第56話 至極単純


「家出はもう終わりですか?」


 瑠衣るいの持っていた鍵で瑠衣の家にあがると、玄関にはまくらさんが待ち構えていた。


 うなずく瑠衣を見て、まくらさんは苦笑いだ。


「立ち話も何ですし、また客間で続きをしませんか?」


 先ほど拒絶されたばかりなのに、丁寧に向かい入れられて困惑する。


「どういう風の吹き回しですか?」


 俺の問いに、まくらさんは薄く笑った。


「お二人は東雲しののめ君を助けたいんですよね?」


 二人でうなずくと、まくらさんは言葉を続けた。


「私の行動理念は至極単純です。お二人に動き回られて邪魔をされるのが億劫おっくうであるためと、私にはお二人に無駄死にしてほしくないため――いえ、これでは最も大切な理由を話していませんね。……私は純粋に、お二人と同じく、東雲君を助けたいんですよ」


 まくらさんは自嘲じちょうするように笑って、俺たちを客間に通してくれた。

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