第65話 俺達の朝ごはん1


 二人でふすまを抜けたところで、廊下を歩く鬼、せんさんと出くわした。


 廊下はかなり余裕のある広さだけれど、それでも千さんの体格からすれば窮屈きゅうくつそうではある。


 そんな千さんはまゆを寄せて腕を組み、俺たちを値踏みするように見つめて一言。


「初日から夜這よばいとは大胆だいたんじゃな」


「ふざけないで下さい」


 東雲しののめにぴしゃりと言われて千さんは笑う。


「冗談じゃ。さっさと行くぞ? 腹が減ってはいくさは出来ぬじゃ」


 三人でダイニングキッチンに向かうと、台所には瑠衣るいが立っており、机には新聞を広げる着流きながし姿のまくらさんがいた。


「おそろいですね。おはようございます」


 まくらさんが顔を上げ、挨拶をしてくれた。


 俺たちが三者三様に挨拶を返していると、台所の瑠衣もこちらに気づいた。


「みんな、おはよう!」


 瑠衣は私服姿にエプロンを着ていて、嬉しそうに笑っている。


「今日は多めに作ったから、がんがん食べちゃってね!」


 独り身のまくらさんに代わって、この家で料理を担当しているのは瑠衣だった。


 ご飯と味噌汁に、焼き鮭とサラダと、ついでに冷奴ひややっこ。食卓には五人分の朝食が手際よく並べられて、湯気を立てる味噌汁に俺は感動した。


 まさにシンプルイズベストな、素晴らしい朝食だと思う。


 五人揃ごにんそろって席に着くと、瑠衣が手を合わせながら口を開く。


「うちの朝の決まりなんだけれど、ご飯は家族全員で食べることにしてるから! これは居候いそうろうの千さんもシノちゃんもあきらも同じ。だから、何か用事があって揃えないときには、ちゃんと私に報告するように! それでは、いただきます!」


 瑠衣はそう言って箸を手に取る。


 いの一番に瑠衣はご飯を口に運んで美味しそうに食べ始める。


 そんな瑠衣を見ていると、


「はい」


 隣の東雲が箸を手渡してくれて「ありがと」と礼を言う。


「いただきます」


 こうして、俺達の朝ごはんが始まった。

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