第一章 幽霊が視える理由

第6話 黒猫


 夕暮れ時の教室は、その全てがあかね色に染められていた。


 その日、俺は図書委員での仕事を片付けた帰りで、教室にかばんを取りに戻ったのだが、そこには先客がいた。


 彼女は黒い長髪を投げ出して、自分の机に突っ伏している。


 眠っているのかと思いきや、彼女は何かをでるように手を動かしていた。


 こんな時間に何をしているんだろうとよく見れば、彼女の机には黒猫がいた。


 彼女は丸まって眠っている黒猫の背を撫で続けている。


 そこだけ時の流れが遅いような、不思議な空間だった。


「何か用?」


 不意に、彼女が教室の前で立ち尽くす俺に気づいた。


 突き刺すような視線と、不機嫌ふきげんそうな声色こわいろに、俺の時間も戻ってくる。


「いや、悪い」


 俺は彼女から視線を外し、自分の机に向かう。


 鞄を手に取った所で気づく。


 先ほどの黒猫の姿がない。


 まるで最初からいなかったかのように、黒猫の姿だけが教室から消えていた。


 あいつ、やっぱり、俺のことが嫌いなんだろうか。


 俺だって、本当は仲良くしたいのに。


 俺よりも早く黒猫と仲良くなってしまった彼女のことが、少しだけ気になった。


 俺が東雲しののめ乃々華ののかを意識したのは、それが最初だった。


 今になって思えば、俺はこの時点で、すでに彼女を特別視していたのかもしれない。

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