第64話 一流の主人公って奴


「だから、私は後悔こうかいなんてしてないし、このまま死んでしまっても満足。だからね? だから、獅子堂ししどう君やルイルイの気持ちは嬉しいんだけれど――」


「だから、なんだってんだ?」


 口をはさんだ俺を見て、東雲しののめは眉を寄せた。


「東雲の気持ちは、よくわかったよ」


 東雲が、なぜ瑠衣るいとの関係を俺に話しているのか、その理由に俺は気付いた。


「東雲が瑠衣を想う気持ちは本物で、東雲が瑠衣の身代わりになったのは望んだこと。だから、俺や瑠衣が東雲のために無茶をするなら止めたい。違うか?」


「話が早いじゃない。だったら」


「だがな、それは東雲だけの気持ちだ」


「……どういう意味よ?」


 東雲がまっすぐに見つめてきて、俺は答える。


「いいか? 東雲がやりたいことをやってるだけなら、俺や瑠衣だって、やりたいことをやるだけだ。そもそも、先に言っておくけどな? 俺は瑠衣や東雲みたいに、人のために自分の命をけられる凄い奴じゃないから安心しろ」


 俺の言葉に、東雲が笑った。


「そこは〝俺の命に代えてもお前を守る!〟っていうのが主人公じゃないの?」


 俺も笑って答える。


「おなみだ頂戴ちょうだいする主人公は三流だ」


「そうかしら?」


 俺の言葉に、東雲は小首をかしげる。


「知らないなら、教えてやるよ」


 俺はハッタリをかまして、ニヤリと笑った。


「一流の主人公って奴は、無理でもなんでも押し通して、どんな理不尽な状況でも完全勝利して、最後にハッピーエンドを掴む奴のことなんだぜ?」


 俺の言葉に、東雲の笑いが大きくなる。


「まったく獅子堂君って、本当に変わってるわ」


「そう褒めるなよ」


「これは――いえ、確かに誉め言葉ね」


 東雲はそう言って、右手を差し出してくる。


「何の握手だ?」


 俺の疑問に、東雲は少し恥ずかしそうに視線をらす。


「獅子堂君を、栄光ある私の友達二号にしてあげる」


 俺は手を握り返し、その言葉を頂戴することにした。


「これから、よろしくな」


「獅子堂君にとっても二人目の友達でしょうし、大切にしてね」


 不敵に笑う東雲を見て、少し腹が立つ。


「ぼっちで悪かったな!」

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