エピローグ

第103話 エピローグ


 全てが終わって、俺は東雲しののめせんさんとまくらさんの四人で、夜の住宅街を歩いていた。


「人が倒れておるのに、そのはしで愛の告白とはふざけた奴らじゃ」


 ふてくされる千さんが口を開いている。


 先ほど鬼に胸をつらぬかれたにも関わらず、三十分もしたら千さんはケロっと復活した。気づけば、俺の切り落とした右腕も再生しているし、鬼の身体能力の高さはやっぱり驚異的きょういてきだ。


「ふざけているのは千さんの治癒能力ちゆのうりょくですよ。まったくうらやましい限りです」


 そう口を開いたのはまくらさんだ。


 まくらさんは俺が鬼と戦っている間に、一応は治療ちりょうを受けたらしい。


 その着流きながしはやぶかれていて、のぞく腹は包帯でぐるぐる巻きにされているから痛々しい。


「……そんな大怪我で病院に行かなくて大丈夫なんですか?」


 俺が心配すると、まくらさんはニコリと笑う。


「これぐらいの傷は自力で治します」


「……まくらは馬鹿じゃからのぅ。瑠衣のご馳走を食べられるように無理しておるのじゃ。心配せずとも、妾がまくらの分も食べてやるというのに」


 ニヤリと笑う千さんに、まくらさんはバツが悪そうに眉を寄せる。


 意外なことに、あれだけ怪我人がいて、死傷者は誰も出していなかったらしい。


 ……それは素敵なことだと思うが、まくらさんの立場であれば、いろいろとするべき後始末もあったハズだ。そんなまくらさんは、その全てを他の霊媒師れいばいしに任せてここにいてくれていた。


 まくらさんはやっぱり親馬鹿で、瑠衣るいのご馳走ちそうを一番食べたいのはこの人だろうな。


 俺の感想をよそに、東雲が申し訳なさそうに千さんを見上げていた。


「……千さんは、人間に戻りたいとは思わないんですか?」


 俺の【鬼殺おにごろし】を使えば、千さんも普通の人間に戻すことができるだろう。


 しかし、千さんは迷わず答える。


「鬼の体は慣れれば便利じゃからなぁ? 身体能力も治癒能力も人間であったころとは比べ物にならぬし、わらわはむしろ、この体に感謝しておる」


 確かに、鬼の体は恐ろしく丈夫で、割り切ってしまえば便利かも知れない。


「まぁ、ひとつだけ鬼にも不便ふべんな点があるから小娘には進めぬがのぅ?」


「その不便な点って何なんですか?」


 俺の素直な疑問に、千さんはまたニヤリと笑う。


「鬼の体では、いた殿方とのがたと夜の営みができぬ」


「ふ、ふざけないでくださいっ!!」


 東雲が顔を真っ赤にして怒っていて、俺もそれを見て恥ずかしい。


 それにしても、こうやって四人で無事に帰れているのが、嘘のように思えた。




 俺たちがこうしていられるのは、みんなが俺を助けてくれたからだ。


 俺はここにいる三人だけじゃなくて、瑠衣にも、はずきにも、母さんにも助けられた。俺は誰かを助けたいと思い続けた一方で、結局のところ、みんなに助けられてばかりだった。でも、意外と世界は単純で、そういったモノが巡り巡って人を幸せにするのだろうか。


 視えないものが、そのままこの世に存在しないことと同義ではないように。


 それらは目に視えないだけで、ありふれたことなのかも知れない。




「ただいま!」


「お帰り!」


 まくらさんの家の玄関では、瑠衣が待ってくれていた。


「冷めないうちに、みんなで食べるよ!」


 こうして、俺たちの楽しい夕食が始まった。




   おわり

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