第19話 据え膳食わぬは男の恥1


「いつも思うけど、痛くないのか?」


「そうね?」


 俺の純粋な疑問に、彼女は小首をかしげて答える。


「文字通り、死ぬぐらいには痛いかな?」


「死んだ奴にしか分かんねぇ答えだな」


「私の開発した霊体ギャグなんだけど、どう思う?」


「笑えねぇ冗談はやめろとしか思えねぇ」


 俺の言葉に、彼女は笑う。


 曲がった足を「えいっ」と可愛い仕草で向きだけ直し、ようやく立ち上がった彼女は腹を抱えていた。そうしないと彼女の腹からは内臓がまた飛び出てしまうからだが――その姿は痛々しくて、俺は失礼だと思いつつも、どうしても視線を反らしてしまう。


 後頭部も少しだけ潰れているが、彼女はもともと整った顔立ちをしていて、短い黒髪もあわせて考えれば、彼女は生きている人間と同じように視える。


 俺たちは、さきほど彼女が落ちたマンションの入り口に向かって歩き始める。


 このマンションの五階には、彼女の家がある。


「今日は行くって昨日にも伝えただろ。なんで思いとどまってくれなかったんだよ?」


 俺の非難の言葉に、彼女は困り顔になった。


「夜になるのが、怖かったから」


 そう答えた彼女が死んだのは、すでに三年も前のことらしい。


 彼女が実際に投身自殺をしたのは、夕方が終わる直前――太陽が沈む時間帯だった。


 つまり、彼女にとっての飛び降り時刻は、季節によって若干異なるらしい。


 ……彼女のように死んだ直前の出来事を繰り返す霊というのが、たまにいる。


 その中には死んだことに気づいていない霊もいれば、彼女のように罪滅ぼしでもするかのように、永遠とその行為を繰り返す者もいるようだった。


「もともとは可愛いんだから、その無茶をいい加減に辞めろよ? 俺はそんな美人が頭を凹ませるのを見せられるのは嫌だ」


 俺のぶっきらぼうな言葉を、彼女は笑って受け流す。


「褒めてくれたお礼に、パンツぐらい見せてあげようか?」


 彼女はスカートに片手をかけ、お嬢様の挨拶のようにたくし上げる。


 彼女の足は少しだけ曲がったままだが、その太ももの白い肌は、何とも言えない魅力を放っている。元々は普通の女子高生なんだから、当然と言えば当然だけれど。


「……ゆ、幽霊のパンツなんか見ても嬉しくねぇよ」


「少し考えたでしょ?」


 図星を突かれて、少し焦る。


「考えてねぇっての」


 彼女はやれやれといったジェスチャー付きで首を振った。


「まったく、獅子堂君はそういう態度がダメね。ぜんわぬはおとこはじよ。それに、女の子から誘っているのに乗らないなんてヘタレだわ」


「はいはい、俺はヘタレですよ。でもな、死んだ奴にいわれる筋合いなんて――」


獅子堂ししどう君じゃないか!」


 マンションに足を踏み入れたところで、声をかけられた。

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