第57話 童子切安綱1


「少しお待ちください」


 そう言い残したまくらさんが客間に戻ってくると、その背後には鬼――せんさんの姿があった。


「なんじゃ、もう戻ったのか?」


 千さんの言葉は、瑠衣るいに向けられたものだ。


わらわはあれほど激しい親子喧嘩など初めて聞いたぞ? ご近所トラブルにもなりかねんし、時間を考えて夜間は静かにしてほしいものじゃ。まぁ、まくらはろくな飯も作れんゆえに、瑠衣が戻ってきたのは妾にとっては僥倖ぎょうこうじゃがの?」


「わ、私にもゆずれないモノがあるの!」


 あざけるような千さんと唇をとがらせる瑠衣に、まくらさんがやれやれと口を開く。


「集まってもらったのは口喧嘩をしてもらうためではありません。千さんだって、東雲しののめ君を助けたい気持ちはあるでしょうし、ここはご協力をお願いします」


 軽く頭を下げるまくらさんに、二人はバツが悪そうにしていて、俺にはそれが面白かった。


 四人で客間に座り、まくらさんが改めて口を開く。


「まず、大前提だいぜんていとしてなのですが、鬼を殺す方法は確立されていません。それが霊媒師れいばいしの常識であり、そのため、身寄りのない子供を殺すことで鬼を縛り付ける方法が受け継がれておりました。その方法に異を唱えていたのが――明君の御父上である獅子堂ししどうまことさんです」


 親父おやじの名前があがってどきりとする。


 初めてしっかりと聞く、親父の話だった。


「まずは鬼について、もう少し詳しく話しましょう」

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