第2話 プロローグ2


 普通の刀と違って刀身とうしんが柄にめり込んでいる部分しかないために、重心がずれ、玩具おもちゃのように軽い。普通の刀であれば斬り下げる力に重力も付加できるが、それも難しそうだ。


「本当にコレで鬼が切れるのかねぇ?」


「誰が名付けたのか〝鬼を殺す〟など名前負けもはなはだしいと思います。出来うる限り再現致しましたが、刃鉄はてつどころか心鉄しんてつすらも術者の能力に任せるじゃじゃ馬など、獅子堂さんぐらいしか扱えないでしょう」


「……普通の刀じゃ、どちらにしろ斬れねぇのは検証済みだしな」


 それに、こいつは日本有数の鍛冶屋かじや繊月せんげつ】の跡取り、刀匠まくらの渾身の一刀だ。


「鬼と対峙たいじするのに、これ以上の刀はねぇよ。……こが本当の鬼ってか?」


 獅子堂の軽口に、まくらが困ったように笑う。


「頼みがあるんだけどよ? 俺が無事に帰ったら、またカップラーメンでも作ってくれや」


「……最後に言う台詞がそれですか?」


 まくらの非難の言葉に、獅子堂は「それなら」と、改めて口を開く。


「俺に何かあったら、咲夜さくやあきらを頼むわ」


「……私のところにはすでに瑠衣るいがいます。それにも関わらず、獅子堂さんは私に子持ちのバツイチをあてがう気ですか?」


 眉を寄せるまくらの背中を獅子堂は叩く。


「隠しきれてねぇんだよ。お前は今でも咲夜に惚れてんだろ? 甲斐性無しの俺なんかより、まくらの方が絶対に幸せにするってのに、女って奴はわけわかんねぇよな?」


 まくらはやれやれと首を振って、


「本人が言うべき台詞ではありませんね」


 獅子堂が笑い返すと、まくらはため息をついた。


「ご武運を」


「おう」


 獅子堂はまくらに背を向け、石段へと足をかけた。


 そんな獅子堂の背後から、まくらのつぶやきが届く。


「咲夜さんにとって、獅子堂さんの代わりなんていませんよ」


 獅子堂はそれに気づかぬふりをして、石段を登り始めた。


 まずは、目の前の敵を見据えるべきだろう。


 この山頂にある神社の境内けいだいに、鬼が封じてある。


 神域まで利用して封じ込めているにも関わらず、ここからでも妖力を感じるのは驚きだ。


 このまま放置しておいたら、三日も持たずに結界が破られるかも知れない。これほどの鬼が人里に現れれば、どれだけ被害が出るのか見当もつかない。


 石段を登り切った先にあるのは、鳥居と朽ち果てた寺だった。

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