第87話 ヒント2


「そういうことじゃな」


 瑠衣るいせんさんの出した結論は、俺の分の悪さを再確認しただけだ。


「……何かヒントとかありませんか?」


「ヒントのぅ?」


 思わず口にした俺の言葉に、千さんはあごに手を当ててうなる。


「そういえば、気になることがある」


 千さんは俺の【鬼殺おにごろし】を見つめて、


獅子堂ししどうわらわの鬼が対峙した時、鬼が【鬼殺し】に気づいて警戒しておった話はしたな?」


 俺がうなずくと、千さんは言葉を続ける。


「最初のぶつかり合いの時、鬼は確かに獅子堂の隠しておった【鬼殺し】を前に警戒して飛び退いたのじゃが、その後、獅子堂の構えた【鬼殺し】を見つめて――鬼は笑っておった。わざわざ飛び退いて回避したはずの【鬼殺し】への警戒を、一目で解いたのじゃ」


 千さんの言うことが正しいなら、確かにそれは変だと思う。


「鬼はその後、【鬼殺し】のことを〝なまくら〟とすら口にしておったのじゃ。実際、獅子堂の【鬼殺し】は鬼には効果が無く、鬼は圧倒的に有利だったのじゃが――それならば、なぜ鬼が最初に警戒したのかが理解できぬ」


「鬼はつまり【鬼殺し】の見た目で何かに気づいたってことですか?」


「そうなるのぅ」


 俺は手にある【鬼殺し】を改めて見つめる。


 刀のに見える【鬼殺し】には俺の霊力によって白い刀身が生まれていた。


 使い方で見た目に変化があるとしたら、それは刀身だろうか?


 親父は俺よりも優れた霊媒師だっただろうが、俺と同じように【練磨れんま】によって刀身を生み出していたのであれば、その見た目は大きくは変わらないはずだ。


 つまり、俺と親父は【鬼殺し】の使い方を根本的に間違っているということか?


 俺は不意に、まくらさんが話してくれた日本刀の話を思い出していた。


 日本刀が東洋剣よりも優れた切れ味と耐久力を持ち、その独特のりを生む理由は――


「千さん」


「なんじゃ?」


「少し試したいことがあるんですけど、手伝ってもらってもいいですか?」

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