第97話 鬼を殺せる刀2


「……」


 鬼の言葉は本当だろうか?


 すじは通っているような気はするけれど、証拠は何もない。


「中から視てた俺は、この娘が儀式によって殺されるのが許せなかった。だって可哀想すぎてよぉ。こんな風に宿主やどぬしが殺さるのを黙って見てられるハズがねぇ。だから、俺は不完全な状態でもいいから目覚めて霊媒師れいばいし共を追い払ってやったってワケよ。あきら君ならこの気持ちが分かるよな? 本当は霊媒師共も傷つけたくはなかったんだが――そこは素直に俺の落ち度だ。申し訳ないと思ってるんだぜ?」


「……」


「この結界を消して見逃してくれるなら、俺は山奥でひっそりと暮らす。誰も襲わないと約束するぞ? だから、俺とこの娘を助けてくれよ。頼むよ」


「……駄目だ」


「あぁ?」


「その条件は飲めない」


「……なぜだ? 鬼に殺されるしか能のない人間共に、これ以上の条件はねぇだろう? このまま鬼が人間を喰らうことを考えたら、これ以上に良い結末なんて無いハズだろうが?」


 鬼の目が鋭さを増した。


 でも、俺の答えに変わりはない。


「そもそも、お前には俺に取引を持ち掛ける理由が無い。つまり、お前には、まくらさんの結界を破るすべがない。だから、甘い言葉で俺を操ろうとしてる――それだけだろ? それに、中から視てたならわかるはずだ」


 鬼は俺を睨んでいる。


 それを俺はまっすぐに見返してやった。


「お前の条件を飲んだら、東雲しののめを助けられないだろうがっ!」


「ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっひひひ!」


 鬼は俺の言葉を受け、腹を抱えて笑う。


 笑うたびに牙がガチガチと音を立てているが、俺を見下す眼だけが笑っていなかった。


「お前はこれから、くっだらねぇ自己満足で死ぬぞ?」


 鬼は舌なめずりをして、俺を見下す。


「どちらにしろ喰う気だったけどよ? やっぱ、お前を視てても〝旨そうだなぁ〟としか思えねぇ。もう我慢できねぇよっ!!」


 鬼は脚を曲げ、腕を地面につけた。


 まるで四足歩行の動物が飛び掛かる前の、分かりやすい攻撃態勢。


「いただきます――ってかぁ?」


 鬼が、飛んだ。

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