第23話 幽霊デビュー2


 そんな告白をするはずきが、とても不憫ふびんに思えた。


 俺はたまらず口を開く。


「俺は死ぬことが正しいとは思わないし、理由もなく死にたい奴がいるとは思えない。でも、はずきはそれを望むんでしまうほど、追い詰められたんだろ? なんていうか、その――」


 はずきが、きょとんと俺を見ていた。


「頑張ったな」


 俺の言葉を聞いたはずきの目にはみるみる涙がたまっていって、それがほおを伝っていった。


「なっ、なんで、泣いてんだよ!?」


 なんてことだ!


 励まそうとしていたのに、女の子を、その、泣かせてしまった。


「むしろ、なんであきらあせってるのよ?」


 目に溜まった涙を拭うはずきの笑顔が、まるで理解できない。


「……どういうことだよ?」


 俺をまっすぐに見つめながら、はずきはくすくすと笑う。


「なんで分かんないかなぁ? これは嬉し涙だよ。分かったよ。分かりました。本当は知ってほしくなかったけれど、明には私の過去を知る権利をあげましょう!」


 上から目線の宣言に、思わず苦笑する。


 なんだ、そういうことか。


 それならば。


「ありがたき幸せ! この権利は我が家宝として代々受け継いでいこうと思います」


「うむ! 苦しゅうない!」


 はずきは俺の言葉に、笑いながらうなずいてくれる。


 エレベーターの扉が開き、俺たちは505号室へ向かった。


 玄関の鍵を開け、電気をつける。


 俺がこの部屋に入るのは、今日で十回目だ。


 2LDKのその部屋には、すでに何も残っていない。


 俺達は靴を脱いでリビングを通り、はずきの部屋へと入る。


 電気をつけると、収納スペースしか残されていない部屋がそこにはある。そこははずきの部屋だった場所だが、すでに生活感は皆無で、物がないゆえに空いた空間が肌寒く感じる。


「明?」


 俺が床に座って封筒に手をかけると、はずきが口を開いていた。


「……怒らないって、約束してくれる?」


「心配すんな。俺はどんな内容でも、はずきの味方でいたい」


 はずきの困り顔に引っかかりながらも、俺は報告書へと視線を落とした。

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