第16話 幽霊が視える、理由4


 俺の言葉に、東雲しののめはうなずいた。


 ゴマちゃんのように大往生だいおうじょうした幽霊は生前と同じく綺麗な姿をしているが、事故死した幽霊とかは死んだ直後の姿で、それこそ、こちらを驚かすようにして現れることもある。


「視える幽霊たちは、私たちに、助けを求めてる――か」


「俺はそうだと思う。それで、その……ゴマちゃんは暇で遊びたいだけだろうな。でも、だからこそ、ゴマちゃんの相手をしてくれた東雲にはお礼が言いたくてさ」


 俺は握手を求めて、右手を差し出した。


「いつもゴマちゃんの相手をしてくれて、ありがとな」


 俺の右手をみて、東雲は困ったように眉を寄せていた。


「実は私、この幽霊が視えてしまう体質が嫌いだったの。だって、私にとってそれは、厄介ごとを運んでくるだけで、私にとって良いことなんてまるで無かったもの」


 しかし、東雲は俺の目を見て、しっかりと手を握り返してくれる。


「でも、獅子堂ししどう君と話せてよかったわ。私は私の体質が、少しだけ好きになれそうよ」


 東雲は笑顔を作り、改めて口を開く。


「……それにしても、私は馬鹿ね」


「どういう意味だ?」


 俺の新たな疑問に、東雲は少し言葉を選んで答える。


「前々から、やけに獅子堂君が私の事を見てると思っていたけれど――獅子堂君は、私じゃなくてゴマちゃんを視ていたのね。さっきだって告白されるとばかりに思っていたし、これじゃ自意識過剰もいいとこだわ。ごめんなさい」


 伏し目がちになる東雲にかぶりをふる。


「東雲ぐらい美人ならそう思うのも仕方ないというか、こっちこそ勘違いさせて悪かったよ」


「その言葉は、誉め言葉として受け取っておくわ」


 東雲のまっすぐに向けてくる笑顔はとても素敵で、それだけで恋に落ちてしまいそうになるのをなんとか耐える。


「最後に話せてよかったよ。体を大切にな」


「ええ。獅子堂君も元気でね」


 こうして、俺と東雲の、最初で最後になるであろう会話は終わりを迎えたのだった。

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