってお父さんは千さんを目覚めさせたらしいわ。この刀は鬼を殺せるハズの刀らしくて――これを明に、貸してあげる」


「……ありがと」


 俺の礼に、母さんは眉を寄せながら笑った。


「それよりも、約束は守りなさい」


「おう」


 俺は【鬼殺し】を手に持ち、リビングへ向かう。


「待たせたな」


 瑠衣に宣言するが、瑠衣は俺の恰好かっこうを見て笑った。


「……行く気満々なのはいいけど、着替えてったら?」


 俺はパジャマから私服に着替えて家を出た。


 瑠衣を自転車の後ろに乗せ、夏の夜道を走る。


「もっと飛ばしてっ!」


「振り落とされんなよ!」


 二人乗りで感じる夜風は、やけに心地よかった。

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